「まんが家セットでアプリに勝ったね」 なかよし、本気すぎる付録の舞台裏とミクコラボの狙い:パワーアップして帰ってきた
なかよしの付録「まんが家セット」がパワーアップしてついに登場。付録に込めた思い、初音ミクとのコラボのワケ――少女漫画誌の舞台裏に迫る。
8月3日発売の少女漫画誌「なかよし」9月号に「進化形まんが家究極セット」が付録で付いてくる。これは今年2月に発売された3月号付録「スーパー最強まんが家セット」に続く第2弾で、本格的な漫画家気分が味わえるほか、あの“初音ミク”の描き方を教えてくれるというボーカロイドとの大型コラボでも注目されている。
前回の「スーパー最強まんが家セット」は、ネットを含めて大きな反響を呼び、全国書店で完売が相次ぐなど売れ行きは絶好調だった。そんな雑誌本体の評価を左右しかねない「付録」とは、一体どのような存在なのか。今回の「進化形まんが家究極セット」が誕生した背景について、なかよし編集部(講談社)に直撃取材した。
付録にシビアな若い読者たち
「漫画誌だからです!」――まんが家セットを企画した理由を尋ねると、編集長の中里郁子さんが即答してくれた。なかよしの付録全般に共通するコンセプトは「読者の夢を応援する」こと。一連のまんが家セットは、漫画誌にしかできないことを考えた末、「漫画家になる夢を本格的に応援する」という方針から生まれた。
中に入っているスクリーントーンや原稿用紙は付録とは思えない豪華さだ。「私自身、子どもの頃にスクリーントーンを使ってみたかったんです。使った途端にプロになれるんじゃないかとあこがれていました。でもどこで売ってるのか分からなかった。だから漫画家になりたい気持ちと、実際になる間を繋いであげるグッズをプレゼントしたかったんです」(中里さん)
「なかよし」の読者は女子小中学生が9割以上を占める。今まで漫画に興味がなく読んだことがなかった子どもが初めて購入するケースも少なくない。そうした読者が漫画と出会うきっかけとして付録は重要な存在となっている。「小学校低学年の子が『このキットが欲しい』『あのバッグがほしい』と親にねだって買ってもらう雑誌なんです。グッズから入って大きくなると漫画も読むようになる。読者にはすごく頭のいい子が多くて高学年になれば読解力は大人とほぼ変わらない。掲載作品は中高生が読んでも面白いように作っています」(中里さん)
作家陣にも“若い才能”を起用している。例えば8月号に読み切り「電撃スターダム!」が掲載された長谷垣なるみさんはデビュー2年目の16歳。8月号の「とあるネコかぶり少年の秘密」で漫画家デビューが決定した伊藤里さんは若干14歳だ。そんな若い作家の活躍を読者たちは喜んで応援してくれる一方、付録に対しては注文がシビア。何でもかわいくないものには厳しく、アンケートや手紙で色々なアドバイスを送ってくれるのだそうだ。
ミクが描ければクラスで“神”に
そんな付録の企画を中心となって進めているのが4人チームの“付録班”。専属スタッフも1人いて、それ以外のメンバーは通常業務とかけもちで作業をしている。班長の須田淑子さんは、「漫画(せりふ)が読めない小さな子どもの気持ち」を大切にしているという。自身もかつて少女漫画誌を付録目当てに購入していたからだ。
付録班の仕事は企画から始まり、その内容を実現してくれる取引先の手配、社内外各所との調整など多岐に渡る。付録には既存の製品を使わず、一から開発するものが多いため、準備期間は各号につき約半年ほど設けられている。編集部の加賀彩恵子さんは「数カ月前から複数の企画が同時進行するので季節が分からなくなります(笑)」と苦労を語る。ちなみに付録の予算は社外秘だが、中里さんいわく、まんが家セットは「清水の舞台から飛び降りる気持ち」で付けていて「原価は涙が出るほど」高かったそうだ。
冬の企画が大ヒットしたことで、まんが家セットは夏にパワーアップして帰ってきた。「進化形まんが家究極セット」でも、新しく開発したカラースクリーントーンは自慢の一作だ。赤青黄の三原色を重ね合わせると、鮮やかな色彩が浮かび上がる。「読者がレイヤーを重ねる体験ができるといいなと考えました。今、小学生の子が中高生になったらデジタルツールで絵を描くと思うんです。その時にレイヤーの実感が持てると。それに色の三原色として夏休みの研究テーマにもオススメですよ!」(中里さん)
目玉の初音ミクとのコラボは、読者が1番描きたいものを考えたとき、「これしかない」と決めた。「学校で『マジ、それ描けるの凄くない!?』とうちの読者に言わせてあげたい。なかよしを買っていたらクラスで“神”になったというのが目標です」(中里さん)。付録では、線画のミクを特製カラー筆ペンでアドバイス通りになぞるとカラフルなイラストが完成する仕組み。漫画家・イラストレーターのしめ子さんによるデジタル作画動画や、「170cm☆オトメチカ」の桜倉メグさんによるのアナログ塗り動画も公開する。
なかよしのライバルはスマホ!?
「なかよし」は1954年創刊の日本最古の漫画雑誌。同じく小中学生向けの「りぼん」(集英社・55年創刊)と「ちゃお」(小学館・77年創刊)とは三つ巴でしのぎを削ってきた。日本雑誌協会のデータによると、発行部数は現在「ちゃお」(55万7500部)「りぼん」(20万2500部)「なかよし」(15万8000部)の順。00年代になって「ちゃお」は小学校低〜中学年をターゲットにした芸能人とのコラボなどを積極的に展開し、ほかの2誌を大きくリードした。
こうした状況をなかよし編集部は「りぼんが圧倒的だった時代、なかよしが最強だった時代もある。トップが変化しているのは、少女漫画誌に夢があるということ」と捉える。そして本当のライバルは「ちゃお」や「りぼん」ではなく「AKB48やディズニーランド、ボーカロイドにタブレットやアプリ」と見る。それらのインフラであるインターネットの影響は重大だ。
「ネットにより子どもが放課後にすることが増えました。簡単に最新情報を得られることは、雑誌作りに大きな影響を与えています。なかよしの読者は、スマホに憧れているけどまだ買ってもらえない層。でも近い将来にタブレットなどが普及すれば、一層変化するのは間違いありません」(中里さん)
そんな中で作られた付録のまんが家セットは、紙の雑誌だからこそできることを追求した結果でもある。「まんが家セットは成功したいと思っていました。でも漫画家になりたい子がどれだけいるのかは未知数。実際に大きな反響を得たことで、編集部内では『(スマホの)アプリに勝ったね』と盛り上がりました。作家さんも喜んでくれて、『スーパー最強まんが家セットは商標をとっておかないと!』といった意見もでました(笑)」(中里さん)。11月には、まんが家セットを超えるものとして、漫画を描くためのノウハウをまとめた書籍の発売も予定している。
「キャンディ・キャンディ」や「セーラームーン」など少女漫画のミラクルヒットを世に送り出してきた「なかよし」。来年には創刊60周年を迎える。「ヒットの仕掛けにはいろいろ種類があります。付録のような半年程度の計画は短期的。アニメ化を見据えた5年計画になると中期的です。そして10年後の100万部作家を生み出すのは長期的な計画です。今回のまんが家セットに出会った子供たちが、将来なかよしから大ヒットを飛ばしてくれることを期待しています」(中里さん)
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