ヤマハが超お手軽なボカロ曲制作iPhoneアプリ「VOCALOID first」を無料公開 水口哲也プロデューサーに話を聞いてきた
あらかじめメロディーが入った、伴奏付きの素材をつなげるだけで短い「ボカロ曲」が完成。さらに歌詞も簡単に作れる仕掛けが。
「ボカロPになりたい」「ボカロ曲を作りたい」人向けの環境はだいぶ整ってきた。Macに対応したり、DAW(音楽制作ツール)と一体化したボーカロイド編集ソフトをヤマハ、クリプトンが出したり、任天堂がバンドブラザーズPをニンテンドー3DS向けにリリースしたり。
しかしヤマハはVOCALOIDクリエーター人口をさらに増やしたい考えのようだ。
11月7日に公開されたiPhoneアプリ「VOCALOID first」は、あらかじめメロディーが入った、伴奏付きの素材をつなげるだけで短い「ボカロ曲」ができてしまう。意外にハードルが高い「歌詞」も簡単に作れてしまう仕掛けがある。お手軽だけど、自分で作ったボカロ曲。そんなボカロP気分を味わえるアプリだ。iPhone、iPad向けにも、VOCALOIDを歌わせるアプリ「iVOCALOID」が2010年に出ているが、それよりも簡単に入っていける。
ゲームのような楽しさ、軽快さで曲が作れるアプリをプロデュースしたのはゲームデザイナーの水口哲也さん。水口さんとともに開発を担当したMonstarsの石毛英一郎さん、ヤマハ側からは大島治さんの3人に話を聞いてきた。
簡単に作詞できる魔法の方法
ヤマハと水口さんが組んだプロジェクトはこれが初めてではない。Androidを使った楽器プラットフォームであるMiselu neiro向けに、VOCALOID制作ツール「MV-01」を開発している。これはMiselu neiro自体が市販されなかったこともあり、プロトタイプのままで終わったが、水口さんによると、そのUX(ユーザー体験)とエッセンスが今回の「VOCALOID first」には生かされている。
「MV-01」は、音声で歌詞を入力し、それを音符に割り当てていく、両手と声を活用したユニークな操作インタフェースを持っていた。「直感的で没入感のある創作体験」が主眼の「右脳と左脳で創作する」アプリケーションだ。水口さん自身がデモしている動画を、DTMstationのサイトで見ることができる(参考:VOCALOIDエンジンを使ったsinging synthesizer、MV-01とは?)。
ヤマハと水口さんが再びパートナーを組んで取り組むのは、「MV-01」終了後。「そもそもどんなことができますかね」(大島さん)のディスカッションからスタートして「細く長く」続けてきたプロジェクトだ。
ターゲットとして決まったのは、初心者の、日本のiPhoneユーザー。これまでのVOCALOIDアプリで曲を作ってこなかった人たちに創作体験をしてもらうのが目的のアプリだ。「親指1本で楽しみながら作ってもらう、できないと思っていた人でも気がついたらできた、みたいなものを目指してきた」と水口さん。
では、できないと思っていた人たちにとって障害となっているのは何か? 1つは「作詞」だ。
水口さんは元気ロケッツのプロデューサーであり、作詞もしている。石毛さんはまず作詞のプロセスがどういうものか、水口さんにヒアリングを行った。作詞は「誰でもできる」というイメージがあるが、その過程は複雑で、歌を作ったことがない人たちに「歌詞を自分で考えてみて」というのは困難なことだ。水口さんによれば、歌詞を作るときには「引き出しを開けること」「気になるものをネットサーフィンのように連想していく」「言葉を入れ替えたりして構成していく」といった作業を行う。これは、もともと言葉の引き出しがない人、その構成方法に慣れていない人には難しい。
そこで、「VOCALOID first」では、作詞をできるだけ簡単にする仕組みを考えた。
まず、歌詞に出てくる単語の候補だ。「VOCALOID first」では、曲調によっていくつかのテンプレートが用意されている。標準状態では「はじめてのボカロうた」「純心ガール☆ポップチューン」「chねら〜@川柳 ボカロ味」、アプリ内課金でさらに3つのテンプレートを追加できる。それぞれのテンプレート向けに、曲調に合った歌詞用の単語が用意されているのだ。ユーザーはそこから選ぶだけでいい。
「純心ガール☆ポップチューン」であれば、自分が選んだメロディーの4音に歌詞を当てはめたいというときには、その音符をさっと4つなでて選ぶ。すると、4文字の候補が出てくるのだ。例えば「ドキドキ」「恋空」「鈍感」「初恋」「悩んで」。そこから選べばいい。音符3個分だとまた別の3文字の候補が表示される。
その言葉にインスパイアされて残りを作ってもいいし、「横浜たそがれ方式で、ただ並べるだけでもいいですね」と水口さん。五木ひろしの「横浜たそがれ」はちょうどそういう、「たそがれ」「ホテルの小部屋」「口づけ」といった単語を並べただけの歌詞が印象的な演歌。「名曲の入り口になるでしょう?」と水口さんは笑う。
メロディーは選ぶだけ
「VOCALOID first」では、ユーザーが混乱しないこと、あきらめないこと、最後まで完成させることを第一に考えている。そのためのさまざまな工夫は、その創作の仕組みに現れている。まず、いきなりピアノロールや楽器のインタフェースを提示することはない。「全部フリーダムにするとなにをしたらいいか分からない」からだ。
そのために、メロディーラインは、あらかじめ歌詞(「ららら」も含む)が入ったいくつかのパターンから選ぶようになっている。そのメロディーのパターンを選んだら、単語の候補から選んだり、自分で考えたりして歌詞を音符に送り込む。すると、VY1の歌声で、自分の歌詞で歌ってくれるというわけだ。もちろん、そのメロディーラインに合ったバッキング演奏付きだ。
言葉とメロディーをくっつけて楽しむ。それを演出するエフェクトもゲームで培ったもので、「何フレームでエフェクトが消えると一番気持ちいいか」といった細部のチューニングがされている。効果音も同様。「このクリック音は邪魔になるんじゃないかとか、AからBに移るときには光のエフェクトがないと分からないんじゃないか」とかいった演出を常に考えていると石毛さん。
1つのブロックが完成したら、またメロディーラインを選んで歌詞を入れる。それを4回繰り返すと完成だ。プラレールの車両のように、ブロックを連結して曲にする。
曲としては短い。だが、それには理由がある。「8フレーズ、16フレーズとか長くなると飽きてしまうんです。普通の人には長い創作時間はストレスで」と水口さん。気持ちよく終われるのは4フレーズ(ブロック)だという。集中力が続く限界である1、2分で1つの作業が完結するように工夫している。「電車1駅分が目安」だ。「長いと音をつなげることに集中しすぎて、歌詞とかどうでもよくなってしまうんですよ」(石毛さん)
