カラフルな色合いとかわいらしいデザインが特徴の富山県の名産品「細工かまぼこ」が、SNSで話題を呼んでいます。富山ではお祝い事に欠かせない食べ物として長年親しまれてきましたが、近年は需要が減少し、苦境に立たされています。ねとらぼ編集部は、地域独自の文化を受け継ごうと試行錯誤する地元メーカーを取材しました。
「かわいすぎる」「これなら毎日食べたい」――。7月中旬、X(Twitter)ではある「かまぼこ」の写真が話題を呼びました。かまぼこと言えば、半円形で紅白柄が特徴の「板かまぼこ」や、宮城県の名産で楕円形が特徴の「笹かまぼこ」が有名です。しかし、今回話題になったかまぼこは、犬や猫などの動物、スイカやバナナといった果物、カニや鯛などの海産物が色鮮やかに表現され、一般的なかまぼこの姿とは一線を画しています。
正体は「細工かまぼこ」と呼ばれる富山県の名産品です。地元のかまぼこメーカーで構成される「富山県蒲鉾水産加工業協同組合」(以下、組合)の担当者によると、その誕生には諸説あり、「祝い膳である山海の珍味(特に鯛)の代替品」として生まれた説が有力。「和菓子の意匠を参考にした説」や、鯛漁で知られる県東部の魚津市で明治末期に鯛が不漁となった際、地元のかまぼこ屋が四国から細工の名人を招き、鯛のかまぼこづくりを始めた説もあるそうです。
富山では、結婚式などの祝い事に細工かまぼこが欠かせません。地元メーカー・梅かま(富山市)の提供資料によると、もともとかまぼこ消費が盛んな富山で細工かまぼこが広く親しまれるようになったのは高度経済成長期のこと。もともと富山の結婚式では引き出物を近所にお裾分けして、めでたさや華やかさを共有する習慣があり、生活水準の向上で「豪華な引き出物」の需要が生まれると、細工かまぼこが人気を集めたといいます。
作り方は、まず魚のすり身を型に入れ、食紅で着色。専用のヘラなどを用いて、職人たちが手作業でかまぼこに命を吹き込んでいきます。現在県内で細工かまぼこを販売しているのは、組合加入社のうち15社程度。各社の販売店やネットショップのほか、東京都内のアンテナショップでも買えます。大型のかまぼこは数万円程度しますが、動物や果物など小型のものなら500円程度から購入可能です。また梅かまでは、世界に一つだけの細工かまぼこを作れる体験教室も開催しています。
近年は売上減少も……試行錯誤する老舗社長の思い
編集部は8月17日、富山県東部・黒部市のメーカー「生地(いくじ)蒲鉾」の中陳新平社長にも話を聞きました。1927年創業の同社は細工かまぼこの老舗として知られ、これまで多くのかまぼこ職人が修行に訪れるなど、細工技術の高さが評価されています。
同社の細工かまぼこは鯛や鶴、亀といった縁起物から、かぼちゃのイラストを描いた「ハロウィンかまぼこ」までラインアップはさまざま。また、似顔絵やオリジナルイラストをかまぼこで表現する受注生産も受け付けています。
しかし、中陣社長によると、同社の細工かまぼこを取り巻く事情は厳しいものだといいます。結婚式の引き出物として人気を集めた細工かまぼこは、日本の景気が良かった30年ほど前には同社の売り上げの多くを占めていましたが、今では「売り上げの10分の1にも満たない」(中陣社長)ほどに減少。時代とともに購入客のニーズが変わり、売れ行きが落ちていったといいます。
同社ではこうした苦境を打開するため、それまで大型が主流だったかまぼこを小型化し、消費者が手軽に買えるように工夫しました。そして2010年代には、細工かまぼこの技術を応用した新商品「にゃんかま」を発売。猫の肉球そっくりの、なんともかわいらしい一口サイズのかまぼこです。
中陣社長は「我々が販売するかまぼこは柔らかく、弾力があるのが特徴でした。これを生かして猫の肉球を模したかまぼこを作ってみると、触感がぷにぷにとして気持ちよく、『これはいけるのでは』と思い、製品化しました」と振り返ります。現在では5個セットのほか、鯛などの細工かまぼことの詰め合わせ商品が販売されています。
通常のかまぼこと比べると売り上げ面での貢献は少ない細工かまぼこ。それでも、かつて細工かまぼこの普及に力を入れ、多くの弟子を育ててきた先代社長・和悦さん(現会長)の思いを絶やしたくないと、中陣社長は語ります。
「細工かまぼこは富山の大事な食文化の一つです。食べるだけではなく、もらった人が喜んでもらえるような商品は作り甲斐があります。『手を変え品を変え』で、いろいろな細工かまぼこに挑戦し、この灯を消したくないと考えています」
祝福の象徴として、富山県民に親しまれてきた細工かまぼこ。富山に行ったら、その華やかさを楽しみ、味わってみてはいかがでしょうか。
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