ボールも手もヌルッヌル! 話題のゆるスポーツ「ハンドソープボール」でヌルヌルまみれになってきた
「ハンドソープボール」なる新スポーツがちまたでひそかに話題になっているらしい。この競技の体験会が開催されたので、その意義と醍醐味を確認してきました。
最近、「ハンドソープボール」なるスポーツが話題になっていることはご存じでしょうか?
この競技のルールについて、ハンドソープボール普及に努める「世界ゆるスポーツ協会」会長の澤田智洋氏にうかがいました。
「9割5分くらいは、ハンドボールと一緒です。唯一違うのは、ハンドソープを手につけること。それだけです」
もうちょっと詳しく説明しましょう。チーム編成は6人で、その内分けはフィールドプレイヤー4人、キーパー1人、そして「ソーパー」が1人。
「ソーパーとはハンドソープのボトルを持っている人で、フィールドの外に控えています」(澤田会長)
いくつかの違反行為を犯してしまうと、審判から「ワンソープ」が警告されます。例えばボールをキャッチしそこね、落としてしまった場合。そのプレイヤーはソーパーのところへ行き、手にハンドソープを追加してもらわなければいけません。
「他にもあります。ボールキャッチする時、胸で受け止めると捕りやすいですよね。これは、原則として禁止にしました。キャッチは両手だけで、胸を使っちゃダメです。胸を使ったら、これもワンソープです。難易度は高いですが、平等にみんながボールを落としやすくなります」(澤田会長)
ボールがフィールドの外へ飛び出したらボールに直接ソープを垂らす「ダイレクトソープ」というペナルティも。また、プレイヤーの手が乾いていたらハンドソープ追加を命じられる「ソーピング」なんてルールもあります。
「試合が進むごとに、どんどんヌルヌルになっていきます。ぜひ、ヌルヌルを楽しんでください!」(澤田会長)
スポーツに不慣れな“スポーツ弱者”ばかり集合!?
去る8月29日にはハンドソープボールの体験会も開催されました。当日は、澤田会長のこんな挨拶からスタート。
「私は、『スポーツ』という言葉が嫌いです。小学生のころから運動が苦手でした。私みたいなスポーツが苦手な人でもできるスポーツを作りたいと、『世界ゆるスポーツ協会』を立ち上げました。ハンドソープボールは、私の意志が反映された最たるゆるスポーツです」
運動音痴の人も、お年寄りも、障がいを持っている人も、みんなができるスポーツを創る。色んな人たちが混ざり合い、笑いながらできるスポーツを……。それが、同協会のコンセプトだそうです。
その狙いが功を奏したか、体験会には男性、女性、子どもたち、それに加えてフェンシング日本代表でロンドン銀メダリストの三宅諒選手も参加しています。もちろん、皆が同じ条件で試合に参加。
「そもそも僕、球技が苦手なんです。我々だって、スポーツ弱者になる場合があるんです。協会のコンセプトには僕もすごく共感できたので、今回は参加させていただきました」(三宅選手)
では、試合前にウォーミングアップを始めましょう。なんとハンドボール元日本代表で、しかも代表チームキャプテンを務めた東俊介さんがハンドボールの指導を行ってくれました。「ハンドソープボール」じゃないですよ? 「ハンドボール」の指導です。
「やっぱりハンドソープボールは、ハンドボールがベースですから」(澤田会長)
まずは柔軟体操からスタートしますが、やはり運動に不慣れな人が多いみたい。「イチ、ニイ、サン、シー!」の掛け声が小さいですな……。でも、実はこれは良い傾向。スポーツに苦手意識を持つ人の参加こそ、今回の目的なのだから。もも上げ、パス練習、シュート練習などを経た上で、いよいよハンドソープボールのホイッスルが鳴ります!
通常の8兆倍はヌルヌルするハンドソープに悪戦苦闘!
