ポスターに隠された意味、いま明かされる宮崎駿・高畑勲伝説【ほぼ全文書き起こし】:映画「夢と狂気の王国」公開記念鼎談(1/5 ページ)
スタジオジブリの“今”を描いたドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」が公開。プロデューサーを務めたドワンゴ川上量生会長らが撮影の裏側とポストジブリのアニメ業界を語る。
スタジオジブリの“今”を描いたドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」が、11月16日に全国で封切られ、東京の新宿バルト9では、同日午前0時からの世界最速上映を含む公開記念イベントが開催された。上映カウントダウン&舞台あいさつには砂田麻美(まみ)監督、プロデューサーを務めたドワンゴの川上量生会長、スタジオジブリの野中晋輔さん、そして鈴木敏夫プロデューサーが登壇し、制作エピソードを語った。
「夢と狂気の王国」は、宮崎駿監督の「風立ちぬ」、高畑勲監督の「かぐや姫の物語」の制作現場を軸に、両監督と向きあう鈴木P、そしてジブリスタッフの日常風景を捉えた作品。「風立ちぬ」における庵野秀明監督(堀越二郎役)の起用、「かぐや姫の物語」の公開延期といった局面を決定する瞬間や、宮崎吾朗監督と川上会長の対峙(たいじ)シーン、引退会見に臨む宮崎駿監督の姿などジブリファンならずとも必見の映像が収められている。
撮影期間は延べ1年間。完成は公開1週間前。砂田監督は「心の半分がまだジブリにあるようなふわふわした感じ」と心境を吐露する。鈴木Pは「ジブリを題材にしたドキュメンタリーではなく『映画をつくりたい』(という砂田監督の言葉)は殺し文句だった」と振り返りつつ、「立派な映画になったと思います。真実は何も伝えていない(笑)」「本当に大変だったんですよ。仕事の邪魔をして(笑)。全部マイペースでみんなをハラハラドキドキさせたよね」と辛口を交えながらねぎらった。
キャッチコピーの「ジブリにしのび込んだマミちゃんの冒険」に関しては、鈴木Pいわく「全部マミちゃんの責任にするため」。川上会長は、試写会まで「監督の名前はアサミで、マミちゃんはあだ名だと思っていた」とコメントし、砂田監督に「衝撃でした」とツッコまれていた。
また、上映開始前には、「『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』以降の日本のアニメの未来」と題したトークショーが行われ、舞台あいさつとあわせてニコニコ生放送で中継された。参加したのは、鈴木Pの下でプロデュースを学んだProduction I.G所属の石井朋彦さん(「東のエデン」「攻殻機動隊 S.A.C. SSS 3D」ほか)、細田守監督と「スタジオ地図」を設立した齋藤優一郎さん(「時をかける少女」「おおかみこどもの雨と雪」ほか)、そして川上量生会長の3人。以下、密度の高い鼎談内容を紹介したい。
なお、会場となった新宿バルト9は11月16日〜11月22日の期間限定で、エントランスホールにスタジオジブリをイメージした庭が展示されている。世界最高峰のガーデニング大会「チェルシー・フラワー・ショー」で3年連続ゴールドメダルを受賞した石原和幸さんによる作品だ。
「こんなドキュメンタリー初めて見たな」
川上 ご覧になって、いかがでしたか?
