3Dラテアートの次は「3Dカクテル」? 元パティシエが作るかわいすぎるお酒を飲んできた
カクテルの上に乗っているのはキュートなクマやウサギ――ネットで話題の「3Dカクテル」を飲みに下北沢を訪れた。
進化し続けるフードアートの世界。「3Dラテアート」が注目を集める中、今年に入ってカクテルを立体的にデコレートした「3Dカクテル」が登場してネットで話題になった。3Dカクテルを飲める「DUKE CAPO」(東京・下北沢)を訪ねてみた。
3Dカクテルを作るのは“魔法使い”
3Dカクテルを考案・提供するのはバーテンダーの須永真由美さん。調理科のある高校を卒業後、専門学校へと進み、都内にあるケーキ屋に3年半勤めた。「主にマドレーヌやフィナンシェなどの焼き菓子を担当していました」と振り返る。
お菓子作りの道に進もうと決めたきっかけは、幼い頃にさかのぼる。地元のケーキ屋に勤める近所のお姉さんが余ったケーキを分けてくれて、須永さんは「おいしいおいしい」と食べていた。
「私たち(ケーキ屋)は魔法使いなの。甘いものを食べる人を笑顔に変える魔法が使えるんだよ」――そのお姉さんの言葉を受けて、幼心に「魔法を使えるようになりたい」と思った須永さん。デザート作りを勉強するため、調理の専門技術を学べる学校に進学する。昔から夢は一貫していたのだ。
ケーキ屋を退職してからは、さまざまな飲食店で働く日々が3年ほど続いた。「人と話すのが苦手だったのですが、なんとか克服したいと思い……昼間に飲食の仕事をする傍ら、夜は兼業でナイトワークをしていたこともあります」と語る。
夜の仕事をするようになってからは、飲みに行ったり、お酒に触れたりする機会が自然と増えた。お酒を知っていると料理にも生かせるのではと思っていると、たまたまDUKE CAPOで働かないかと誘われ、ジョインしてからもう1年半ほどになる。
完成までの苦労
3Dカクテルのアイデアは何気ない話の中から偶然生まれた。同僚と3Dラテアートの話になり、「コーヒーには3Dがあるのに、どうしてお酒には3Dがないの?」と疑問を抱いた須永さん。店長や別のスタッフから「作ってみたら?」と後押しされ、3Dカクテルに挑戦することになった。
3Dラテアートはホットで作ることもあって、はじめはホットカクテルとして提供しようとした。しかし、アートになる生クリームがすぐに溶けてしまい、どうしようかと悩む。
頭を切り替え、ホットカクテルではなく、通常の冷たいカクテルとして作ることにした。ところが、普段カクテルに使う四角い氷を使うと、土台がグラグラと不安定になり、アートが完成しなかった。カクテルの上にアートを作るには、土台の安定が欠かせない。
そこで登場したのがクラッシュアイスだった。グラスをクラッシュアイスで満たし、ベースになるリキュールを流し込んで混ぜる。その上に生クリームをたっぷり載せて平らにすると、安定したアートの土台が出来上がった。
ベースはアートに使う生クリームと相性のよいミルク系やチョコ系、紅茶系などの10種類以上のリキュールから好きなものを選べる。その際、上にどんなアートを施してほしいか須永さんへ伝えると、リクエストに応じて作ってもらえる。
「クマやウサギ、ネコなどの動物系が人気です。思い出の作品はガンダム。かなり気合いを入れて作りました。お客さんから見せてもらった画像を参考に作ると、意外と上手くできて喜んでもらえましたね」
実は3Dカクテルはメニューリストに掲載されていない。まさに「裏メニュー」だが、Webニュースで3Dカクテルを知った人が店を訪れて注文することが増えた。とくに女子やカップルからの人気が高いという。その知名度は地方へも広がり、大阪在住の人が上京した際に、3Dカクテルを飲みたいからと店に来てくれたこともある。
カクテルにパティシエの技
この日、実際に筆者の目の前で3Dカクテルを作ってもらうことにした。土台を作った後、生クリームをいくつかのボウルに分け、食紅を混ぜて色を付ける。土台やアートはすべて生クリームで作られ、細かい文字や模様は三角に折ったクッキングシートの中にチョコを入れ、筆のようにして描く。その姿はパティシエそのものだ。
「ケーキを作るときと変わらない」と須永さんは話し、真剣な面持ちでひとつひとつの装飾を作り上げていく。1つ目は2匹のクマが載った定番人気のキュートなカクテル。ピンクのキスチョコが2つ載ったクマは女の子。ミントとバラがアクセントになっている。
もったいなくて飲めない……と思いながらいただく。「マドラーかスプーンで生クリーム部分を崩しながら混ぜて飲むと、下のリキュールとあわさってちょうどよい濃さで飲めると思います」と須永さん。甘くて優しい味わいがスイーツのようだ。
なるべくクマを崩さないよう混ぜながら、アートが崩れていく様子を写真に撮っていると、須永さんはニコニコしている。提供したてのカクテルだけではなく、飲んでいる途中の状態を撮影するのは筆者だけではないという。さらに、食べ方も人それぞれでクマを最後までなんとか残そうとする人、最初に写真を撮ってその後は思い切ってクマを崩す人など、提供してからお客が食べる(飲む)姿を見るのが須永さんにとって一番の楽しみだという。
2つめは「夏を意識した、どこにもまだ発表していないカクテルを作ってください」とオーダーしたところ、カップル向けのカクテルが登場。夏らしさ満点のハイビスカスやスイカ、パラソルがついたインパクト大なアートだ。今後も季節感を大事にして、花や小物などでアクセントを出していきたいと語る。
目で見て楽しめるのはクマだけではない。パティシエの技術がふんだんに生かされた花にも秘密があった。「花の図鑑が好きなんです」と須永さんは語り始めた。休日でも自宅で図鑑を見ながらスケッチをしてイメージをつかみ、食紅を混ぜた生クリームで花の形を作る。オンオフ問わず常にレッスンを重ねる日々。
「ネットには疎いです」と話す須永さんだが、YouTubeは参考にしているサイトの1つ。海外のデコケーキの動画を見ては、アートの参考にしているという。「甘いものを作るのが大好きだから、いろいろ研究するのは楽しいんです」と前向きに語ってくれた。
「週5〜6回私が出勤している日であれば、3Dカクテルをリクエストに応じてお作りします。Facebookページで出勤状況が分かるので、事前にチェックして来店いただくとよいかも知れません」
甘いものを食べる人を笑顔にする魔法使いになりたいーー幼い頃の思いはリアルに形になった。下北沢の魔法使いに会いに行ってはいかがだろうか。
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