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美少女ゲーム原作アニメの歴史 「ノラと皇女と野良猫ハート」HARUKAZEインタビューインターネットを守る翼竜

美少女ゲーム原作アニメの在り方、美少女ゲーム業界全体の話について聞いてきました。

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 皆さんは美少女ゲーム原作の地上波アニメと聞いて、どの作品を思い浮かべるでしょうか? 「AIR」「夜明け前より瑠璃色な」「うたわれるもの」……「School Days」に「ヨスガノソラ」、良くも悪くも話題になったアレやコレやがたくさんです。個人的に好きな作品は「ヤミと帽子と本の旅人」と「ワルキューレロマンツェ」です。

 美少女ゲーム原作のアニメとしての元祖は「To Heart」なわけですが、実は放送としては先に「同級生2」がR指定OVAからR指定要素をカットした映像を深夜枠で流していたりします。果たして18禁要素をカットしたエロアニメで誰が喜ぶか疑問ですが。

 その後にどんどん美少女ゲーム原作アニメは数を増していき、全盛期の2006年は11本のアニメが地上波で放送されました。それからはだんだんと息を潜め、今では年に2本程度(参考:ニコニコ大百科)に落ち込んでいます。

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「ノラと皇女と野良猫ハート」

 そんな最新の美少女ゲーム原作アニメかつ、絶賛放送中の作品が「ノラと皇女と野良猫ハート」(以下、ノラとと)。ニコニコ動画で公開されている第1話は今期のショートアニメ(※4分未満)内で再生数1位と好評を博しており、夏コミ後に公開された第6話「世界平和」では全編実写のヤギの映像を流すなど、話題が絶えないアニメです。

問題の6話。深夜アニメには美少女動物園というやゆがありますが、今回は本物の動物が登場。実は、実写のヤギが登場するアニメは「ジュエルペット・サンシャイン」が先だったりします。世界は広い

 今回はその「ノラとと」を作ったHARUKAZEの代表かつシナリオ担当・はとさんと広報担当を交えて、美少女ゲーム原作アニメの在り方や、ひいては美少女ゲーム業界全体の話を聞いてきました! より正確には、この時代に美少女ゲームの記事を異常な熱量を持って書いている人間が僕含めてごく少数なので呼びだされた形が近いのですが。

 さて、2016年はアダルトゲーム原作にしては珍しく、というか初のショートアニメとして「ワガママハイスペック」が放送されました。タイトル通りハイな作品で個人的には大満足。えっちだったし。今回のメインである「ノラとと」もショートアニメで放送されています。原作とは全く違う形でアニメになるという“新しいカタチの放送形態”は、減少している美少女ゲーム原作アニメにどのような風を呼びこむのでしょうか。

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 余談ですが、僕が好きな主人公が猫になるゲームは「パティシエなにゃんこ」です。

アニメ「ノラと皇女と野良猫ハート」インタビュー

── 「ノラと皇女と野良猫ハート」アニメ放送おめでとうございます。美少女ゲーム原作では、だいぶ早い時期でのアニメ化ですね。

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広報: 「ノラと皇女と野良猫ハート」自体は、元からアニメにしようと思っていた企画で、初めのうちはどういうアニメかは全く決まっていなかったんです。ただ原作製作の時点で、アニメを作ろうとは考えていて。

 一応、「最初からアニメになったらこの人にお願いしよう」という考えはあって、ゲーム版OPも担当していた森井ケンシロウさん(DMM.futureworks/ダブトゥーンスタジオ)なら、アニメになってもHARUKAZEが推しているギャグなども理解してくれるかなと。それでモリケンさんにお願いして実際にアニメになった形です。

── ヒロインたちによる掛け合い重視の作品では、ギャグ部分はとても大切に感じます。

広報: モリケンさんはギャグ漫画などを連載していて、ギャグの感性が鋭くて、その上で映像を作るセンスや「間」がすごい人だったので、そこはありがたかったですね。

──それから短編アニメに決定した経緯はどうだったのでしょうか?

