停滞気味のマンガ生活に新しい風を! 思わずジャケ買いしちゃったマンガ――第4回「花と落雷」:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!
不愛想美人はどうして残念美人になったのか――1周目は主人公の海美帆視点、2周目は友人の八千代視点。1回で2度楽しめる、そんな作品です。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞社主のUKです。社主が“マンガ読み”を始めて早10年が経とうとしているのですが、そんな生活を続けていくなかで、かつて1つの壁にぶち当たったことがあります。
「あれ、最近続刊か同じ作者のマンガばっかり買ってない?」
最初の数年は目新しさも手伝って、右も左も分からないまま手当たり次第に手を出すのですが、その時期を過ぎるとだんだん自分の趣味嗜好が見えてきて、特定のマンガだけを惰性的に買い続けるようになってしまう――。そんな経験はありませんか?
趣味が固まると「ハズレ」を引くことがなくなり、懐のダメージも最小限に抑えられるので必ずしも悪いことではないのですが、それでは何だかつまらない。そうこうしているうちにやがては惰性で買ったマンガが積読として放置され、気がつけばマンガ生活が終了してしまう……。
このようなバッドエンディングを回避するにはどうすればいいか。何度も時間をさかのぼって初めからやり直せればよいけれど、契約して魔法少女になれない以上何か別の手段を考えないといけません。
そんなマンネリ対策として、社主はマンガの「ジャケ買い」をおすすめします。掲載誌も作者も事前情報も一切無視して、とにかく表紙が気に入ったマンガを買う。停滞気味のマンガ生活に新しい風を吹き込むにはこれが一番良いと思います。もちろん「○○○○」や「▲▲▲▲▲▲▲」や「×××××××」みたいな、数ページ読んでまもなく琵琶湖の藻屑と化した表紙詐欺な作品もありますが、それも含めて良い刺激になります。
いつかこの連載でも「表紙が素晴らしいマンガ」について紹介したいと思っているのですが、今回は最近ジャケ買いしたなかでも、「これは当たった!」と言える作品を1つ紹介します。
というわけで、今回取り上げるのは渡辺カナ先生の「花と落雷」(全2巻)です。どうですか、この表紙。こんな女の子にこんなまっすぐな目で見つめられたら、男として買わないわけにはいかないじゃないですか!
掲載は少女マンガ誌「別冊マーガレット」(集英社)。すでに連載は終了していますが、渡辺先生は引き続き同誌を中心に読み切り作品を連載中です。
ストーリー紹介
女子高生の二村海美帆は合同教室で憧れの男子・南百瀬くんと急接近するも、クラス替えにより遠い存在に……。落ち込む海美帆だったが、「有言実行委員会」を名乗る謎の女子・愛崎八千代の後押しを受け、南百瀬くんに告白する。純粋でまっすぐな八千代に感化された海美帆は「有言実行委員会」に参加。 そんなある日、海美帆のクラスに新しい転校生・四宮詩朗がやってきて……。
表紙だけを見ると直球の恋愛マンガのようですが、どちらかと言うと、恋愛より友情に重きを置いた作品。少女マンガに恋愛要素を求める女子にとっては少し物足りないかもしれませんが、ありがちな恋愛マンガ展開に食傷気味の人、かわいい女の子が好きな人にはぜひ読んでいただきたい。
今回社主がこの作品を取り上げたのは、王道恋愛な少女マンガでなかったこともありますが、何より大好きな「変な女子」が出てきたのが最大の理由です。
残念美人の八千代さん
どうでもいい情報ですが、社主はマンガでもリアルでも「変な女子」が大好きです。「残念美人」とも呼ばれるこのような女子は「黙っていれば美人なのに、奇行ですべて台無し」が特徴。最も知られるところではライトノベル「とある科学の超電磁砲」(鎌池和馬)に登場する研究者・木山春生がその代表でしょう。少女キャラがメインの同作では珍しい大人の女性として描かれており、「暑くなると所構わず服を脱ぐ」という奇行さえ目をつむれば……、ってつむれるか!
……と、セルフツッコミを入れなければならないほどの残念加減なわけです。そんな女性、大好きだ!
本作「花と落雷」にも残念美人・愛崎八千代が登場。自分しか所属していない謎の団体「有言実行委員会」委員長を自称する彼女は、恋に悩む海美帆を助けるべく立ち上がります。
望みを叶えるためには考えるよりまず行動――。まさに「有言実行」をモットーに海美帆をサポートしていく八千代ですが、海美帆の恋愛が一段落つくと、今度は逆に「八千代ちゃんにも好きな人とか……いるの?」と尋ねられます。
そこで八千代はいつも持ち歩いている「手紙」を海美帆にそっと手渡します。この手紙をきっかけに、作品後半では八千代の恋愛がクローズアップ。まさかの攻守交替です。
なぜ「まさか」なのか。社主が今まで読んできたマンガの中で奇行に走る残念美人の典型は、滋賀県が世界に誇るマンガ家の1人、ゴツボ×リュウジ先生のデビュー作「ササメケ」(角川書店)に登場した美しき奇人女子高生・近江舞子なのですが、彼女にせよ、木山春生にせよ、残念美人は生まれつき残念であることがほとんどなのです。
だから、八千代が残念美人に変わりゆく過去が語られる本作の展開は、社主にとってまったくの予想外なのでした。
かつては人間不信で他人との関係を断ち、毎日1人外で弁当を食べていたという八千代の過去に何が起きたのか。本当はこの場ですべてネタばらしをしてしまいたいのですが、無愛想美人が残念美人に変貌する過程、そして今の八千代がその過去をどのように受け止め、未来につなげていくかという部分は、実際に読むことで社主と同じ経験をしていただきたいので、あえてこの場では語りません。とにかくこれは実際に読んでもらうしかないのです。
ただ、これだけは言わせてください。
本作を最後まで読み終わったら、その余韻に浸りつつ、もう一度、第1話から読んでみてください。それまでは内気な海美帆の背中をどんどん押していく、時には強引なストーリー進行役だった八千代に対する見方が大きく変わるはずです。1周目は海美帆視点、2周目は八千代視点。1回で2度楽しめる、いや、2度読んで初めてこの「花と落雷」という物語を真に理解できると言っても過言ではありません。
これからが楽しみなマンガ家がまた1人
最後に、ストーリーとは別の部分で一言。冒頭で表紙イラストについて少し触れましたが、作者の渡辺カナ先生、大変器用な画力の持ち主です。
表紙イラストは少女マンガ然とした繊細な画風ですが、本編ではコミカルにデフォルメされたキャラが立ち回るなど、力の入れ方・抜き方がよくわかっておられます。お気づきのように社主は八千代推しですが、それはコミカルな表情の多い彼女が、最終話、母校の中学校から逃げ出すラストシーンで見せる、作者渾身のワンカットに魅せられたのもその理由の1つ。
「花と落雷」は恋愛より友情に重点を置いた作品ということもあってか、作中登場する男子の描き方が女子2人に比べてかなり素っ気なく、魅力に欠けているのは今後の課題かもしれません。
しかしまだデビューして3年しか経っていないことを考えると、これから十分に伸びる余地のある将来有望なマンガ家さんだと思います。本作は男である社主でも楽しめたし、将来的には少女マンガの枠にとらわれないオールラウンドな活躍も期待できます。
こういう新発見があるから、マンガ読みってやめられないのです。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。今週末は「明るい廃墟」として今ネットで話題の「ピエリ守山」にぜひお越しください。週末イベントもあるよ!
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虚構新聞の社主UKが知られざるパーソナリティを(思わず)吐露しつつ、大好きなマンガを語りまくります。
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