アイスクリーム、紫色、アルカリ……謎のメニューだらけの「菊や」のラーメン そこには誰かに必要とされる一杯があった
変わり種ラーメンの誕生秘話にも迫りました。
“ぶっ飛びすぎたラーメン屋”が北千住にあるとのウワサを聞きつけて、ラーメン大好きの筆者は、いてもたってもいられず現地を訪れた。住所を頼りに歩くこと北千住駅から約15分。荒川の堤防に近い、住宅街にその店は、ひっそりと佇んでいた。
一体どのようにぶっ飛んでいるのだろうか? そう思いながら店前に立つと、さっそく妙なことに気がついた。「味自慢ラーメン」と書かれた赤のれんの下に、意味不明な単語がガラス戸に書かれているのだ。
ゴマズ……? コーヒーミルク、チーズ、納豆、アルカリ? ジョロコン……? ンチャ? 牛乳……。なんだろう、これ? ラーメン以外のメニューのことなのか? アルカリ? そもそも「ンチャ」の最初の一文字見えてないし! すでに不信感でいっぱいである。
おそるおそる扉に近づいてみるが、人の気配なし……本当に営業しているのか? ガラガラと戸を引いて入ってみると、カウンター7席だけの小さなお店である。筆者のほかにお客さんは誰もいない……。そもそも店員らしき人も見当たらない。
「こんにちはー!」と呼んでみるが、反応がない。もう一度呼んでみたのだが、やはり反応がない……そこで、手持ちぶさたに店内を見回すと、我が目を疑うような文字が飛び込んできた。
【アイスクリーム拉麺 850】
「アイスクリーム拉麵!? まじか?」。思わず声に出してしまった。二度見ても確かに、アイスクリーム拉麺(ラーメン)と書かれている。アイスクリーム……拉麵、アイスクリーム……ラーメン、アイスクリーム……らーめん。頭の中で言い聞かせても全然しっくりこない……。
すると店の奥から店主がゆっくりと出てきて「いらっしゃいませ。アイスクリーム拉麺にしますか?」と言った。「いやいや、ちょっと待ってください! アイスクリーム拉麺ってなんですか!?」と問う筆者。満面の笑みを浮かべ「アイスクリームの拉麺だよ」と店主。
「別のがいいなら、ほら、こっちにあるよ」。そう言いながら指した先を見ると、壁一面にびっしりとメニューが書かれ、そこにもおかしなラーメンのメニューが並んでいた。
ラーメン、担々メン、味噌ラーメン、チャーシューメンと続くが、いきなり紫色ラーメン、水色ラーメン、赤色、黄色、青色と奇怪な様相を呈(てい)す。
「色つきラーメンはね。毒が入っていて、まずいからね」。店主は再び、顔いっぱいに笑顔を作り「それから、健茶に納豆に豆乳……」とメニューを紹介していく。「ちょ、ちょっと、色つきラーメンをツッコませてくださいよ!」と思わず止めに入るが、店主は「色は難しいから後で説明するよ」と続けた。「健茶は健康茶ね、納豆は納豆、普通だね。豆乳は最近よくあるね。それから、ココア、珈琲牛乳、牛乳、ジョロコン(薯ろ昆)は自然薯ととろろ昆布ね。名前が長いから省略してジョロコンね」。
「で次の、アルカリはね、単三電池を入れるのよ」
えっ? ……えっ? とうとうで出た。食べ物に食べられないもの入れちゃうやつ。「頭痛持ちにはいいよ! ビリリッときて治っちゃうからね」と店主は言う。うろたえる筆者を見て満足そうに笑いながら、店主はこう言い直した。「いや〜、ホントは梅が入ってるんだよね。梅はアルカリ性でしょ? じじいが梅っていうと汚らわしいから、カタカナでアルカリってかっこいいでしょ? じゃあ次は色の説明だね。赤はトマト、黄はウコン、青は青汁、ケール100%ね。青というか緑色だね。水色と紫色は紫キャベツから色を取ってるんだよね」。
毒なんて入ってないじゃないか! ラーメンだけでなく、店主もひっくるめてぶっ飛んでいる。さらにこんなブラックジョークも繰り出した。「チャーシューはね、荒川の野犬を使っているんだよね。最近は数が少なくって上流まで探しにいかないといないんだよなぁ」。
もう何が何だか……。と頭を抱えながら、紫色ラーメンと、アイスクリーム拉麺を注文してみた。きびきびと調理しながら店主は語る。
「前にテレビでも取材されたんだけどね。タレントさんは気をつかって、おいしい、って言うもんだから、全国からお客さんが来てくれるんだけど、実際はおいしくないからね。だいたい、こんなラーメン食べにくるのは1回きりだからね。どうせなら楽しんでもらいたいのよ」
――こんな変わったラーメンを作るきっかけは、何だったんですか?
「25年前かなぁ。まじめにやってたときは、繁盛して忙しくなっちゃってさ。次第に家内が体壊したんだよなぁ。女性ってのは、自分のことを我慢して店を手伝っちゃうからさ。それだったら、まじめにやっててもしょうがねぇってなぁ。楽しくボチボチやるのが一番って気がついたんだよなぁ」
この今の「菊や」の原点が、最愛の人を思ってのことだったとは予想もせず、ただのおもしろ半分、ウワサ半分にやってきた筆者は急に情けなくなった。そう話しながらも、長年続けてきた熟練の手際よさで調理を進めている。とそこで、紫キャベツからとった紫色の汁を見せてくれた。
「紫色ラーメンはね、色が三回変化するから、見ててごらん」
そういって、麺と塩ベースのスープをどんぶりに足していく。すると、紫色からエメラルドグリーンに変わるではないか!
