「いまいち萌えない娘」はいかにしてスターダムを駆け上がったのか? 「奇跡」の1年間を振り返る:誕生から1年(2/2 ページ)
「いまいち萌えない娘」自体が萌えに対する問いかけだった
多くの人が気になっているであろう「いまいち萌えない理由」の正答例について尋ねると、「うーん、ないと思います(笑)」(矢野さん)とやや期待ハズレな答えが返ってきた。中にはわざわざ紙面をコピーして回答を書き込んでくれた人もいたというが、包み隠さず言えば、あれは単なる広告のコピーであって、実際の合否には一切関係なかったそうだ。
とは言え1年間、「いまいち萌えない娘」と向き合ってきたことで、「萌えとは何かを考えるきっかけにはなった」と矢野さん。「いまいち萌えない娘」にもニーソックスやツインテール、女の子座りといった萌えの「記号」は盛り込んだが、それだけではやはり何かが足りない。では萌えとは一体何なのだろう? それまでは無自覚だった「萌え」が、「いまいち萌えない娘」というフィルターを通して見ることで、ぼんやりとその輪郭を浮かび上がらせる。「あれ自体が『萌え』に対する問いかけになってしまいました。萌えるか、萌えないか、どこが萌えて、どこが萌えないのか。自分の中の『萌え』と照らし合わせて、答え合わせのように楽しんでもらえたら」と矢野さんは笑う。
また一方では「萌えないところが萌える」といった声もある。萌えないと言われているのに萌えてしまう面白さ。加えて最初から「萌えない」と明言していることで、二次創作のハードルを下げたのもよかった。早い段階で、公式に二次創作を認めたこともあって、「じゃあ萌えさせてみよう!」と挑戦する人が次々と現れた。元絵が萌えないからこそ二次創作が盛り上がる――という点では、「東方」や「ひぐらしのなく頃に」などに近いのかもしれない。
4月以降は事業縮小?
今後の展開について聞くと、「3月までに何か『締め』のようなことをやりたい」と矢野さん。というのも、「いまいち萌えない娘」が誕生するきっかけとなった、兵庫県の緊急雇用創出事業が今年の3月いっぱいで終了してしまうのだという(神戸新聞社は兵庫県からこの事業を受託しているという形)。
もちろん「せっかく育てたコンテンツを捨ててしまうのはもったいない」ということで、今後は神戸新聞社の単独事業という扱いで、「いまいち萌えない娘」公式ページおよび「いまもえ.jp」は存続させるとのこと。しかし「やはりある程度の縮小は避けられないと思います」と矢野さん。なにぶん特殊なコンテンツであるため、社内でもちゃんと「いまいち萌えない娘」について理解している社員はそれほど多くないのだそうだ。
今後はまず、1月15日にインテックス大阪で開催される「Comic Treasure 19」で同人誌第3弾「RE:いまいち萌えない娘」を頒布(ちなみに冬コミは落ちたらしい)、その後3月までに何かもう1つ「締め」になりそうな活動を考えているとのこと。とは言え、4月以降も「いまいち萌えない娘」がなくなってしまうわけではないので安心してほしい。
「いまいち萌えない娘」という奇跡
本来ならば、1回限りの広告で終わるはずだった「いまいち萌えない娘」。そもそも兵庫県が神戸新聞社に委託したのは「いまもえ.jp」の制作・運営の方で、「いまいち萌えない娘」については完全に予定外だった。それが今では、公式サイトまで作られ、Twitterを覗けば、やわらかな兵庫弁でフォロワーとの対話を活き活きと楽しんでいる。一瞬、「いまいち萌えない娘」という人間が本当に、この世に存在しているかのような錯覚を覚える。
もしもあのイラストがもっと「萌える」ものだったら? もしもあのキャッチコピーがもっと別のものだったら? ネットで話題になるのがあと1日遅かったら……? いくつもの偶然がピタゴラスイッチのように積み重なって、今の「いまいち萌えない娘」は存在している。それを「奇跡」と表現した矢野さんの言葉は、決して大げさなものではないだろう。これからもそんな「いまいち萌えない娘」の奇跡を、末永く見守っていこうと思う。
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