映画「エブエブ」 アカデミー賞最有力だけど、主婦が確定申告中にバトる実写版『すごいよ!!マサルさん』だった件(1/3 ページ)
ミシェル・ヨーがカンフーで変態集団に立ち向かう!
映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(以下、「エブエブ」)が3月3日に公開された。本作はアカデミー賞で作品賞をはじめ10部門で11(助演女優賞で2人)の最多ノミネートを果たしている。
その内容が「主婦が確定申告中にバトる実写版『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』だった」と言うと、信じてもらえるだろうか……。いや、信じてください。本当にそんなトンデモでカオスな映画だったのだから。
3月13日(日本時間)にアカデミー賞の授賞式、3月15日に確定申告の期限が迫る今見るのにもピッタリだ。具体的な作品の特徴と魅力を記していこう。
セクシーコマンドーそのもの
本作の主人公は平凡な主婦・エヴリン。家族で経営しているコインランドリーに監査が入ってしまったため国税局に来た彼女は、突如として違う世界から来たという夫・ウェイモンドから「全宇宙にカオスをもたらそうとしている強大な悪を倒せるのは君しかいない」と告げられる。つまりは、「マトリックス」や「新世紀エヴァンゲリオン」よろしく、「いきなり使命が与えられる系」の映画でもあるのだ。
この時点でぶっ飛んでいるが、さらにエヴリンは「違う宇宙の自分とリンクし、その自分が持つ能力にアクセスする」“バース・ジャンプ”という手段に挑む。しかし、それを行うにはなぜか「変な行動」が不可欠だという。バカバカしければバカバカしいほど、それが燃料となってジャンプが確実に成功するので、敵も味方も変な行動をどんどんエスカレートしていくのだ。
お分かりいただけただろうか。戦う前に「変な行動」をする。まさに、あのギャグ漫画の金字塔『すごいよ!!マサルさん』の劇中で繰り出される架空の格闘技「セクシーコマンドー」そのものではないか!
カンフーマスターの主婦VS変態集団
しかも、『マサルさん』の第1話で主人公の花中島マサルはズボンをおろして迫り来る、実に変態的なセクシーコマンドーを繰り出していたが、この「エブエブ」の敵はバース・ジャンプをするためにズボンどころかパンツまでおろす(モザイク演出があるので安心してください)。さらに、伏線として国税局に置かれていた「あるもの」を尻にぶっ刺すという最強の変態行動に挑むのだ! 本家セクシーコマンドー顔負けである。
対して主人公のエヴリンも、山にこもってカンフーの修行をしたアクションスターという、 違う宇宙の自分の能力を手にする。何しろ演じるのは「グリーン・デスティニー」や「シャン・チー/テン・リングスの伝説」などで知られるミシェル・ヨーなので、そのキレのあるダイナミックなカンフーアクションも大きな魅力となっていた。カンフーマスターの主婦VS変態集団というのも実にワクワクする。
さらに、マルチバースそれぞれの世界がこれまたヘンテコで、シュールな絵面のオンパレードだったりする。笑うと同時に「なんじゃこりゃ!」と困惑するのも、実に『マサルさん』っぽいのだ。
さらに、戦い方やシュールなギャグの他にも、『マサルさん』を想起させた具体的な理由がもうひとつあるのだが、それはどう書こうがネタバレになってしまうので伏せておこう。ひとまず、「こんなことをするのは『マサルさん』とこの映画しかねぇよ」と思ったことだけは明記しておく。
監督の前作の時点でまともな映画になるわけがなかった
なぜこんなにカオスな映画が生まれたんだ? と思う方は多いだろうが、ダニエルズという監督コンビによる前作「スイス・アーミー・マン」を踏まえれば納得する方も多いはずだ。何しろ、こちらは「ダニエル・ラドクリフの水死体を十特ナイフのように活用してサバイバルする映画」だったのだから。
それに続く「エブエブ」も何を食べればこんな映画を思い付くんだと思うばかりだが、ダニエルズは「劇中のマルチバースはインターネットのメタファー」「人はネットの中で、異世界で剣を振り回す英雄になったり、世界中の数十万人から見られる有名人になったりする」と説明している。なるほど、ネットの世界で「違う自分になれる」現代の世相を、ポジティブに見た映画と考えることもできるだろう。
さらに、ダニエルズは自身たちの映画が独創的だとか奇妙だとかと問われると、「アニメを見たことがありますか」と思わず逆に聞き返してしまうという。
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