ITmedia ガジェット 過去記事一覧
検索
ニュース

「SF映画の使命は未来を守ること」ジェームズ・キャメロンが抱く危機感 「アバター」13年ぶり続編で伝えるメッセージ(2/2 ページ)

劇場文化も「このままでは滅ぶ」と警告しています。

advertisement
前のページへ |       

映画館を未来に残せるのか、いまがその分岐点 興収No.1監督が感じる危機

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」
13年ぶりの続編「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」

ーー 前作公開から13年。これだけの時間を要したことで、時代に合わせて変更したことはありますか?

JC 傲慢(ごうまん)に聞こえるかもしれませんが、1作目と同じような成功を収められるか悩みました。でも思い返せばアバターファミリーとの時間は本当に楽しいもので、続編に取り組むという考えは正しいと思えたし、「ロード・オブ・ザ・リング」のような3部作を作るか、「スター・ウォーズ」ような壮大な物語の一部と捉えるかと考えました。

 それには途方もない量の準備が必要で、脚本だけでなく、全てのキャラクターと生き物、環境をデザインし、同時に水中での撮影技術を向上させるため、新しいテクノロジーの研究と開発を行い、パフォーマンスキャプチャー技術をより良いものにする必要がありました。

 2017年9月に制作を開始しましたが、パンデミックのため6カ月間はストップしていたので、実質4年半がこの映画を作るため費やした時間。これだけの間、私の心に何か変化はあったかという質問でしたね。「全くない」というのが答えです。

 この物語は、家族についてという普遍的なテーマを扱っています。全ての文化、歴史に家族が存在し、この先の人類も変わらないでしょう。一方でサステイナビリティと自然破壊に関する問題は、1作目以来悪化していると感じるので、私たちがこの映画を作る意味の重要性はさらに増しました。映画制作は壮大な旅路で、多くを撮影し、山ほどのアイデアを試し、編集プロセスに入ると崩壊と精錬を繰り返し、不必要ものを削り取りながら伝えたいことを磨き上げるその様は、まるで彫刻のようです。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」
撮影中の様子、右は主演のサム・ワーシントン

ーー 前作は3D映画トレンドの波に乗り大いにヒットしましたが、今回も視聴にお勧めの環境は?

JC 第一に劇場で。ディスク化やストリーミング(配信)を待たないで。ストリーミングはいつでも映画を見ることができるし便利なものですが、この映画は劇場の大画面で見られるように作られた作品です。劇場でこの作品を見ると、きっともう一度見たいと強い欲求を感じるはず。「魚に気を取られているうちに話が進んでしまった」と何か見逃したように感じたり、「話は気になるけれどいまいましいことにやはり魚が……」となったりね。

 3Dが好きなら絶対に3Dで、3Dが苦手な方は2Dでご覧ください。これはさほど大きな問題ではなくただの好みで、3Dで見ないのならストリーミングを待つべきという話ではありません。個人的にはドルビービジョン、またはIMAXで見るのがお勧めです。

 またこうした設備の整った劇場が最も長く上映してくれると予測します。1作目は10週間連続ランキングトップでリピーターが増え、より良い設備を備えた劇場ほど長く上映していました。マーケットは予測不可能なものですが、長く楽しんでいただけるとうれしいですね。

ーー 「劇場の大画面で」ということですが、絵作りにはどんなこだわりがあったのでしょうか?

JC 非常に複雑で説明するには何時間もかかるのですが、要するにパフォーマンスキャプチャーを行う理由としては、特殊メイクはうまくいかず、ひどい見た目になってしまうから。登場人物をリアルに感じさせるためには、皮肉なことに、肌に青いペンキを塗ったリアルな俳優より、リアルではないCGの方がよかった。

 ナヴィの目はヒトと比べてはるかに大きく、パーツの配置も違う。また、メイクは基本的に足すものなので俳優の身体より大きくなってしまいますが、ナヴィはジャコメッティの彫刻のように背が高くてすらっとしている。身体的にCGでしか実現できない違いがたくさんあり、夢で見たようなルックスを実現させるにはCGがベストだった。リアルなようでリアルではない。ただし、観客は彼らを見ているとき、こうした外見の差を認識していません。

「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」
海に住むメトカイナ族、ジェイクやネイティリら森の住人とは造形がかなり異なっています

ーー 理想の映像を作るために技術を追い付かせるのがキャメロン流。シリーズは今後3作の公開を残し、全5作での完結を予定していますが、これから開発したいものはありますか?

JC もちろん、制作過程を改善するために開発したいものはたくさんあります。例えばスピンオフ映画を作って「アバター」の世界をより広げ、マーベルやスター・ウォーズのようにユニバースを作る可能性もあります。そのためには制作期間を短縮し、必要な人数も少なくて済み、かつ簡単でコストを下げられるような方法が望ましい。AIやディープラーニングを使用する必要があります。

ーー 最後にキャメロン監督が映画の未来について思うことを教えてください。

JC 映画に携わる世界中の関係者が同様の問題を抱えていると思います。 ストリーミングプラットフォーム用に作品を作るのか、劇場上映用に作品を作りその後ストリーミングで公開するのか。業界にとってとても大きな決断です。もともと私はテレビと映画は別と考えています。

 私たちはまだ映画館を手放したくないのか、ちょうど分岐点にいると考えています。映画館の存続を望むのなら、腹をくくってそのために戦わなければなりません。パンデミックの間、多くの運営会社が廃業し、劇場が閉鎖されました。今、劇場は再開し観客が戻ってきているので、まだ希望があります。

 特に北米映画産業はストリーミングで興行収入を上げることに執心しすぎるばかりに、劇場運営を維持するための努力をおろそかにし、むしろ傷つけてきました。結局のところビジネスですからね。だから一般の視聴者、映画ファンは映画館に行かなければなりません。映画館に行くことで、映画を作る人、映画を配給する人に“劇場は大切だ”というメッセージを伝えなくてはならない。そうでなければ劇場文化は滅ぶでしょう。「アバター」のような映画、あるいは「トップガン マーヴェリック」、またはマーベル映画でなければ経済的に成り立たないのか。私たちは本当にまさに危機にひんしています。

ジェームズ・キャメロン監督
10年8カ月ぶりの来日

 今後の映画産業がどうなっていくのか、私には分かりません。この映画がヒットせず、「アバター3」「アバター4」「アバター5」と作るべき理由がなくなるかもしれない。パンデミック以来、世界は変わりました。収縮してしまった劇場市場を私たちは克服できるのか。そうであってほしいと思います。

 私はもはや恐竜といっていい。映画館向けの映画を作るのが好きです。監督として雇われればまだまだやれると思います。ストリーミングがストーリーテラーとして居続けるための唯一の選択肢というなら受けるでしょうが、それは私が愛する映画ではありません。私が初めて恋に落ちた映画とは別のものなのです。

(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』特別映像「パンドラは待っていた」編 12月16日(金)劇場公開

12月16日(金)全国劇場公開

■監督・製作・脚本:ジェームズ・キャメロン

■製作:ジョン・ランドー

■出演:サム・ワーシントン/ゾーイ・サルダナ/シガーニー・ウィーバー他


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る