辰巳徳丸の大フィーチャー
原作からのアレンジはまだまだある。それは、執事兼ボディガード・辰巳徳丸(劇中ではマイロック)の大フィーチャーだ。
先にも挙げたインタビューで、バギンスキー監督は「このプロジェクトをはじめたとき、スタッフのなかにこの辰巳徳丸を好きな人が誰もいなかった」「であれば、自分が世界中の人にこのキャラを好きにさせてみせる、と挑戦しようと決意しました」と衝撃的な発言をしている。
その結果として生まれたのは、まるで映画「リベリオン」のガン=カタをほうふつとさせる、近接格闘と銃を合わせて使う、めちゃくちゃ強い執事だった。原作の辰巳徳丸は剣道三段で無謀にも竹刀で戦おうとする様がコミカルに描かれていたりもしてたので、どえらい変わりようである。
しかしながら、原作ではサブキャラクターにすぎない辰巳徳丸を大活躍させようという監督の愛情(というか無邪気さ)は実際の映画でめちゃくちゃ伝わったし、「ジョン・ウィック:パラベラム」では寿司屋兼殺し屋だったマーク・ダカスコスが超絶ハマっていたのでオールオッケーである。シンプルに、めちゃくちゃカッコよくて強い執事が見たい方にも超絶おすすめだ。
VFXを多用した「聖闘士星矢」らしいアクション
肝心のアクション部分がどうかと問われれば、これがやはりちゃんと出来が良い。特に序盤の地下闘技場のシーンでは、ただでさえ筋肉やビジュアルが映えまくる新田真剣佑の身体能力が遺憾無く発揮されていて、まるでキレキレのブレイクダンスを見ているようだった。ザコ敵が迫ってくるシーンも大胆なカメラワークのおかげもあって見応えがあるし、前述した通り執事がガン=カタで戦う様にも大興奮できた。
そして、アルミ製にしてなるべく軽く仕上げた(それでも15キロある)聖衣(クロス)を着ての、VFXをたっぷりと使った戦いが大迫力。派手なパンチやキックに派手なエフェクトが乗る、ということにこそ「聖闘士星矢」っぽさを感じるだろう。正直に言えば、後半は生身の人間による体技の面白みが減ってしまった印象もあるものの、これはこれでケレン味があるので楽しかった。
難点をあげるのであれば、肝心のクライマックスのとある展開だろう。ここは悪い意味で昔の漫画やアニメっぽい、ロジックに乏しいやや強引な話運びに思えてしまったのだ。原作で序盤から登場した悪役・カシオスの扱いも、もう少しどうにかならなかったかともったいなく思ってしまった。
そんなわけで全てが満足、文句なしの傑作とは言い難いものの、原作へのリスペクトは伝わる、間違いなく水準以上のアクション映画だ。日本人である新田真剣佑が、堂々とハリウッド大作で主演を務めたという意味でも、記念碑的な作品だろう。
そして、お金がめちゃくちゃかかっていて画も本格的でありつつも、エンタメ性特化で良い意味でB級っぽいイメージがあることなどから思い出したのは、日本でも一部で熱狂的な支持を得た、2021年公開の映画版「モータルコンバット」だった。
くしくも、「闘技場で日銭を稼いでいた主人公が突如として壮大な戦いに巻き込まれる」という序盤の展開が両者で似ていたりする。「聖闘士星矢 The Beginning」は「グロ抜きのモータルコンバット」という言い方もできるし、同じくらいに愛されそうな気がする。
そして、本作で描かれたのはタイトル通り始まりの物語であるし、何よりちゃんと面白いので、ヒットして続編を作ってほしいと願うばかりだ。同日公開の超強力なライバルが同じく日本発の世界的コンテンツの映画化作品ではあるが、どちらも応援の意味も含め、多くの日本人が足を運ぶことに期待したい。
(ヒナタカ)
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