石井 すごく面白かったです。僕は「となりの山田くん」「千と千尋の神隠し」から「ゲド戦記」くらいまで、ジブリに在籍してきたので、ほぼすべてジブリのドキュメンタリー番組は見てるんです。特番も担当していました。そのどれとも違って、「こんなドキュメンタリー初めて見たな」というのが、最初の感想です。
川上 僕は鈴木さんに弟子入りしたんですけども、その前にずっと弟子入りされていて。
石井 名刺の肩書きが「鈴木敏夫アシスタント」でした。
川上 僕は、なんちゃってカバン持ちだったんですけど、石井さんはちゃんとお仕事されていた。
石井 はい。それで、とにかくですね、すごいきれいなドキュメンタリーなんですよ。初めてジブリに来た人が、「なんでこんな理想的な環境で、こんなキラキラしたところで、こんなすてきな宮崎駿監督と、ここでお仕事できるんだ」というね、初めてジブリに来たお客さんが抱く印象が、画面とフィルムに現われていて。
川上 映像はきれいですよね。それはビックリしました。
石井 あんまりきれい過ぎるんで、ちょっとこれ、このままで本当に良いのかなと思いながら。内情を知っている身としては、見始めるわけですよ。
川上 ほんとうのスタジオジブリは、こんなにきれいじゃないと(笑)。
石井 夢の部分がいっぱい描かれているんですけど。だんだん、夢の中に、狂気がじわじわと見えてくるっていうのが、このドキュメンタリーの恐ろしいところで。ネタバレは控えますが、注目してもらいたいポイントは宮崎吾朗監督と、高畑勲監督ですね。この両者の登場の仕方がまあすさまじく面白い。それまで、夢の部分だった作品が、一気に狂気に変わっていく。
齋藤 一番の見どころですよね。
石井 そこだけでも、これを見る価値があるんじゃないかな。
「もう……ニコ生では言えない狂気の現場が」
齋藤 僕は、2人とは違って、スタジオジブリに入社したこともないんですが、やっぱり、アニメーションの世界に入ったきっかけが、高畑監督・宮崎監督の作品で。高校生の頃、鈴木さんの話をいろいろ聞きに行くなど、青春時代にパッションな刺激を受けています。あと細田監督作品を作っていくなかで、ジブリのスタッフの方たちにいつも一緒に手伝ってもらっています。
川上 細田さんも一時期ジブリにいらっしゃったんですよね。
齋藤 あのとき、僕は当然いなかったんですけどね。石井くんがそのときは。
石井 僕、そのとき担当だったんですよね。……もう、ニコ生では言えない狂気の現場が。
川上 まあ、2ちゃんねるには書いてあるようなことですよね(笑)。
齋藤 映画作りはだいたい夢と狂気が両方あって、恍惚(こうこつ)と不安が両方あって作られるみたいな感じだから。
川上 今回の映画って、関係者の人と、そうじゃない人の間でけっこう見方が違うんですよね。僕らは、スタジオジブリの中にいるので、ほんとつまらないところに反応したりするんですけど。普通の人が見たのと、だいぶ見方が違うので、お客さんがどんな見方をするのか。
齋藤 それは興味ありますね。
川上会長をプロデューサーに抜てきした理由
石井 鈴木プロデューサーさすがだなと思ったのはね、まず川上さんをプロデューサーに抜てきしたじゃないですか。この時点で「このドキュメンタリーは、おれは関係ないぞ」という宣言なわけですよ。
川上 そうなんですよ。
石井 さらに、コピーが「ジブリにしのび込んだマミちゃんの大冒険」でしょ。あくまでも、マミちゃんの大冒険なんだから、おれは関係ねえぞ、っていうことなんですよ。
川上 責任回避なんですよね。
石井 宮崎さんってすごい人で、カメラが回ると本当にお客さんが見たいこと、してほしいことを次から次へと繰り出してくれるわけですよ。どんな監督さんも、どんどんそれに巻き込まれていって、どんどん宮崎さんが作っていく世界にね、惹きこまれていってしまう。これは、ドキュメンタリーという感じよりは、もうひとつの宮崎駿監督映画みたいな。だから、関係者はこんなに美しく描いて良いんだろうか、と思う人もいるかもしれませんね。
