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「甘いカレーなんて売れない」「レトルトなんて絶対できない」――“みんなの家庭の味”バーモントカレーの、知られざる60年間のあゆみ

読んだらきっと、カレーを食べたくなる!(提供:ハウス食品グループ本社)

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 ライターの神田(こうだ)です。みなさんが小さいころ食べて、今でも覚えている思い出の料理はなんですか?

 私は断然、実家で出てきたカレーライスです。とろっとして甘くて、あとを引く旨味があって、ごろごろ入ったじゃがいもがホクホクでいくらでもおかわりしてしまう………。

 家で作るカレーといえば、誰でも一度はキッチンやスーパーで目にしたことがあるであろう、ハウス食品の「バーモントカレー」。私の実家のカレールウも「バーモントカレー」でした。

 そんなバーモントカレーは、今年2023年でなんと発売60周年を迎えます。そして2月には、新しく「レトルト バーモントカレー」も発売されました

 こちらがバーモントカレーのレトルト版。発売の知らせを聞いて「今までなかったんだっけ!?」と少し驚いてしまいました。よく見慣れているぶん気づかなかった。

 長年家庭で親しまれてきたバーモントカレーですが、発売から60年を経る中で、いくつもの進化をしてきたのだそう。そして、今回初登場となるレトルトカレーにも並々ならぬ思いが込められているのだとか。

 ということで今回はハウス食品さんにお邪魔して、バーモントカレーの今までのあゆみと、今回発売されたレトルトカレーについてお話を聞いてきました。

 今回お話を聞かせてくださったのはこちらの3名の方々。


長江さん

バーモントカレーレトルトの開発に携わる、三島さんの上司。好きなカレーの具はたまねぎ。


三島さん

バーモントカレーレトルトの開発に携わる。好きなカレーの具は牛すじ。


白水さん

バーモントカレールウのリニューアルに携わる。1981年の入社以降、40年以上バーモントカレーと向き合ってきた。


 まさにカレーのプロといえる3名……! そんな方々に、まずはバーモントカレーの歴史について聞いてみました。

「カレー=辛い」が常識だった60年前、子どもと大人が一緒に食べられるカレーとして誕生

――バーモントカレー発売60周年、おめでとうございます。そもそもカレーというのは、60年前から家庭的な料理だったのでしょうか?


1963年発売当時のパッケージ(左)と、発売当時の新聞広告(右)

白水さん バーモントカレーは1963年に発売されました。今でこそカレーは老若男女幅広い世代の方に食べられていますが、当時は「カレーはスパイシーで辛いもの」という固定概念が今より強くあったんです。

 飲食店のカレーは辛いものばかり、市販のルウも辛味が強くて、家庭で作るときは子どもの味覚に合わせて調味料などを足して甘くする必要があったそうです。だからこそ、家族みんなが一緒に食べられるマイルドなカレーを作ろうということで開発が始まりました。

――発売当時、カレーは今ほどファミリー向けの料理ではなかったんですね。どのようにしてマイルドな味を開発したのでしょうか。


ポイントはやっぱり……!

白水さん 秘密は、バーモントカレーの代名詞ともいえる「りんごとハチミツ」です。当時家庭で子どもにカレーを食べさせるとき、辛さを抑えるため果物を加えていたことをヒントに、いろいろ試して「りんごとハチミツ」の組み合わせにたどり着いたんです。とろりとしたコクが出て、子どもも大人も食べやすい甘口になりました。

――辛いものが苦手な人にも喜ばれたでしょうね。でも当時「カレーといえば辛いもの」という認識が一般的だったということは、甘口のカレーにはけっこう反発があったのでは……?

白水さん 販売店からは「甘いカレーなんて売れない」とかなり反発があったと聞いていますね。社内でもかなり議論があったようです。ですが、テレビCMや試食宣伝活動で地道なPRを続けた結果、発売から数カ月後には爆発的に売れたそうです。

――固定概念を崩すイノベーションだったんですね。ちなみに「バーモントカレー」の”バーモント”はどこから来ているのでしょう? アメリカの州……?

