巨大なパラボラアンテナが並ぶ敷地に、携帯電話使用禁止の注意書きが――ものものしい天文台の風景を、「インターネットやめろエリア」と表現したツイートが話題を呼んでいます。
写真を撮影した「風の谷の挫屈」(@sth_west)さんが訪ねたのは、長野県にある「国立天文台 野辺山宇宙電波観測所」(@NAOJ_Nobeyama)。文字通り宇宙から来る電波を観測している施設です。
「ここで電源を切るか機内モードにしてください」と、大きく書かれた注意書きを「ネット禁止」と解釈し、ネットミーム「インターネットやめろ」(※)と掛けて表現したツイートは、Twitter民のツボに入ったようで、「ここを超えたらスマホはどうなってしまうんだ……」「ここに自習室を作ってほしい(集中できるから)」などと話題に。また、過去に訪れた思い出を懐かしむ声もみられます。
※SNSが気になって仕事が手につかない、楽しみにしている作品のネタバレを踏みそう、不穏な発言が増えている……などなど、さまざまな理由でネットを控えるべき人に投げかけられる言葉
編集部は野辺山宇宙電波観測所を取材し、注意書きを設置した事情について詳しい話を聞きました。
―― この注意書きはいつからあるのでしょう
野辺山宇宙電波観測所: 今回話題になった見学コースの足元の表記は、2020年11月に設置したものです。ただ、「携帯電話等の利用を控えていただく」要請自体は、2000年代初頭からお願いさせていただいております。これは携帯電話と無線LANが普及してきたタイミングで、電波観測への混信がみられ始めたためです。当時は入口の守衛所にて来所手続きを行っていただく際に、係員から口頭でお願いをさせていただいておりました 。
それが現在は運用コスト削減のため、来所手続きは無人端末で実施しております。ゆえに通信のオフを口頭でお願いできなくなり、代わりに目立つ形で看板と足元への表記を行ったわけです。
―― このエリアではなぜ携帯電話の使用が禁止されているのでしょうか?
野辺山宇宙電波観測所: 野辺山宇宙電波観測所ではさまざまな天体からの電波を受信し、観測することで研究を進めておりますが、1000光年から100億光年もの遠くから来る電波は極めて微弱です。
それに対し、携帯電話や無線LAN等の通信機器が発する電波ははるかに強く、天体からの電波をかき消してしまいます。当観測所で観測を行っている電波の周波数帯は 15〜116GHzと、現在主流の携帯電話通信や無線LANが用いる周波数に比べると高周波ではありますが、通信機器からは使用している周波数の数十倍にも及ぶ周波数の電波もわずかに漏れ出ているため、宇宙電波観測に支障を与えかねません。そのため、携帯電話を機内モードにするか電源オフ、ならびに無線LANの利用禁止をお願いしております。
―― ネットでの反響について、感想をお願いします
野辺山宇宙電波観測所: 当観測所は運用開始から41年目を迎えており、国の研究機関としてはかなり古い施設となります。近年、コスト削減のため人員と設備の整理が劇的に進んだこともあり、一部のメディアから悲観的な観点で報じられたこともあったため、すでに閉所してしまったと勘違いされたかたもおられるようです。実際、ピーク時に100人ほどいたスタッフも今は14人、うち教員は2人のみとなり、所内のアンテナも大半は停止していますが……。
しかしながら、主力の45m望遠鏡は当時最先端の技術が投入されたことで、いまだに世界最大級のミリ波アンテナの座を守っており、41年の時を経ても全く陳腐化していません。さらに心臓部に当たる受信機は技術開発とアップグレードを繰り返し、世界最高性能を維持しています。そのため、45m望遠鏡は今でも世界中の研究者から観測に利用され、活躍しております。実際に、2023年のシーズンの稼働率も非常に高く、ほぼ休みなしで観測している状態です。
私たちとしても、このように苦労しながらもまだまだがんばっている現状を、できる限り発信するべくTwitter などを利用していますが、なかなか上手に活用できておらずもどかしさを感じているところでした。ですから、今回のようにツイートで言及していただいて、ありがたく感じております。
観測所としては、迫力ある電波望遠鏡群を見て体感してもらうことで、子どもから大人まで、できるだけ多くの方に宇宙や科学技術の魅力を感じていただきたいと考えています。2023年はイベントなども企画中ですので、来たことがある方も初めての方も、ぜひ遊びにお越しください。
画像提供:風の谷の挫屈(@sth_west)さん
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