studygiftはなぜ暴走したか 「説明不足」では済まされない疑念、その中身(2/2 ページ)
問題を把握したのはいつなのか
ここまで読んで分かるとおり、studygift側は一貫して「説明不足だった」「認識不足だった」というスタンスをとっている。「落ち度はあったけど、悪意はありませんでした」という姿勢だ。
しかし、studygift側は本当に、指摘されるまでこれらの問題を認識していなかったのだろうか。特に上記(2)の部分、坂口さんが「再入学できないかもしれない」ことについて、どの時点で認識していたのだろう?
実際に10万円の「特別スポンサー」に申し込んだという人によると、申し込んだ翌日の5月20日午後6時の時点で、坂口さんから次のようなメールが来たという。
現在、社会科学部の学生担当様より、坂口を復学させるかどうかを協議するというご連絡を頂いており、このような形での復学に前例が無いため、資金が100%集まった場合も、正常に復学できるかどうか、協議中となってしまっております。(この情報は、まだ開示を行わないようお願いできれば幸いです)
正式に復学が可能となった際は、また改めてご連絡を致しますが、企業様におかれましては、正式に復学が決定するまで支援をお待ち頂く形が安全なのかもしれないと思っております。(万が一の場合も、復学の可否に関わらず上記の広報活動は行わせて頂きます)
これを見るかぎり、遅くとも5月20日午後6時の時点では、坂口さんが大学側と復帰について協議中であることをstudygift側は把握していたはずだ。studygiftがサポーターの募集を止めたのは21日。大学に復帰できない可能性を知りながら、支援金を募っていた時期があるということになる。しかも上記メールはあくまで特別スポンサー宛てに送られたもので、5000円の一般支援者に対しては、23日の返金メール内でようやく通知された形となっている。
studygiftに確認したところ、「18日に坂口さんと大学関係者の間で話し合いが持たれたそうですが、この時点でstudygift側としては詳細を確認できていませんでした。特別スポンサーへのメールは、今後起きうる可能性を伝えたもので、21日に大学側と正式に協議した結果、支援の募集は停止しています」という。
しかし上記特別スポンサーの方によれば、先述のメールには「支援金の振込口座」まで記載されていた。だとするなら、studygiftがこの内容について無関係だったというのは少々苦しい。少なくとも坂口さんは18日の時点である程度は把握していたはずで、坂口さん経由で「協議中」の旨を聞かされていたのでは――という疑念は依然として残る。仮に復帰できない可能性を承知で支援金を募り続けていたのなら、善意のユーザーからお金を預かる立場として、あまりに不誠実だと言わざるを得ない。
「(坂口さんと大学側の話し合いの後)studygiftがどのような認識で支援募集を続けていたかという点において、かなり悪質で、もしも真実をわざと告げず不当に支援を募集するような意図があった場合には詐欺となる可能性もあると思います」(太田真也弁護士)
ヨシナガ氏より、この部分についてあらためてコメントをいただいた。
「復帰できない可能性を承知で支援金を募り続けるという意図はまったくありませんでしたが、返信を急ぐあまり、18日に坂口さんと大学間で行われたという話し合いについて、当初用意していた特別スポンサー様宛へのメールに詳しくご説明を盛り込むことができなかったのは完全にこちらのミスになります」(ヨシナガ氏)
なぜstudygiftは「暴走」したか
studygiftが話題になった直後、編集部ではstudygift側に取材を申し入れ、中心人物である家入一真氏、ヨシナガ氏、そして坂口さんの3人からstudygift立ち上げの経緯などについて聞いていた。
そもそもstudygiftのアイデアは、ヨシナガ氏と坂口さんの2人が家入氏に持ちかけたものだ。2人は同じ早稲田大学の先輩後輩という間柄で、坂口さんの現状を知ったヨシナガ氏が、家入氏の「CAMPFIRE」で支援できないかと相談したのが出発点。しかし、CAMPFIREには「個人の学費や生活費の支援はしない」というポリシーがあり、そのためstudygiftという専用の仕組みを新しく立ち上げることとなった。
開発は家入氏らを中心とするチーム「Liverty」によって行われた。Livertyの理念は「フリーランスや経営者、学生、サラリーマンなど、様々な職種の人たちが自由に集まり、退社後の時間や、土日など空いた時間を使って、新しいサービスやビジネスを“ものすごいスピード”で立ち上げる」こと。studygiftの場合も、実際に作業したのはわずか2〜3日ほどだったという。坂口さんももともとLivertyのメンバーであり、開発にあたっては坂口さんも文面作成などで協力している。
単に坂口さん1人を救うのなら、家入氏やヨシナガ氏が個人的に支援すればいいだけの話だ。しかし「それで終わらせるのではなく、もっと多くの学生を継続的に救える仕組みを作りたかった」と家入氏は語った。その志そのものは、様々な問題が明らかになった今でも、やはり素晴らしいものだと思う。studygiftについても、その出発点において「ユーザーを騙してお金を得よう」などという考えは微塵もなかったはずだ。
しかし、それならなぜ今回のような「落ち度」を招いてしまったのか。
ひとつはやはり「坂口綾優さんという“個人”を救いたい」がそもそもの出発点だったことだろう。studygiftの理想はもちろん「授業料が払えない学生を救う」ことだが、立ち上げの経緯を聞くかぎり、その出発点が「坂口さん個人の支援」であったことは間違いない。そこに「授業料が払えない学生の支援」という理想とのズレがあった。
もうひとつは、Livertyの「ものすごいスピードで立ち上げる」という活動理念だ。Web業界では、サービスが荒削りでもβ版としてリリースして実際に使ってもらい、ユーザーから意見をもらいながらブラッシュアップしていく文化がある。「走りながら考える」(ヨシナガ氏)というLivertyのやり方はまさにその文化を体現するものだろう。
だが、スピード感を重視するあまり、確認不足を招いた面はなかっただろうか。まずは1人目を成功させたい――そう思うあまり、成功を焦った部分はなかっただろうか。
支援を受けた学生は何を背負うのか
studygift側は、サービスに「分かりづらい部分や訂正部分があったのも確か」と認めており、先述の通り返金に応じると告知している。サイトには「修正点や質問への回答を随時掲載させていただきます」ともあり、サービス改善に前向きに取り組む姿勢を見せている。
現在、次の支援学生募集に対し、30件近い応募がきているという。海外からの応募も複数あるそうだ。学業以外の面で一芸に秀でた人など「studygiftだからこそ救える人たちがいる」とヨシナガ氏は語る。であればやはり、本当に継続的に学生を支援できるサービスにしていくことが、今後のstudygiftの義務だろう。
今後、坂口さんはどうするのだろうか。奨学金が止まったことで、一度は「もう人生を投げ出したくなって、気づいたら退学になっていた」(坂口さん)という大学にふたたび戻りたいと言う。
200人もの支援者が自分のために名乗り出てくれた、そのことは20代の彼女にとって、決して小さなものではないはずだ。studygiftで支援を受けた学生は、返還義務こそないが、それなりの「何か」を背負って今後の人生を生きていくことになる。
クラウドファンディングで支援金を集めるという一点においては、今回のstudygiftのチャレンジは成功したと言えるかもしれない。しかし、studygiftも坂口さん自身の人生も、本当の正念場はここからだ。
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