白水さん そうです。アメリカのバーモント州に伝わる健康法に由来しています。発売前は「フルーツカレー」という名前だったそうですが、なんかしっくり来なかったと。そこで当時の副社長が、バーモント州のりんご酢とハチミツを使った健康法から名前をとったと聞いています。

おいしさそのまま、より簡単に? 60年間のバーモントカレーの変化

――発売から60年で、バーモントカレーの味はどう変わってきたのでしょうか。

白水さん ベースとなる味は60年ほとんど変わっていないですが、お客さまの好みやニーズの変化に応じて入念に微調整を重ねていますね。

 1963年にベースとなる甘口が発売されて、1972年に辛口、1983年に中辛が発売されています。辛味についてもニーズの変化があります。他にはコクの要素を増やすためにスパイスや調味料を足したりして、それが1980年当時だったかな。

――変わらないおいしさという印象は守りつつ、細かいアップデートを重ねてきたんですね。

白水さん 健康に配慮し、油の使用量を減らすほか、2023年のリニューアルでは食塩相当量を一皿あたり0.1g減らす改良を加えています。風味の底上げとなる塩を減らすとぼんやりとした味になりがちなので、さまざまな素材を試行錯誤しながら改良しました。バランスを保つのには苦労しましたね。そのほか、アレルゲン対応という面でもアップデートも重ねています。

ちゃんと読んでる? 実は考え抜かれている「パッケージ裏のレシピ」


実はパッケージ裏に、具材の量も水の量も細かく書かれています

――作り方でずっと気になっていたんですが、具材を炒めたあとに水を入れるのはどうしてでしょう? 私は急に冷たくすると野菜に悪いかもと思ってお湯を入れたりしていたのですが。

白水さん 水を入れて煮込むのは、具材からしっかり旨味を引き出してあげるためです。いわばブイヨン作りですね。お湯だと旨味が出切らないので、水を入れるようにしてください。また、一度にたくさん作ると、旨味のもととなる具材もそのぶん多いわけですから、よりおいしくなります。

――そうだったんですね! ではルウを入れるときに火を止めるのはどうしてでしょう。私はつい火を点けっぱなしで入れちゃってたんですが……。

白水さん これは、鍋の中でダマになっちゃうのを防ぐためです。火を消してからかき混ぜたほうが失敗しにくいので、誰でもより確実に作っていただくためにこう書いています。

――ダマができてしまうのは、横着して火を止めないままルウを入れていたからなんですね……。気をつけます。


長年の秘伝メモが記された白水さんのノート

――白水さんがルウの開発をされる中で、お客さまから寄せられた声でうれしかったことはありますか?

白水さん そうですね。甘みと辛味と香りのバランスがいいだとか、ふわっと軽くて食べ飽きないだとか、そういった声をいただけたのは非常にうれしかったですね。風味というのは本当に繊細なバランスで、塩味や甘みがほんの少し変わるだけで、バーモントカレーじゃなくなってしまいます。バーモントカレーのルウは、バランスの調整にこだわってきたハウス食品の努力の結晶ともいえますね。

――ではバーモントカレー本来のおいしさを味わうためには、ちゃんとパッケージ通りの作り方で作ったほうがいい、と。

白水さん ぜひ一度は、パッケージ裏のレシピ通りに作ってみてほしいですね。具材と水の配分も考え抜かれたものなので。また「甘口」を食べたことがない方もいると思いますが、バーモントカレーのルーツとなった味なので、そちらも食べてみてもらいたいです。

――……懺悔します。ここまで磨き抜かれたバランスがあるとはつゆ知らず、勝手に隠し味でコーヒーとかヨーグルトを足してしまっていました。

白水さん いえ、それは家庭ごとに“わが家のカレーの味”があるはずなので、私は気にせずやってもらっていいと思っています。だから否定するつもりはまったくありません。

――でも開発者的にはちょっと悲しかったり……?

白水さん まあ多少は……(笑)。でもお客さまが工夫しやすいのもバーモントカレーの良さだと思います。

60周年の今、レトルトカレーが登場したのはなぜ?

