来たれ、残念男女! 青春ラブコメだけど女子という生き物が怖くなるマンガ――第2回「僕らはみんな河合荘」虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!

読めば読むほど女子への幻想がぶち壊される……? 青春ラブコメであり、青春ラブコメクラッシャーでもある本作は一癖も二癖もあるキャラクターが魅力的です。

» 2013年08月23日 10時00分 公開
[虚構新聞・社主UKねとらぼ]
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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞社主のUKです。連載「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」は、マンガ生活10年の社主が自信をもってお勧めできる作品を

直接!

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お届けするという企画です。

 さて、今回紹介するマンガは現在「ヤングキングアワーズ」(少年画報社)で連載されている宮原るり先生の「僕らはみんな河合荘」(1巻〜4巻、以下続刊)です。宮原先生の作品と言えば、現在放送中のアニメ「恋愛ラボ」が好評ですが、あわせてこの「河合荘」もぜひ読んでいただきたいのです。

 本作はいわゆる「アパートもの」に位置づけられるマンガで、先輩に一途な思いを寄せる男子高校生・宇佐くんと、そんな宇佐くんにちょっかいを出さずにはいられない河合荘の住人たちの日常を描いたラブ(?)コメです。

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ストーリー紹介

 高校1年の宇佐は親の転勤によって念願の下宿生活をすることになった。しかも下宿先の「河合荘」では、ショートカットの文系女子高生・河合律先輩とひとつ屋根の下。これ以上ないほどの境遇に恵まれたと思いきや、待ち構えていたのは一癖も二癖もある河合荘の住人たちだった。

 ドMの不審者シロさん、30歳目前で男運最悪のメガネ美人麻弓さん、腹黒&化粧の魔術師彩花さん……。彼らに翻弄されながら、それでも健気に律先輩への思いを貫き通す宇佐の明日はどっちだ――。


 「河合荘」の魅力の1つは、何と言っても住人たちの濃さ。まずは強烈な個性を持った彼/彼女たちを紹介します。

  • 変人処理班――宇佐くん

 本作の主人公。いろんな意味で健全な男子高校生。律先輩に恋心を抱くも、肝心な場面になると住人たちに翻弄され、現在苦戦中。中学時代の影のニックネームは「変ショリくん」。由来は「変人処理班」からで、ツッコミ属性のもとに生まれついてしまった彼の不憫さには同情せずにいられない。

  • 現役のプロぼっち――律先輩

 毎回単行本表紙を飾るショートカットの女子高生。趣味は読書で不愛想。「現役のプロぼっち」と言われる一方、「1人でいることが嫌ではないが、ずっと1人でいたいわけではない」という面倒くさい性格の持ち主。

 感情表現が苦手な部分があるものの、決して感受性が低いというわけではなく、意外によく笑う。作中では彼女の屈託のない笑顔がベストシーンになることも多い。宇佐くんの好意については、「人の心情とか考えすぎちゃうの文系だから?」と言われるほど考えすぎるあまり、いまいち伝わっていない様子。

  • 言葉責めがご褒美――ドMなシロさん

 ドM&職務質問常習者。踏みつけ、ビンタ、罵倒、言葉責めがご褒美という残念な人。無精ひげに作務衣といういでたちで、宇佐くんと同室で暮らしている。年齢や収入源など謎が多く、一体どうやって生活しているのか、誰もよく知らない。その一方で、住人のトラブルに関しては一歩引いた視点から眺める冷静さも持ち合わせており、ドMという性質に目をつむれば、河合荘で最も大人な人物かもしれない。

  • セクシーだけど残念……麻弓さん

 男運に恵まれない三十路寸前のセクシー系メガネOL。高校時代、通称「ボビー(由来は伏せます)」と付き合って以降、ことごとく男運に恵まれない。

 本作では「二股男と別れて傷心した挙句、夕暮れの川辺でヤケ酒」という何とも分かりやすい形で初登場。宇佐くんと律先輩が青春ラブコメ展開を見せはじめると、下ネタで宇佐くんをあおって翻弄するなど、あらゆる手を使ってひねり潰しにかかる。

 嬉々として2人の恋路を邪魔する一方、自身の恋愛に関しては大変チョロく、普段は「クソ童貞」呼ばわりしている宇佐くんからでさえ「この人ホントあかん」と言われる、何ともな残念美人。

  • 小悪魔どころか大悪魔――腹黒な彩花さん

 性格腹黒の残念女子大生。その酷さは小悪魔を超えた大悪魔級。「魔術」とも称される化粧術と会話術で、好きでもない男をもてあそんだり、サークル内の人間関係をぶち壊したりするなど数知れず。登場早々、宇佐くんにいろいろ吹き込んで、律先輩との関係を崩壊させようとした。社主が1番苦手とするタイプ。

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 ほかにも、中学時代、宇佐くん担当の変ショリ物件だったものの、卒業後化粧を覚えて高校デビューを果たした元霊感少女・林さんなど、これでもかと言うほど濃い人物ばかりが登場します。

子どもの恋愛、大人の恋愛

 さてこのマンガ、一応ラブコメのはずなのですが、麻弓さんに「つつかれたせーで変に意識しちゃってモジモジ青春ラブコメ突入とか冗談じゃねーぞマジやめろ」と、自己否定させるなど、どこまで真面目にラブコメをするのか定かではありません。それほど麻弓さん&彩花さんによる妨害工作が巧みなのです。

