“子ども時代に、大切なものを奪われてはいけない” 「屋根裏のラジャー」西村義明 1万4000字インタビュー(1/10 ページ)
プロデューサー自らが脚本を手掛けた理由と、本編で描ききれなかったキャラクターの背景とは。
12月15日より「屋根裏のラジャー」が公開中。ここでは、アニメーション制作会社スタジオポノックの代表取締役であり、同作でプロデューサーおよび脚本を担当した西村義明のロングインタビューをお届けしよう。
スタジオジブリ在籍時代の経験と、スタジオポノックの立ち上げの決意、そして「屋根裏のラジャー」で自身が脚本を手掛けた理由がリンクしていると思える、興味深い内容となった。映画本編では描ききれなかったキャラクターのディテールや背景も記しているので、ぜひ映画本編と合わせて楽しんでほしい。
※以下、『屋根裏のラジャー』本編の一部展開に触れています
脚本を手掛けた理由には「映画の前と後」を作ることにもあった
――なぜ、今回の「屋根裏のラジャー」ではプロデューサーだけでなく、脚本も手掛けられたのでしょうか。
日本では映画プロデューサーは商売をする人という印象を持たれている方が多いから不思議に思われるでしょうね。映画産業には独立系プロデューサーと呼ばれるプロデューサーがいて、メディアや大手映画会社には所属しない映画プロデューサーのことを指しますが、脚本に深く入り込むのは特別に珍しいことではないんです。
独立系プロデューサーの仕事はまず企画を定めて、資金を集め、脚本を作り上げる。その後に監督や役者やスタッフを決めて、制作現場を陣頭指揮する。プロデューサーでもあり脚本も書くという方は少なくはないですよ。
北米のある映画人に教えてもらったのですが、プロデューサーにはディールメーカーとフィルムメーカーがいるそうです。売れている原作なりを購入して、有名な役者をアタッチし、メジャースタジオに売る交渉や商売の才覚を持ったディールメーカー。あとは企画なり脚本なりを考えて、制作現場も含めて映画を作り上げるフィルムメーカー。日本の場合は産業が小さいこともあって、その両方を兼ねないといけない局面が多いので負担は大きいでしょうけどね。
――売れる作品のための交渉ごとではなく、作品のためを思ってこそ、プロデューサーおよび脚本の仕事を手掛けた、ということでしょうか。
それほど能動的な姿勢から始めたわけではありません。今回も脚本家の方にお願いして書いていただいたんですが、イマジナリーフレンドという日本人にはなじみの薄い題材を映画化すること自体の難易度が高くて、こちらが思うような脚本にはならなかった。それは脚本家の力量ということではなくて、狙っているところが違ったというか。つまり、展開だけ追っても面白い物語でありながら、角度を変えると隠喩的に人間の真実が描かれているというような、真実の寓話とでもいう型に挑戦できる企画だったので。
それに、表面的にも面白い物語と言っても、その表面に登場する人物はイマジナリーフレンドですから。彼らを形作るためには、その想像を生み出した側の人間をこそ、具体的にイメージする必要があります。どのような過去を生きてきたか、なぜ本屋を営むことになったのか、その本屋はどこにあり、具体的にどんな本を置いてあるのかなどです。黒澤明監督が「七人の侍」でやったように、登場人物の分だけの真実味を持った人生を形作らないと、ファンタジーの力は雲散霧消してしまいます。
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