――ここからは2023年2月に発売されたレトルトカレーについてお聞かせください。そもそもレトルトカレーを作られたのはどうしてでしょう?

三島さん 世間の時短ニーズや個食化の高まりといった、社会背景の変化が大きな理由のひとつです。バーモントカレーをルウから作るのもちょっと大変だし、一人暮らしの方や年配の方が多めに作りすぎて困ってしまったりといった悩みの声もありました。だからこそ、よりみなさまに親しみやすい形でお届けできるよう、今回のレトルトカレーを発売することとなりました。

――より幅広い人々にバーモントカレーを届けるためのレトルトだったんですね。

三島さん 実はお客さまからの「バーモントカレーのレトルトがほしい」という声は年々増加していて。2007年から2009年の3年間と、2020年から2022年の3年間で比較して、問い合わせの件数は7倍にも増えていたんです。

 レトルトカレーの存在が当たり前になってきた時代だからこそ、バーモントカレーのあの味を気軽に食べたい! というニーズが顕在化してきたように思っています。

――ちなみに、レトルトを作るにあたり苦労した点はどういうところですか? 試作に500回以上費やしたと聞きましたが……?

三島さん ハウス食品にはレトルトカレーのブランドもあるので、レトルトカレーを開発するノウハウ自体は持っていました。 ただルウとレトルトでは製造方法が根本的に異なるので、ルウで生まれるバーモントカレーのあの風味を、レトルトでしっかり再現するというのが非常に難しかったです。

 例えば、バーモントカレーってまろやかでコクがあって……あまりスパイス感が立っていないカレーというイメージがあるかなと思うのですが。

――たしかにあまりスパイスのイメージはないですね。

三島さん なので初期の試作では、バーモントカレーらしさを意識して、スパイス感を抑えた味わいのものを作っていました。ところがテスト段階でお客さまにチェックしてもらうと、「バーモントカレーには、尖ったスパイス感はないけど、味全体に一体感があった」「でもこのレトルトには、それが無いね」と厳しいご意見をいただきまして……。


横で聞いていた長江さんも、思わず苦笑い

――手厳しい!

三島さん バーモントカレーはスパイス感がないのではなく、スパイスや具材が繊細なバランスで複合的に組み合わさって一体感のある風味になっているんだ……とお客さまに教えられる形で再認識したできごとでした。そんな試行錯誤もありつつ、500回以上試作を重ねて新規製法を取り入れ、レトルトのバーモントカレーのひとつの形として結実したと思っています。

長江さん 実は、バーモントカレーのレトルトを発売するという構想自体は20年前からあったんです。ですが、バーモントカレーの「ベースの強さ」と「繊細なバランス」という矛盾した特徴を、当時は再現することはできず……。

 私も研究所で何度も試作をしたのですが、その時は形になりませんでした。レトルトで加熱殺菌する工程で、当時の技術だと、熱でスパイスの香りが飛んで肉じゃがみたいになってしまっていたんです。

長江さん  あのときは「絶対できない」と思っていましたが、部下の三島が20年越しの夢を叶えてくれて、本当に感慨深いです。

――そんな思いがこもっているとは。20年の時を越えてバトンを渡されたんですね。

三島さん それと、味わいそのものはもちろんなんですが、バーモントカレーはみなさまそれぞれの“家庭の味”でもあると思っているので……食べてくださる方ひとりひとりが思い描くバーモントカレーとのイメージの差を、どこまで埋められるかというのも課題でした。

長江さん 通常の商品開発でここまですることはあまり無いのですが、社長にも何回も掛け合いましたね。社内メンバー、そしてお客さまと、みんなで一丸となって作り上げたレトルトカレーだと思います。

三島さん 社内でも「こんなんじゃダメだ」「まだまだできるはず」なんて時には議論を熱くしながら開発に取り組んでいました。バーモントカレーは、ハウス食品グループ全体としても非常に大切にしているブランドなので、絶対にいいものを作りたいという思いがありましたね。

――2月に発売されてからまだ間もないですが、お客さまから寄せられた声で印象的なことはありますか?