 そういった理由でなかなか進展しない宇佐くんと律先輩の関係ですが、律先輩からメールアドレスを教えてもらったときの宇佐くんの満面の笑みや、読んだ本について語り合っているときの律先輩の笑顔を見る限り、少しずつではあるものの、良い方向に向かっているように見えます。いや、宇佐くんのためにも、そう見えるということにしておいてあげましょう。今どき少女マンガですら、越えちゃいけないラインを越えてしまう作品も少なくない中、青年誌掲載のマンガがここまで純な2人を描いているのは、実のところ男の方がロマンティストな証拠なのかもしれません。

 そんな高校生にありがちな初々しさが描かれる一方、女性陣の恋愛描写はかなりエグいです。こういう生々しさは、女性作家ならではのものかもしれません。例えば単行本4巻にこんなエピソードがあります。

 同窓会に呼ばれた麻弓さんは「久しぶりで何言われるか……絶対結婚や彼氏の話題でるだろうし、まったくのフリーで、しかも太ってて」と出席すべきか悩んでいる様子。それを見た律先輩が「行かなければいいのでは」と言うと、麻弓さんは「微妙な親しさの女同士が本人不在のところで悪口になる確率87%(麻弓調べ)」と返します。

画像 Amazonレビューには「笑いあり、涙あり、変人あり」というコメントも。脇役たちが絶妙なのです

 社主は欠席する以前に、まず同窓会にすら呼ばれないので、どこかで悪口を言われていても関知できないですが、それでも87%ではないと信じたいです。なお、このあと麻弓さんは結局出席を決めると、当時ライバルだった愛美と丁々発止の心理戦を展開。男同士ではまずありえない腹の探り合いは見ていて胃が痛くなるほど。この日は「男に産んでくれてありがとう」と、母に感謝しました。

 怖いエピソードをもう1つ。合コンに誘われた彩花さんに嫉妬まじりで「どーせ『酔っ払っちゃった』とかほざいてベタつく作戦で釣ったんだろ!」と嫌味を言う麻弓さんに対し、彩花さんはしたり顔で「(それを)合コンでやらかす女は三流」と切って捨てます。

 この場合正解は、ぼやぁんとした目で小首を傾げて「酔ってないよぅ〜?」です。男子諸君、これが周到に仕掛けられた罠なのです。さらに合コンテクニックとして「ボディタッチはさりげなく増やす」「立ち上がった時や靴はく時にはふらついて大胆に抱きつく」など「聞かなきゃよかった」級の事実が続々と暴露されていきます。

 またギャルとして高校デビューを果たした霊感少女・林さんについても「『かわいい』を作れることに気づいたタイプ」とバッサリ。「目はコテコテにいじってある一重で小さめ」「ライン隠すこの髪形……丸顔だな」「ここまでド派手になるのって黒でもっさり髪型だった反動だったりするよねぇ」と、顔の作り方を徹底的に指摘していきます。

 「宇佐くん→律」目線で読むか、「宇佐くん→麻弓・彩花」目線で読むか。前者なら青春ラブコメ、後者なら青春ラブコメクラッシャーになるという、相矛盾する2つの恋愛を1つのマンガにまとめ上げる宮原先生の構成の妙には舌を巻くしかありません。ラブコメと思って手に取ったはずなのに、読めば読むほど女子への幻想がぶち壊され、ついには女子という生き物までもが怖くなってくるというまさに「な、何を言ってるのかわからねーと思うが」体験のできる貴重な一冊です。

 事実、社主も読み始めた段階では「お、麻弓さん、サバサバしていて好みのタイプだな……」などと思っていましたが、4巻まで読み進めた今となってはそういう感情を解脱し、晴れて賢者と化しています。

画像 そして社主は賢者と化した

下ネタ・恋愛・シリアスの絶妙なバランス感覚

 ここまでラブコメ要素を中心に「河合荘」を見てきましたが、時に少し考えさせられるシリアス回も挟まれます。それまで「ぼっち先輩」だった律先輩に初めて読書を通じた女友達ができかけたものの、ほぼ合コンと化したカラオケに無理やり連れていかれてケンカしたことがきっかけで、またぼっちに戻ってしまったエピソードなどは、相当に切ないです。

 律先輩との帰り道、先輩が友人を無くし、再び孤独になってしまったことを知った宇佐くん。何も言ってあげることができず、沈黙したまま帰宅した2人を待っていたのは、一升瓶を片手に玄関に座り込み「また後輩に合コン隠された!」「まさかどっかで乳くりあってたんじゃねーだろな、焼け爛(ただ)れろ!」とグチる麻弓さんでした。こうやって話の最後にちゃんと救いを入れてくれるのもこのマンガの良いところです。

 いくら青年誌だからと言って下ネタが過ぎると下品、恋愛が過ぎるとつまらない、シリアスが過ぎると重い。こういったいろいろな要素を含ませつつ、なおかつそれらを玉乗りのように巧みに操れる宮原先生の類まれなるバランス感覚は、ほかの同種のマンガより頭一つ抜けているように社主は思います。

 「男はアホだからとりあえず下ネタ連呼してたら笑うだろ」という安易な、しかもあながち間違ってない方向性もあるわけですが、それに乗っかってしまわないところは、「下ネタ禁止」を社是としている本紙・虚構新聞としてもぜひ見習いたいところです。

 さてここまで書いてきてアレなのですが、実は社主は生まれてこの方、合コンなるものに行ったことがありません。それどころか誘われたこともありません。なので、「あー、あるある」と、自分の経験と照らし合わせながらこれを読んだ世の男女がみな等しく焼け爛れてしまうことを願いつつ、今回はこれにて筆を置くことにします。

 本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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