入れ墨でも専用シールで隠せるなら入浴OK 星野リゾートが試験的に導入 ファッションや文化の違いを見据えて
そもそも日本の公衆浴場が「入れ墨お断り」をするのってどうして?
銭湯や温泉、サウナ、健康ランドといった公衆浴場では、入れ墨(タトゥー)をした人の入場を拒否するお店が多いです。この慣習に一石を投じるような取り組みを、宿泊事業を営む星野リゾートが4月15日に発表しました。これで入れ墨を隠せるなら大浴場で入浴しても構わないという「タトゥーカバーシール」を、10月1日から温泉旅館ブランド「界」の全施設で試験的に導入します。
「タトゥーカバーシール」は8×10センチサイズのシールで、希望者に無料で配布する予定。具体的にどのようなものにするかまだ準備段階ですが、このシール1枚を貼って入れ墨を覆い隠している状態に限り、入れ墨を入れた人の入浴を許可するそうです。
広報担当者によるとシールを導入する理由は2つ。
1つは国内の若者にファッションとしてタトゥーを入れる人が増えてきたこと。これに伴い小さなタトゥーなら抵触しないだろうという感覚で入浴する人も出てきた一方で、大小関わらずタトゥーは好ましくないとする利用客もいるため、価値観のすれ違いが起こっていました。施設でも、タトゥーを部分的に入れた人が入浴していたことに対し、「なんで入浴しているの?」とほかの利用客からクレームが発生したケースもあったといいます。
もう1つは、外国人利用客が増えてきたこと。中には民族や文化を背景にタトゥーを入れている外国人も多く、彼らに対し日本の慣習である「入れ墨お断り」を掲げるのは、これからの時代を見据えた上でも課題だと感じたそうです。
課題を解決するには「何か対策を講じないことには始まりません」と担当者。まずは「タトゥーカバーシール」の実施によって利用客から具体的な意見を聞き、両者が気持ちよく入浴できる道を探っていく狙いです。
そもそも日本の公衆浴場が入れ墨を「お断り」するのはなぜでしょう。実は入れ墨そのものに対し国内では法的規制はなく、入場拒否は個人経営者がそれぞれ自発的に行っているものです。1985年に厚生大臣認可のもと設立された全国浴場組合(登録施設3848店)も「組合の方針として入れ墨をした人の入場禁止を掲げたことは一度もない」と答えました。
それでも拒否する店が多いのは、入れ墨に対し反社会的なイメージをもった利用客とのトラブル発生を防ぐため。入れ墨は江戸時代に刑罰として罪人に施されたり、1872〜1948年は違式註違条例によって非合法とされたり、暴力団が帰属意識のため彫っていたりと、日本においてネガティブな歴史的背景をもちます。部分的とはいえ入れ墨に対しクレームが起こるのも、こうしたマイナスイメージが根強く残っているのが原因でしょう。「入れ墨お断り」の看板を無視して入浴施設に入った山口組系組長へ、「建造物侵入罪」(刑法第130条)に当たるとして懲役7カ月の実刑判決を言い渡す裁判も2010年にありました。
ただしファッションや異国の民族文化など、反社会的とはいえない理由で入れ墨をもつ人々が増える現代。すべて一緒くたに「お断り」していくのは多様性への否定にも見えます。今回の星野リゾートの取り組みを入浴者がどう受け止めていくか見ものです。
(黒木貴啓)
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