三島さん まだ具体的な声は少ないのですが、SNSを見ていると、「ようやくハウス公式見解のバーモントカレーが食べられる!」という反応をされている方がいて、それは個人的に興味深かったですね。

 それぞれの家庭の味があるからこそ、ひとつの答えのように「レトルトのバーモントカレー」を出すことにはプレッシャーがありました。ただこれからはこのカレーが店頭にもどんどん並んでいくので、多くの方々に食べていただいて、それぞれの家庭になじむレトルトカレーになればいいなと思っています。

長江さん 2分程度でバーモントカレーが食べられるので、時短ニーズにもフィットするかなと。まだバーモントカレーを食べたことのない人にはぜひ手にとってもらいたいです。


お皿に移す必要なく、電子レンジでそのまま加熱できるので楽チン

バーモントカレーのこれから

――2023年で60周年を迎えるバーモントカレーについて、これから先の展望を教えてください。

白水さん これからも変わらないおいしさをお届けしつつ、時代の変化に寄り添い続けられるブランドでありたいですね。

三島さん カレーは時代に応じてさまざまな変化を遂げている食べ物です。長年愛され続けるバーモントカレーが、あらためてカレーの魅力に気づくきっかけになればうれしいですね。

長江さん 社会やお客さまの嗜好の変化に寄り添いながら、10年、20年経ってもみなさまの家庭の真ん中にバーモントカレーがあるために今後も開発を続けていきます。


食育活動や地域貢献活動にも積極的に取り組んでいるハウス食品グループ

 食を通じて幅広い世代へ元気を届けるため、商品開発だけにとどまらず、さまざまな活動に力を入れているハウス食品グループ。

 「つくろう、未来の笑顔」というテーマのもと、幼稚園や保育所などで、自分たちでカレーをつくって食べることを体験できる「はじめてクッキング」教室や、食品ロスの削減に挑んだ「もっとカレーだからできることプロジェクト」など、情報発信や多岐にわたる取り組みを進めています。

最後に:カレー開発者さんたちの、“わが家のカレー”を聞いてみた

――最後に変な話聞いちゃうのですが、みなさまって研究開発でずっとカレーを食べているわけですよね。正直カレーに飽きたりしないんですか?

白水さん あんまり飽きることはないですね。さっきアレンジの話がありましたが私も家で食べるときはアレンジしていますし。

――ちなみにどんなアレンジをしているのでしょう?

白水さん まず肉にニンニクとカレーパウダーをまぶして炒めて、りんごのすりおろしとたまねぎを入れてバターでソテーして、そこにルウを入れてカレーにします。これは公式レシピではなくわが家のカレーですけどね。

――おいしそう……。ちなみに、おふたりにもお好きなアレンジはありますか?

三島さん 調味料を足すアレンジはあまりしないんですが、牛すじカレーがすごく好きなので、2日かけてカレーを作っています。1日目は下茹でしてコラーゲンをトロトロに柔らかくして、じっくり煮込んで旨味が出たブイヨンを2日目にルウで仕上げる、という少しこだわった作り方をしていますね。

――2日も煮込むなんてすごいこだわり!

長江さん おふたりと比べるとオーソドックスなんですが、たまねぎが好きなのでたっぷり使って、たまねぎと鶏肉だけのバーモントカレーをよく作ります。子どもたちにも好評ですよ。

――どのレシピも試してみたくなる……! 今日はありがとうございました!

まとめ

 バーモントカレー60周年のあゆみと、レトルトカレーの開発秘話をたっぷり聞くことができました。それに、開発者の方々の“わが家のカレー”の話まで。

 鍋いっぱいに作るルウのバーモントカレーと、いつでも好きなときに食べられるレトルトのバーモントカレー。形は違えど、どこか懐かしい甘さであとを引く風味はずっと私たちのそばにあります。これから先も、バーモントカレーは時代を越えて私たちの家庭の味であり続けるのだなと思いました。

 ああ、カレーの話をしているとなんだかお腹が空いてきた……。

 私もカレーを食べたくなったのでこのへんで!

(おわり)

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提供:ハウス食品グループ本社株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ねとらぼ編集部/掲載内容有効期限:2023年3月23日

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