ユーザーのモチベーションを維持することが大切で、その邪魔になるものは削ぎ落としていく。例えばメロディーラインを変更するインタフェースでは、音符の幅を変更することも考えたが、「収拾がつかなくなると魔法が解けてしまう」ため、あえて切り捨てた、と石毛さんは説明する。音程をいじれるようにしたのは最後の段階。「音程を上下に動かすだけだったら、元の音程のガイドもあるので、元に戻せるようにしてあるんですよ」「音程をいじったときに音痴になったりする、それが楽しかったりするんですよね」
魔法にかかって達成感に向かって導いていく。そして完成物を友だちに聞かせる。そんなコミュニケーションが生まれることを、このアプリには期待している。「歌を回し合う、贈り合うというのも面白そう。俺、歌詞変えちゃったもんね、とか。みんなが自分たちのテーマ曲を1曲持っているみたいなことになるといいなあと思ってます」と水口さん。いまはメールにできあがった曲のAACファイルを添付して送るだけだが、それを共同で編集しあったり、ビデオとして完成させて動画サイトに公開することもいずれ可能になるだろう。GarageBandなどの制作ソフトで自分のバッキングをつけたり、自分の歌声とデュエットしたりすることもできるかもしれない。
VOCALOID firstが「マイ・ファースト・ボカロ」として、広範囲な層に受け入れられれば、MV-01では実現していた音声入力や、連想による歌詞提案、英語対応といったさまざまな機能追加も考えられるだろう。
現在はアプリ内課金で追加テーマが現在3つ用意されている(1テーマ200円)。「ただヤマハからテーマを提供するのではなく、ユーザーのみなさんから吸い上げていくような仕組みもできたらいいなあと思ってます」と大島さん。作詞に困っているボカロPにとってはいい作詞辞書代わりになりそうなので、どんどん増やしてもらいたいところだ。複数のテーマで歌詞を横断的に使ったり、自分のお気に入りの単語を登録したりする構想もあるようなので、そこは期待したい。
ちなみに、このアプリで作った曲は「自分のオリジナル」としてどんどん投稿していいそうだ。さて、ねとらぼでもオリジナル曲作りますかね? それともITちゃんの追加テーマとか?
関連記事
- VOCALOIDチップを搭載した学研「歌うキーボード」を弾いて聞いてきた
「Maker Faire Tokyo 2013」の学研ブースで体験できるぞ! - 柴咲コウさんのアイデアから生まれたボカロ「ギャラ子」が製品化
「中の人」は柴咲コウさん自身といううわさ。 - 歌詞を入力するだけでボカロ曲を自動作曲 ヤマハが「ボカロデューサー」発表
50文字程度の歌詞を入力すると、2〜8小節程度の「ボカロ曲」が自動で完成。 - 鼻歌が勝手にミクの声になる! 画期的技術を暇な学生(?)が開発
鼻歌歌いながら歌詞をタイピングすると、ミクさんがリアルタイムに歌ってくれるぞ! すげえ!! - VOCALOIDエンジン引っさげ、ヤマハがゲームに参入 第1弾「ボカロダマ」で遊んでみた
ドコモがiPhoneを売り始め、日本のスマートフォンが一気にiPhoneに向かおうとしている。iPhoneアプリ「ボカロダマ」はVOCALOIDの裾野を広げるか……! - 初音ミクV3は9月26日リリース:初音ミク英語版は8月31日発売 「クリエイターが世界で活躍できるパスポートに」
初音ミクV3は日本語版、英語版、その2つを収録したバージョンの3形態をラインアップ。5種類の歌声ライブラリを収録した。 - 初音ミクがMac、英語、GarageBand対応――「肩の荷が下りました」とクリプトン伊藤社長
6年かかりました。MacユーザーのボカロPおよびボカロPになりたいMacユーザーの皆さん、チャンスはついに訪れた! - 初音ミクの「メルト」を人形浄瑠璃で――「世界ボーカロイド大会」リポート
ネギを振る文楽人形、ボカロ列車、ファンによるボカロライブ……ファン主催によるイベント「世界ボーカロイド大会」は盛りだくさんな内容だった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
-
「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
-
“ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
-
高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
-
「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
-
「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
-
「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
-
“歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
-
黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
-
走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
- 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
- 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
- ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
- 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
- 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
- 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
- フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
- 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
- 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
- ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
- 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
- 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた