100年前の新聞社がTwitterを使ったら……? 過去のニュースをリアルタイムでつぶやく「百年前新聞」が“最高に面白い”と話題(3/4 ページ)
「百年前新聞」の運営者に、インタビューもしました。
「戦争は日常生活の中にじんわりと染み込んでいく」
――過去の新聞の情報を発信するというのは、大変面白いコンセプトだと思うのですが、なぜ「百年前」にしたのでしょうか。
百年前新聞・社主さん: 一番はサライェヴォ事件から開戦までの1カ月に興味があったからです。あと、150年前(江戸時代)だと旧暦の計算が大変だし、50年前だと歴史の感じがしないという理由もありますね。
それから、これはちょっと歴史学的な話になってしまうんですが、歴史学者のエリック・ホブズボームは「長い19世紀」「短い20世紀」という概念を提唱しました。詳細は省きますが、そこでは第一次世界大戦が始まった1914年を時代の転換点としているんですね。
じゃあ、1914年に大戦が始まったその瞬間、まったく違った時代に突入したのかというと、そんなはずはない。歴史上の時代はゆるやかに変化していくはずです。ですので、第一次世界大戦のときの社会の変化をリアルタイムで追いかけていくことで、「20世紀」を捉えなおすことにもつながるかなと思いました。
実際やってみると、世界大戦がどれだけ大変なのかも分かりました。第一次世界大戦は1914年7月から1918年11月まで続いた戦争で、教科書ではせいぜい5〜6ページくらいです。でも、ご自身が2014年7月と2018年11月のときに何をしていたか思い出してもらったら分かると思うのですが、意外と長いですよね。
私はこの期間に転職もしましたし、おいも生まれました。たぶんほとんどの人がいろいろな変化を経験したはずです。そう思うと、教科書の行間ではさまざまなことが起きていたわけです。そうしたことを感じやすいという意味でも、100年前の世界大戦をTwitter上でなぞることが正解だったと思っています。
この期間、毎日記事を書き続けたことで、時代がじわじわと変化していくことを実感しました。第一次世界大戦が始まったとき、1870年の普仏戦争から40年以上もたっていて、若者たちは戦争の悲惨さを知りません。だから最初はあっけらかんとして明るく戦場に向かうんですね。見送る方も同じです。
でも時間がたつにつれて、戦場は凄惨さを極めていきます。戦車が投入され、毒ガスが使われ、飛行機が空を飛びました。戦場の兵士の意識が変わるのは当然でしょうが、戦場ではない銃後の人々もゆっくりと意識が変わっていくんですね。
例えば「百年前新聞」でもニュースにしたのですが、1918年のカリフォルニアでは「リス週間」のイベントが開かれました。子どもたちに向けた、農地を荒らすリスを捕まえようというイベントなのですが、これは「リス戦争」と呼ばれ、ポスターにはドイツ兵士風のリスのイラストが描かれました。つまり、子どもに「リスを捕まえることはドイツと戦うことと同じ」と教える意図があるわけです。
ほかにもフランスでは幼児向けにABCを教える絵本で、Aは「大砲(artillerie)」、Bは「爆弾(bombe)」などと描かれています。これも日常生活の中にじんわりと戦争が染み込んでいって、ゆっくり時代が変化していく例かなと思います。
ただ現場では逆に、敵兵同士が助け合う場面もあったみたいです。パッシェンデールの戦いという悲惨な戦いがあったのですが、ドイツ兵が泥に沈んでしまった敵兵を助けている写真があるんですね。もちろんレアケースでしょうが、人はそう簡単に人を殺すことなんてできないとも思えるし、少しの希望を感じます。こういう事例が伝えられたのも、100年前を選んでよかったと思う理由です。
総理大臣が「ニコニコ」 今と昔の報道の違い
――百年前と現在とで報道に関して大きく違うと思う点は何ですか。
百年前新聞・社主さん: いくつかありますが、当時の新聞を読んでいると、プライバシーは守られていないなと思います。ちょっと取材に応じただけの人なのに簡単に名前を出してしまうし、場合によっては所属や年齢、住所も大っぴらにしてしまいます。
あと、100年前の新聞記事には勢いがあります。1920年に起きた南海電車の衝突事故を伝える記事は次のようになっています。
電車が突然脱線し車首を上り線路に向け乗客総立ちとなりて大騒ぎ(略)アハヤと云う間に正面大衝突を為したる
(大阪毎日新聞 1920年10月20日)
「総立ちとなりて大騒ぎ」のあたりなんかは、情景が思い浮かびますよね。ほかにも1922年の帝国議会が閉会したことを伝える記事では、野党側に有利に運んだことが記事になりました。そのとき記者が上機嫌の加藤高明に取材をしているのですが、
記「お目出度う」加「ニコニコ」
(時事新報 1922年3月27日)
とあります。今だったら考えられないですよね。新聞記事に「ニコニコ」って。客観性に欠けるかなと思うときもありますが、読んでいて様子が思い浮かぶのは100年前の記事ですね。
反対に、昔も今も同じだなと思うこともありますよ。物価の上昇に怒っていたり、新発売のお菓子の広告が載っていたりするようなところは今と通じると思います。
たまに、ちょうど100年前と今がシンクロするときがあります。2020年、新型コロナウイルスの関係で学校の4月入学をやめて9月入学に変えたほうがいいのではないかと話題になりましたよね。入試の時期が寒すぎるというのも理由の1つだったと記憶しています。
実はちょうど100年前の1920年、東大が9月入学をやめて4月入学にするニュースがあったのですが、このときの理由が「試験の時期が暑すぎる」でした。ぴったり100年で内容も理由も似ている話題が出るなんて、ちょっと不思議な因縁のようなものを感じますね。
「『百年前新聞』の姉妹アカウントを始動する予定」
――最後に、今後の展望について教えてください。
百年前新聞・社主さん: 「百年前新聞」は現在、完全に趣味だけでしているのですが、9年間でフォロワーの人もかなり増えました。
今後の展開としては、「百年前新聞」の過去記事を探せるデータベースを何らかの形で公開したいと考えています。数年前の記事でもいまだに誤字を直したり、読みやすいように修正を加えたりしているので、いつかかなえたいですね。
それとは別に、「百年前新聞」の記事を実際の新聞風にレイアウトした紙版を作りたいと思っていて、これは思い付いてから数年たちました(笑)。あとプログラミングが好きなので、第一次世界大戦を舞台にしたゲームも作りたいんですが、道半ばです。
また、来年1月から「百年前新聞」の姉妹アカウントを始動する予定です。構想だけは前からあったんですが、ようやく準備が整ってきました。完全に準備できたら「百年前新聞(@100nen_)」のほうで告知しますね。
今年は10月くらいにイタリアで、11月にはトルコで、12月にはロシアで何かが起こりそうな予感があります。来年は9月ぐらいに関東地方で大きな出来事が起きそうな……。それまでにぜひフォローして、歴史をリアルタイムで感じてください。
今から100年前に生きていた人々はどんな生活を送っていたのか、今から100年後を生きる人々は現在の私達の生活をどう捉えるのか。過去から現在を相対化し、未来の生活を考えていくための参考となる「百年前新聞」は、Twitterで毎日更新中です。
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