インド映画「スーパー30 アーナンド先生の教室」が9月23日から公開されている。本作のベースとなっているのは、実在する教育者アーナンド・クマールの「実話」だ。
インド映画らしい歌やダンスも打ち出され、とにかくエンタメ性盛り盛りで楽しませてくれる本作は、日本から見てもひとごとではない問題も描かれている。しかも、「ええっ!? 実話なのにそんなことになるの?」という意外性もあったのだ。具体的な特徴と魅力を記していこう。
※以下、明確なネタバレは避けていますが、大まかな物語の流れや一部の展開に触れています。未見の方はご注意ください。
実践的な教え方そのものにワクワクする
タイトルになっている「スーパー30」とは、オバマ元大統領をはじめ世界中から称賛を集めた教育プログラムの名称だ。それも「貧しい家庭から優秀な頭脳を持つ30人を選抜して」「無償で食事と寮と教育を与えて」「インド最高峰の理系大学のIIT(インド工科大学)へ塾生を送り込む快挙を成し遂げた」、まさに革新的な内容だったのである。
劇中で描写されるアーナンド先生の教え方そのものが「破天荒」かつ「実践的」で、それぞれが知的好奇心をくすぐるものになっている。「雷はなぜ鳴る?」「扇風機はどうやって回る?」などなど日常にある疑問から学んだり、参考書を買うお金がなくても手作りプロジェクターを利用してみんなで一緒に勉強したり、果ては「街の真ん中で大っぴらに英語劇に挑む」様も描かれる。
迫力のカメラワークや演出、さらにはVFXを駆使した凝った演出もあり、ビジュアルでの面白さを期待しても裏切られないだろう。
「ドラゴン桜」と似ているが、決定的に異なること
大学受験のための勉強のノウハウがエンタメになっていることから、漫画『ドラゴン桜』を思い出す方も多いだろう。「スーパー30」で主演を務めた大スターであるリティク・ローシャンの見た目も、『ドラゴン桜』のドラマ版での主人公の阿部寛にどこか似ていたりもする。
だが、『ドラゴン桜』と「スーパー30」には、決定的に異なることがある。それは「ドラゴン桜」は学力のなかった生徒たちに教えるのに対して、「スーパー30」ではもともと優秀な学力を有しているにもかかわらず、経済的な理由のために正当な場で学ぶ機会さえ与えられていない生徒たちを描いていることだ。その中には、学力とは全く関係なく、親から受け継いだ仕事に従事するしかなかった者も多い。
はっきり、インドの格差社会や、教育のシステムへの問題提起も本作には込められている。生徒だけでなく、教える立場であるアーナンド先生もまた、そのために夢を諦め苦しんでいたという過去にも、胸を締め付けられる方は多いだろう。
殺し屋が送り込まれるのも実話
前述した革新的な教育プログラムのおけるノウハウや、格差社会と教育のシステムに屈さずに学力で「最高学府を目指す」物語そのものが面白いのだが、さらに「殺し屋との受験戦争(物理)」が勃発することに度肝を抜かれた。しかも、殺し屋に襲われることは(後述するクライマックスの展開を除いて)まごうことなき実話なのである。
実はアーナンド先生には、予備校の経営者から拾われ、人気講師として豊かな生活を送り、恋人との縁談が順調に進んでいた過去があった。だが、彼はそれらを全て捨てて無料の私塾である「スーパー30」を設立したため、その経営者から裏切り者であるなどと恨みを買い、本当に殺し屋を送りこまれてしまうのだ。
これは単に経営者との軋轢(あつれき)というだけでなく、やはりインドの教育の格差、さらには予備校そのものが巨大なビジネスにもなっていることも理由にある。無料の私塾など、教育を金儲けの道具にしている立場からすれば「敵」そのものだったのだ。
もちろん、暴力により相手をねじ伏せるなんてことは言語道断の犯罪だが、それも未然に防がれることもなく、行使できてしまうインドの社会そのものが大問題なのだと、映画を見て思い知らされた。もちろん、時代(本作は2000年代を舞台としている)や地域により、状況は異なるとは思うが。
学んだことを武器にする「ランボー ラスト・ブラッド」
そして、アーナンド先生が「線路」であるとんでもない暴力を受けたり、銃撃戦が起こったりする様は、良い意味で「なんの映画を見ていたんだっけ!?」ともなる。果ては殺し屋たちを「迎え撃つ」様も描かれており、その展開は「ランボー」シリーズ、特に表現のハードさで話題を呼んだ最新作「ランボー ラスト・ブラッド」をも連想させたのである。
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