しかも、殺し屋との受験戦争(物理)では、高揚感のある音楽と歌詞に乗せて、「今まで学んだことを武器にする」ことにもなる。具体的なバトルの模様は秘密にしておくが、「インド版ドラゴン桜と思って見ていたのに、いつの間にかインド版ランボーになっとる……」という衝撃と面白さがあったことは告げておこう。
ちなみに、ランボーシリーズのような直接的な残酷描写はほぼないので、お子さんが見ても安心。いや、むしろ「学びの力は暴力にも勝る」とはっきりと示されるので、教育上もまっとうである。
なお、殺し屋が送り込まれたことそのものは事実ではあるが、さすがにこのクライマックスのバトルはフィクション部分が多いようだ(インドの大叙事詩「マハーバーラタ」を参照しているところもあるという)。アーナンド先生本人は「FRaU」のインタビューで「この映画の90%は本当に起きたことです」と明言しており、逆に言えば、このインド版ランボーな展開以外は(おそらく)真実を描いているというのもすごい話だ。
日本もひとごとではない問題
この「スーパー30」で描かれた問題は、日本でも決してひとごとではない。例えば9月には、全国初の「17歳の大学生」になるほどに優秀だったのにもかかわらず、経済的な理由から研究者の道に見切りをつけ、運送会社に就職した男性を取り上げた「プレジデント・オンライン」の記事が話題となった。もちろん運送業も社会に不可欠な大切な仕事だが、その優秀な学力が生かされず、本人がもっとも求めている仕事に就けない環境が醸成されているのは、社会全体で考えなければいけない問題だろう。
また、本作のキャッチコピーである「親ガチャなんて関係ない!」は、この映画の主題をうまく捉えている。親や環境に恵まれないことを、自嘲込みで言うネットスラングの親ガチャを、この「スーパー30」では真っ向から「それだけで人生が全て決まるなんてことは絶対にない!」と言い切ってくれる。そのことから、本当に勇気と希望をもらえる方は多いはずだ。
この後もインド映画を見ればいいじゃない
余談ではあるが、今秋は11月11日の「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」までは、ハリウッドの大作映画の新作がほとんど公開されない異例の事態になっている。ここで「ハリウッド映画がなければ、派手なインド映画を見ればいいじゃない」と提案したい。
例えば、10月1日より「響け! 情熱のムリダンガム」は、なんと日本では作品に惚れ込んだインド料理店が配給を手掛けている。つづられるのは、インド伝統音楽の打楽器「ムリダンガム」の奏者を目指す青年が、多くの壁にぶつかり、周りから疎まれようとも夢へ突き進む姿。師匠や父親との愛憎入り交じる様も含めた関係も見どころだ。
さらに、10月21日には、あの「バーフバリ」2部作のS・S・ラージャマウリ監督最新作「RRR アールアールアール」が公開。こちらは疾風怒涛のアクションの連続に加えて、「敵同士にしかならないはずの2人が運命の巡り合わせにより親友になる」という関係性のパワーがものすごく、3時間の上映時間中ずっと面白いという、2022年のベスト映画候補となる仕上がりになっていた。
さらにさらに、筆者は未見ではあるが、10月28日からは、仲良し3人組が独身最後のスペイン旅行に行く様をつづった「人生は二度とない」も公開となる。まさに今は「インド映画祭り」が起こっているのだ。
ぜひこのビッグウェーブに、「スーパー30」から乗りまくってほしい。
(ヒナタカ)
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今一番面白いやつ。