まずは、雌雄を決する2チームが整列。5人の選手の手へ、ソーパーからソープの一垂らしが行われました。
「このハンドソープは、私が昨日の夜に作りました。ローションが配合されており、皆さんが考えてる8兆倍はツルツルします」(澤田会長)
これでもう、思う存分プレイするのは不可能だな……。
そして、ついにフィールド中央の円内にボールが置かれます。そこに両チームのソーパーがやって来て、ボールへダイレクトにソープを垂らしてあげる。そしてソーパーが円の外へ出たら、プレイヤーがボールへと走り出す。ゲームスタート! 先にボールを奪取したチームがパスなどを駆使し、相手ゴールへ攻め込みます。
しかし、やはりツルっとする。予想以上のヌルヌルらしく、パスを受け取った選手からは「うわっ」と悲鳴が上がったり、キャッチし損ねてボールが猫じゃらしみたいになったり、新鮮な光景の連続! どうやら、運動神経がいい人ほど戸惑いが大きくなる模様。
「ハンドボール選手が普段の感覚で掴んだり投げようとすると、余計すべるんですよ。通常のボールの感触を、体が覚えているので。反対にハンドボール初心者はおっかなびっくりプレイするから、ハンドソープボールが上手かったりします。逆転現象が起こるんです」(澤田会長)
いかにもアスリート然とした人が失敗すると、我々は正直うれしいです。スポーツできるオーラを撒き散らしながら、いざとなると失敗を繰り返す異常事態。新鮮です。
「それを僕は“楽しい下克上”って呼んでいます」(澤田会長)
しかし、なんだかんだで次第にコツが掴めてきた。当然といえば当然だけど、勢いあるパスはご法度。だって、キャッチできないから。その法則を体で覚えた選手たちからは「パスは思いやりだよ!」の声が飛び交います。なるほど……!
シュートを決めると、「ナイスシュート!」ではなく「ナイスソープ!」なる呼びかけが発生!
試合の白熱度に比例し、フォールド周辺がいい匂いになっていくのもポイント。だって、ハンドソープだから。しかも摩擦による効果か、見上げるとシャボン玉のごとき泡がいくつか宙を舞っているのもこの競技の特徴です。眼福!
試合が終了すると、そこはもうノーサイド。ヌルヌルの手のまま、敵味方関係なく全員が握手を交わします。これ以上手がヌルヌルになって、何の問題があるというのか。
「ハンドソープボール」を入り口に「ハンドボール」へ興味を持つ人も多数
この日の体験会、参加者はハンドソープボール初心者が大半でした。思い思いに皆が楽しんでいましたが、主に共通していたのは以下のような声です。
「自分の運動神経がリセットされたという感覚がありますね。このスポーツに運動神経の良し悪しは関係ないです」(23才/男性/社会人)
ということは、体験会の前半に行われたハンドボール講習ってなくても良かったのでは……?
「いえ。実はハンドソープボールを体験すると、ハンドボールを観に行ったり、『ハンドボール、やりたい!』と言う子どもたちが出てきたり、興味を示すケースは少なくないんですよ」(澤田会長)
ハンドソープボール誕生のそもそもの経緯は、こうです。それまで自主的にハンドボール体験会を開催していた東さんには、イベントへ毎回同じ人(ハンドボール経験者など)しか来ないという悩みがあったそう。そこで「ハンドボールの普及の手伝いをしてほしい」と澤田会長に声をかけ、会長は知恵を振り絞りました。
「うちの協会ではバブルサッカーも手がけているんですが、あのスポーツはバブルをまとうことによりポップな“上半身使えない障害”が生じます。上半身をガムテでぐるぐる巻きにしてもつまらなくて、バブルだからいい。ハンドボールではハンドに障害を持たせたかったのですが、“縛る”でも“ザラザラさせる”でもなく“ツルツルさせる”ことが一番ポップなんです」(澤田会長)
しかも、競技名は「ハンドソープボール」。ハンドソープはツルツルだし、ネーミングは「ソープ」を付け足しただけだし、これはすべてがしっくりいったぞ!
「努力の甲斐あって、皆さんに楽しんでいただけているようです。体験会へは、リピーターの参加者も多いです。他のスポーツはミスをすると責められたりしますが、ハンドソープボールだとミスで笑いが起こります。ミスが善になるから、何度も参加したくなるのだと思います」(澤田会長)
最後はフィールドに横一列になり、地面を見ながら前進。もしソープが落ちていたら踏んで蒸発させます。この総仕上げ、人呼んで「ルッキング・フォー・ソープ」というらしい。
ヌルヌルするし、スポーツ弱者をなくすし、マナーにも気を付けてるし。「ハンドソープボール」は、健全で意義あるスポーツでした。
(寺西ジャジューカ)
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