4月28日より「聖闘士星矢(セイントセイヤ) The Beginning」が公開されている。本作は世界中にコアなファンを持つ、1985年から連載された日本の漫画「聖闘士星矢」の映画化作品だ。
結論から申し上げれば、これは良い……いや、ものすごく良かった! 後述する理由で原作の熱心なファンからはいろいろと言われるかもしれないが、個人的には勢いのあるアクション映画として大いに楽しめたうえで、「聖闘士星矢」のハリウッドでの実写映画化の「正解」だと思えた。原作者である車田正美の「熱い思いが届くと信じている!」コメントからも、期待が高まるはずだ。
「The Beginning」のタイトル通り物語の始まりを描く内容でもあるので、原作をまったく知らない人でも問題ないだろう。予告編で不安を覚えている方にも「まあ、とりあえず本編を見てから判断してくださいよ」と言いたいし、特に新田真剣佑のファンには他のどの映画を差し置いてでも優先的に見てほしいと願う。さらなる魅力を紹介していこう。
ツッコミ役かつ皮肉っぽい星矢が魅力的
はっきりいえば、本作は良い意味で原作とぜんぜん違う。というのも、「一本の映画として飲み込みやすくする工夫」が随所にされており、特に導入部ではかなり大胆なアレンジが施されている。
今回の主人公の星矢は、スラム街の地下格闘場で戦いながらその日暮らしの生活を送っている青年。ある日、“秘められた力”を発したことから謎の集団に命を狙われるも、なんとか危機を逃れて大富豪の屋敷へと招かれる、というのがあらすじだ。
そこで「お前が持つ秘められた力とは小宇宙(コスモ)だ」「女神アテナの生まれ変わりである私の娘を守れ」などと言われる。そこでの星矢のリアクションは、予告編でも分かるとおり、「あんたらイカれてんのか?」だった。
そう、今回の星矢は「予測不能な事態」「壮大すぎる設定」などに「ツッコミを入れる立場」なのだ。他にも「分かるように説明してくれ!」「良い医者を紹介するよ」などと、真っとうな言い分がいちいち面白いし、ちょっと皮肉っぽいところは原作の星矢にも近い。それを含めて彼のことを好きになれた。
「原作の物語を忠実に再現しろよ!」と思う「聖闘士星矢」ファンもいるかもしれないが、原作を知らない方であれば小宇宙がどうとか、女神アテナがどうとか、設定を並べたところでついていけないだろう。何より、よく分からないまま異常な事態に巻き込まれる今回の星矢は極めて観客に近い立場のため、誰でも感情移入がしやすいのだ。
もう1つ、星矢に同調しやすくなっている理由には、彼が「生き別れの姉を探す」という明確な目的意識を持っていることにもある。さらには「岩を割る」ことを目指す、まさに少年漫画らしい修行シーンもある。それらは原作でも描かれていたことでもあり、つまりは原作の重要な要素も生かす作劇もされているのだ。その修行をさせる師匠・マリンの再現度の高さも、原作ファンにはうれしいところだろう。
ちなみに、今回の映画の導入部はNetflix配信の3DCGアニメ「聖闘士星矢:Knights of the Zodiac」にも似ている。こちらでの星矢は児童養護施設で暮らす幼い少年で、不思議な力が動画として撮られSNSに投稿されてしまったりする、現代らしい作劇にもなっていた。合わせて見てみても面白いだろう。
2時間に収めるための、星矢と沙織の物語へのフォーカス
トメック・バギンスキー監督は、「聖闘士星矢」を知らない人たちにも見てもらう必要があることを踏まえ、「説明しないといけない要素が非常に多いことがネック」「丁寧に説明するとものすごく膨大になってしまう」などと映画.comのインタビューで語っている。なるほど、前述した事態に翻弄される導入部も、その説明を簡潔にしつつ飲み込みやすくする工夫であると見受けられた。
さらに重要なのはバジンスキー監督が「原作漫画を踏まえながら(映画の尺にあわせ魅力的な物語にするために)、星矢と沙織(劇中ではシエナ)の物語にフォーカスすることにしました」と答えていることだろう。実は、作り手も企画当初は5人の聖闘士(人気キャラクター)を登場させることも考えていたものの、「2時間の映画というフォーマットに多すぎるストーリーを詰め込むと失敗しがち」といった考えから、方向転換をしたのだそうだ。
そして、原作における沙織というお嬢様は、傲慢でわがままな性格だと星矢から言われる嫌われ者の立場だったが、今回は女神アテナの化身であることに付随する切実な悩みを持ちつつも、星矢と気兼ねなく話す人当たりの良い人物になっている。それでいて、ただ待っているだけではなく、自身も主体的な考えを持つ強い女性にもなっていた。
これもまた、人気キャラクターの活躍を期待していた、はたまた原作の沙織が好きだった「聖闘士星矢」のファンからの反発を招くかもしれないが、今回の星矢とシエナの「恋人にはならないがお互いに強い信頼を得ていく」関係もこれはこれで良い、いや大好きになれたので、やはり「正解」だと思えたのだ。
そして、詳しくはネタバレになるので秘密にしておくが、そのシエナの命を狙う敵との関係は今回の映画オリジナルであり、愛憎入り混じる物語としてもなかなか工夫が凝らされていた。「ザ・グリード」で女泥棒に扮していたファムケ・ヤンセンが恐るべき敵をカッコよく演じていたので、そちらにも期待してほしい。
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