川上 そうですよね。関係者の人とっては「絶対これは違う」と感じる可能性が高いと思うんです。宮崎さんにしても、高畑さんにしても、非常に強烈な個性をお持ちな方なので。まあ、素直に気に入られることっていうのは、100%ないわけで。そういうところで、僕がプロデューサーにさせられたのかなっていうことを、作ってる最中に気づきました。
石井 すごく歴史的に貴重なドキュメンタリーですよね。撮られる被写体の鈴木さんが明らかに責任を川上さんにポイっと置いてね、横でニヤニヤ笑いながら見ている感じがすごく面白いですよね。
川上 ほんとう大変だったんですよ。いろいろ撮らせてもらえなかったり。
齋藤 逆に言うと、鈴木さんだったら自分でそれを撮るわけにはいかないし、自分でプロデューサーやるわけにはいかないですよね。だから、やっぱり川上さんがやる必然性というか。そうじゃないと、冷静なドキュメンタリー映画って出来ないんじゃないかな。
川上 鈴木さんは単純に見たかったんだと思いますよ。自分が関わらないところで第三者の砂田さんが撮ったジブリが、どう映るものなのか関心があったんだと思うんですよね。それで、距離を置いておきたかったんだと思いますけど。
石井 そうですね。鈴木さんは突然、ポイって責任を人に預ける。それによるトラブルを含めて楽しむ人ですよね。
川上 いろんなプロデューサーいると思うんですけど。「こういう作品にしてほしい」じゃなくて、「どんな作品が出来るんだろう」っていうのを楽しみにしてますよね。
石井 そうですね。編集者的な視点なのかな。逆算的な視点で見てることがありますよね。
川上 編集者っていうか、野次馬っていうか。
齋藤 そういうこと大事ですよね。
若き日の鈴木敏夫プロデューサー
石井 作中に鈴木敏夫さんの若い頃がでてきて、30代の動いている鈴木さんとか、初公開映像がいっぱいあるんですね。
齋藤 出典は言えないかもしれませんが、ああいう映像はたくさんあるんですね。
川上 実はあるんですよ。
石井 しかも初めてジブリが新しいオフィスに移るとか、ナウシカの時に、鈴木さんがスタッフの前でスピーチをする映像とかもあって、これを見るだけで涙がちょちょ切れました。
川上 鈴木さんがほんと痩せているんですよね。今の鈴木さんはすごい人格者にみえるけど、昔の鈴木さんってなんでこの人を宮崎駿は信用したんだろうみたいな感じの。
齋藤 そうですか?
川上 そういう感じじゃないですか。
石井 まぁいかがわしいですよね。
齋藤 いやいやいや、むしろものすごく情熱を持ってやってらっしゃる……。日本テレビプロデューサーの奥田さんもお変わりなくて。
砂田監督からのサービスカット
川上 奥田さんはいろんなジブリ映画のモデルになってる方ですね。「紅の豚」とか「千と千尋の神隠し」の豚になったお父さんとか、要するに豚みたいな感じのキャラクターは大体奥田さんがモデルだと。
齋藤 なんというまとめ方をするんですか(笑)。
石井 よくお食べになる。
川上 すごくジブリの中で愛されているキャラクターで、その人が(映画に)出てくるんですけど、ずっと食べている。そこは見どころですので。これは砂田監督が「ジブリの皆さんへのサービスカットです」といれたシーンらしいです。
齋藤 癒やされますね。だけど奥田さんはそれこそ20年も毎日ね、ジブリに通って、高畑さんや宮崎さん鈴木さんと話をして。全然住んでいるところは違うとこなんですよ。情熱だけでもできないですよ。
石井 仕事にはこうパートーナーが必要なんだなと感じますね。世の中的には1人でオールマイティーなすごい人たちかなというイメージがあるじゃないですか。でも、ものすごく人と一緒にやることを大事にしている。
川上 営業とかじゃないんですよね。仕事を営業でちゃんとやるという話ではなくて、一緒に生きる、そういうことですね。一緒に仕事をする、一緒に生きる道を選択するみたいな。
齋藤 それは本当にすごいですね。御三方を映してる映画でもあるんだけど、奥田さんをはじめ後ろに映っていた人たちがスタジオジブリだとか両監督の作品を作ってきた、その人達がもう1人の主人公なんだということが非常によく分かる映画だったと思います。
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