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広報: 最初は30分と短編どちらの可能性も考えていたのですが、モリケンさんの他のショートアニメが非常に面白くて、それを見て短編でお願いしました。

 他にも長編アニメだと製作が委員会方式になるので、それだと好きなように作りにくいのではないかと、今回のショートアニメはHARUKAZEが全額出資して作るという特殊な体制で、さらに脚本を全て原作シナリオの「はと」が担当するという異例もありまして。

はと: 最終回まで全て脚本を書きました。

広報: HARUKAZEが全額出して好きなもん作るぞ! オリャッ! って感じで。

── これまでの美少女ゲーム原作アニメだと、特定のヒロイン以外のシナリオが掘り下げられなかったりなど、いろいろな問題がつきまといますよね。他にもアニメと原作の空気が全然違ったりとか。その辺の懸念を、全額出資と短編ギャグ振りって形で思い切ったのはすごいです。

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広報: 今回はアニメのBlu-rayやDVDがPlayStation Vita版に付属します。Vita版にはもちろんCGの追加など新規要素も多いにありますが、PC版から家庭用版に移植する際にシナリオが削られるのはちょっと面白くないなって思っていて。

 そういった意味でVita版にアニメを付けることで、原作から入っている人も新規要素だけでなくアニメを楽しめるし、アニメから入った人もゲームを楽しめるようにと。家庭用版でもPC版と同じくらい満足できるようにしたかったんです。

── 確かにゲームに付属するという大胆な売り方も、短編アニメならではですね。

広報:あと「短編アニメでも『HARUKAZEの新作』だと言えるものが作れるぞ!」と確信がありました。モリケンさんというギャグの理解者がいて、さらにはと自身が脚本も書くという体制ができたので。家庭用版の予約状況も好調です。

はと: 自分はそんなに深い考えとか営業戦略は持っていなくて、「どう遊んだら楽しいのか」だけをほとんど考えています。それを面白がってくれる人がいればとてもうれしい。今回のアニメも大義名分とかより“夏休みの40日目いっぱい使って遊ぶ”という感覚でいます。

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広報: 元から原作自体にショートショートのコントがあって、短編アニメでも相性が良いだろうと考えてましたし、それで「ノラとと」らしさがなくなることは絶対ないだろうと。

コント要素が存分に発揮された5話。こういった唐突なノリはショートアニメだからこそ

── 原作自体がコメディー要素を重要視している分、そこだけ抽出されてもユーザーが付いてきてくれるということですか。

はと: コントはもちろん、落語や漫才、バラエティが昔から好きで、今回のアニメもそういう要素は持っておきたいと思っていました。

広報: ゲームとの大きな違いって、アニメはテレビを付けていれば勝手に流れるじゃないですか。そうなるとバラエティ番組のように、お笑いメインで前知識なしに軽い気持ちで見られるようにしたかった。

 ざっくり言えば「ノラとと」はPCやノベルゲームから飛び出してテレビ番組になっても十分面白い! と証明したかったんですよ。「普遍的に面白い」上でさらに「かわいい」があるんだ、と。

はと: アニメでキャラクターがSDになりましたが、アニメでは頭身も低めなので、笑いやすくなる、っていうのはあるかもしれません。

── 原作の掛け合いのスピード感とうまくかみ合った形になっていますね。

はと: 自分は書き言葉よりも口語というか、音にしたときの言葉、しゃべり言葉にすごく興味があるので、そのリズム感を突き詰めていければと。単純なことでいえば、短いセリフが続く中にパッと長セリフとか。

 反対に、文字送りをする間隔が短ければ短いほど読み手とこちらの想定するテンポが近くなることもあるでしょうし。何だかんだでリズム感だと思います。

広報: 「ノラとと」は相当セリフを短くして、単位時間あたりのクリック数、場面転換の数は他社より多いので、素材は他作品より多いんです。そのあたりの密度がテンポ・リズム感につながっているように感じます。続編ではよりそこを重視しています。

── 自分たちの得意分野をうまくゲーム性にはめ込んでいるんですね。はとさんは、今回の脚本を通してアニメの方の癖もつかめたのでしょうか?

はと: 3分半のアニメは分かってきたように感じますが、これが30分となると全然違うでしょうし、まだまだですね。ただ、もし30分アニメをやるとしても、ギャグがメインになると思います。挑戦してみたいという意志はもちろんあります。

広報: 15分で2分割して、ギャグだけ続けてもいいかもしれないですね。海外のカートゥーンのイメージで。

はと: あー良いですね。「ザ・シンプゾンズ」とか「アドベンチャー・タイム」とかすさまじい密度ですしね。

広報: 美少女ゲーム原作のアニメの歴史的には、原作の空気感をできるだけ守っていく風潮があると思うんですけど、それだけでは物足りなくなるだろうし、いずれ作り手も疲弊する。もっとゲームはゲーム、アニメはアニメの作り手側を信じてほしい。そして30分アニメになった場合もHARUKAZEを信じてほしい(笑)。

はと: 今回限りというか極論ですが、キャラがブレなければ何が出てきても良いと思っていて。特に今回は自分が脚本をやっているので、アニメ版だからどうということはなく、原作とのキャラブレもないはずです。

