メイとサツキの家は「無意識」と「意識」の融合 となりのトトロがより楽しめる建築史観
「ジブリの立体建造物展」で解説をつとめた建築史家・藤森照信さんが、「メイとサツキの家」の構造の面白さについて語った。
日本テレビ「金曜ロードSHOW!」で繰り返し放送される、スタジオジブリの名作「となりのトトロ」。草壁家が引っ越してきた通称「メイとサツキの家」は、瓦屋根の和式の平屋と、お父さん(草壁タツオ)が書斎にしている洋式の小屋がくっついた、ちょっと変わったつくりになっています。
この家を建築史的に捉えたとき、トトロの世界がぐっと面白くなる話が、7月10日から始まった「ジブリの立体建造物展」の記者会見で飛び出しました。監修・解説をつとめた建築史家・建築家の藤森照信さんによる公開トークでの一幕です。
藤森さんいわく、メイとサツキの家は建築史観からすると「無意識的建築」と「意識的建築」との融合なのだそうです。
無意識的建築とは、長い間人々が受け継いでいく中で、どうしてこういう作りになったのか由来が分からなくなった、慣習的な建築。例えば長野県の昔の家は、冬場はマイナス15度くらいになるのに防寒しようという努力がまったく見えず、人々は毛布にくるまって寒さを乗り越えようとします。建物に「寒さを防ごう」という意識が働いていない、不可解な作りです。民家というものはだいたいが無意識的な建築になっているとのこと。
意識的建築はその逆で、ちゃんと「寒さを防ごう」といった意図、時代の思想を表現している作りです。お寺や役所に多いらしく、浄土宗のお寺が金ピカなのもその一例。亡くなった人が神の元へ行くキリスト教と違って、浄土宗では仏様がこの世にお迎えに来てくれます。日常生活に浄土(仏の国、清浄で清涼な世界)があるという思想が、キレイな仏壇に意識的に表れているのです。
メイとサツキの家は、「無意識的建築」な和館と、「意識的建築」な洋館が組み合わさった建物になります。「ジブリの建造物展」で、設定資料に対する藤森さんの「暗さ」「雨戸」という解説を見ていると、次のようなことが分かってきます。
和館は軒が深くなっているため、天井が暗いです。天井を照らす光と言えば、軒下から入った光が畳に反射したものくらい。室内においてはヨーロッパと比較にならないくらい天井面が暗いそうです。「何となく天井の上の方にお化けがいそうな感じ」とも。室内を明るくしようという意識がありません。
対して洋館は高い位置に窓があります。バルコニーには雨戸のような光をさえぎる戸はなく、ガラス張りの開き窓が。光を取り入れようという意識が強く働いています。
こうした和館・洋館の無意識的・意識的の対比は、トトロたち不思議な存在と人間たちの対比をより際立たせます。草壁家が引っ越してくるまで、和館には「まっくろくろすけ」こと「すすわたり」が住んでいます。メイやサツキといった子どもにしか見えない無意識的な存在だと、藤森さんは指摘。対して洋館は大学教授であるタツオが思想をもって研究を進める場所。大人が意識を働かせます。
藤森さんはまっくろくろすけの引っ越しにも踏み込みます。和館にいたまっくろくろすけは、意識的な人間である草壁タツオが引っ越してきたことで家から出ていきます。行く先はトトロの住む森。知識では理解できない、無意識的な世界です。
「森のなかは自然。自然と無意識な世界は通じている。すごく面白い、わかりやすい対比でストーリーを描いている」と藤森さん。伝統的な民家と自然どちらにも、人には説明がつかない“無意識的な何か”があることを、まっくろくろすけは夜にせっせと移動しながら暗示していたのです。
トトロのキャッチコピーは、「このへんないきものは まだ日本にいるのです。たぶん。」――"へんな生きもの”はトトロや猫バス、まっくろくろすけたちでしょう。藤森さんの話を聞いていると、無意識的建築という“へんな建てもの”もまだ日本にあることをトトロという作品は表現しているように思えてきます。
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