広報: 理論上キャラブレは0です。HARUKAZEの強みですね。

── 「キャラブレが0」はカッコいいですね。今後の方針としてどういう形にせよ「お笑い」だけは一貫したテーマとしてあると。

広報: 好きでやっているからなんですけど、確かにどうしてこんなにHARUKAZEはギャグ推しなんでしょうね。

はと: まだ小学校の夏休みというか、友達と意味もなく遊んで腹痛いくらい笑って。そういうのがずっと続いてる感じ。これは自分だけかもしれませんが。

広報: 世の中どんどん不条理な社会になっていってるので、そんな社会ほど笑いが必要になってくる気がします(笑)。

ギャグのテンポや容赦無さが好評だった3話。かわいいかつ笑える構成に仕上がっています

── お2人ともとてもうれしそうに話しているのを見て、好きなモノを好きに作っていることが伝わってきます。

はと: 大変ありがたいことです。

広報: 美少女ゲーム原作アニメって紆余曲折あって、こういう形に達したのかもしれません。もう自前で好きなモノを好きに作るし収益も出すぞ、という(笑)。委員会方式の場合は自由に作りたくても責任が取れないから、原作に忠実にならないといけなかった部分もあると思うんですよね、美少女ゲーム原作モノって。その点で今回は自前で責任持って好き勝手やる。

── それで経営が成り立っているんだから万々歳ですよ。

広報: 美少女ゲーム業界は不景気と言われるんですけど、2016年でフルプライス作品(※税別8800円以上の作品)の売上の下降はほぼ止まっていますし、おそらく売れている作品は新作のラノベより売れているんです。最近のラノベは数年かけて50万部いけばという感じですけど、それより売上額が大きい美少女ゲームも多いでしょう。「ノラとと」もアニメの効果もあり、シリーズ累計では100万部のラノベより売上額が大きくなることが確実になっています。

── Steamなどを通して海外進出した作品もありますよね。一般的に言われているより、まだまだ伸びしろがあるのではとこうして話していると感じますね。

広報: ノベルゲームは中国や北米でも非常に売れるようになっています。ゲームという媒体は本や映像より海外で販売がしやすい。

はと: HARUKAZEもゆくゆくは海外進出を考えています。

── 海外進出も! もう終盤ですので個人的に訊きたい事を訊きますが、お2人の好きな美少女ゲームを教えてください。

はと: 130cmさん(※株式会社ぐーぱんちのブランド)の「僕は天使じゃないよ」。すごくテンポが良いです。

── 構成がすごいゲームでしたね。良い意味で既存の美少女ゲームらしくない。

広報: 自分は90年代のピーーーーーーーーーーというゲームなんですが、この18禁アニメ版がすごいアレでして、ピーーーーーーーーーーって感じでした

── その時の思いが今回の「ノラとと」アニメにつながっているかもしれませんね。1割くらいは……。最後に今後の展望などをお聞かせください。

広報: 「ノラとと」はシリーズ累計で10万本が目標でして、秋葉原で、他のアニメやゲームではやっていないスケールの大型看板を6カ月掲出したりもしました。また海外進出など、新しいことに挑戦してもっとたくさんの人に触れてもらいたいと思っています。

はと: より多くの形で、楽しい話を書けたらなと思っています。

── 気合い入りまくっていますね。今回の記事で「ノラとと」がより多くの人へつながるとこちらも喜ばしい限りです。美少女ゲームのイチユーザーとしては、こうしてまだまだ美少女ゲームの火が灯っていることに感動です。是非、今後もHARUKAZEが作る「遊び」をのぞきにいけたらなと。ありがとうございました。

はと広報 ありがとうございました。


 というわけで、HARUKAZEさんでした。最後に直近の作品にあたる「らぶおぶ恋愛皇帝 of love!」のVita版を頂きましたが、自分はVitaを持っていないため遊べていません。申し訳ない。いつかねとらぼの原稿料でVitaを購入するその日まで、パッケージを神棚に飾っておきます。

神棚へ

 「らぶおぶ恋愛皇帝」は、処女作だけはあり、はとさんらしさがフルスロットルで飛ばしている作品ですので、ノラだけ遊んだユーザーも是非これを機に買いましょう。

 やはりイチユーザーとしては、美少女ゲームが言われているほど斜陽でなく、こうして勢いと信念のある新規メーカーが台頭した事実がうれしいですね。今はもう美少女ゲームを卒業した世代が、最近の作品を遊ばず好き勝手言い始める段階にきているので、こうしてメーカー側の現状を語ってくれるのは非常に助かります。

 冒頭で触れた美少女ゲーム原作アニメの歴史は、自分のブログの方でさらに詳細に好き勝手書いていこうと思いますので、興味あればご一読ください。

 それでは、最後にもう一度動画を貼っておきますので、ここまで読んだからには是非視聴しましょう。

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にゃるら

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