それからさらに、メンマ、ネギ、わかめ、チャーシュー、海苔、紫キャベツ、ゆで卵をのせるとできあがり!
「じゃあ、食べる前にスープを2、3杯うつわに入れて、酢を少しずつ入れてごらん」。店主の顔を見ると、例の笑顔がまた浮かんでいる。言われた通りに酢を数滴かけてみると、ん? 今度はエメラルドグリーンだったのがピンクに様変わりした!
すごい! 美しい! 筆者の喜ぶ顔を見て、よほどうれしかったのか、店主の顔もより一層ほころんだ。
いただいてみると、なんと麺まで青緑に染まっていた。コシもあるし全く問題ない。スープは出汁が効いてうまい。チャーシューも紫キャベツもメンマも、まずい要素がない。立派なラーメンである。
すぐに完食してしまった。
「おいしいじゃないですか!」と言うと、店主は照れくさそうに笑った。すると今度は、アイスクリーム拉麺に取りかかっており、ちょうど最中アイスを投入するところだった。……本当に入れちゃうんだ。
ゆで卵をのせて、最後に青のりをたっぷりかけてできあがり。どんぶりを手元に持ってくると、青のりの香りが最初に漂ってくる。
「じゃあ、まずはアイスを溶かさないで麺から食べてみて」。またしても店主の言われた通りに、麺からすすってみると……冷たい。スープも冷たい。「スープが温かいとね。すぐに溶けちゃうでしょ。あと甘さが勝っちゃうんだよね。逆に冷たすぎると舌が麻痺するでしょ」と店主。
なるほど、変わり種とは言いつつも、全然妥協がない。ただ突飛な思いつきだけでなく、ラーメンとの相性もしっかりと考慮し、完成度の高さがうかがえる。それから、アイスをゆっくりと溶かしながらスープをいただいてみると、ミルクのマイルドさとスープの味わいが相まって、冷製コーンスープのような味わいになった。やっぱり麺も具も、しっかりとしており、洋風冷やしラーメンとでも言うべきか。ただ、夏に食べるべきであることは間違いないだろう。
さらにアイスクリーム拉麺を始めたきっかけを聞いてみると、これもまた店主の人柄が表れたエピソードを語ってくれた。
「近所の野球チームの子どもが、でまかせでラーメンにアイスを入れてくれ、って言うんだよ。それじゃ本当に入れてやろう、ってこのラーメンが始まったんだよなぁ」
子どもの一言がきっかけだったんですか?
「それであるとき、その子どもが熱を出して、アイスクリーム拉麺がどうしても食べたいから出前をとりたいって言ったんだよ。それをその子のじいちゃんが聞いて、当然そんなラーメンの存在なんて知らないから、そんなものはない、って言い聞かせるんだけど、それでもまだ言い張るから、いよいよ孫の頭が熱でおかしくなってしまったと思ったそうなんだよ! 結局、らちが明かないので出前をとってみると、本当にあったから、そのじいさん驚いたよねぇ。でもラーメン持っていったはいいけれども、家に着く頃にはアイスが溶けちゃうんだよなぁ。これは、その子に申し訳ないことしたなと思って、冷たいラーメンを考えたんだよ」
店主の話を聞いていると、この話にしても、変わり種メニューをはじめたきっかけにしても、決して営利目的とか話題性でラーメンを作っているのではないことが分かる。人の喜ぶ顔や、誰かが必要としてくれているということを生き甲斐に、一杯を作りあげているようなのだ。
するとそのとき、常連のおばちゃんが「こんにちは」と入ってきてメニューも見ず「ラーメン」を注文した。店主は、腑に落ちない顔をして座っている私を見たからか、「近所の人は、みんなラーメンだねぇ。おばちゃん」と言った。おばちゃんは、慣れた様子で「そうだねぇ。これが一番おいしいからねぇ」と笑って、筆者のどんぶりを覗き、「あら、すごい」と感嘆の声をあげた。
今回の取材を通して、私は「菊や」に対して、変わったラーメン屋という先入観など、どこかにぶっ飛んでしまった。変わり種のお店というのは、それだけが注目されて人を呼び寄せるけれど、この店はそれだけでなく、昔から地域に愛され続けてきたという揺るぎない信頼が根底にあったのだ。「菊や」の魅力は、一回訪れただけではすべて語れないことは確かだろう。またこの記事に追記できるよう、筆者は注目し続けていこうと思う。変わり種を楽しむのもよし、通常のメニューを頼むのもよし。ぜひ一度、食べに行っていただきたい。
(伊佐治龍/LOCOMO&COMO)
関連記事
- 昭和の香り漂う喫茶店「カド」。入ってみたら……想像を絶する異空間だった!
古き良き。 - 世界初の”ミシュラン1つ星獲得ラーメン屋”の2号店が年内で休業へ 本店も移転をほのめかす
増えすぎた客の対応に苦心しているようです。 - 元日本一まずいラーメン屋「彦龍」の店主・原憲彦さんが逝去
公認SNSが発表しています。 - 紫キャベツラーメンを作ったら、すさまじい破壊力だった
やったぁ! 究極のダイエット食品完成。 - 即席袋めんの粉末スープはなぜ「火を止めてから」入れる? 粉じん爆発予防説もネットに 大手3社の答えは
粉末スープを入れるのって、火をかけたままだとダメなの? - 異色な「ちくわパフェ」にTwitter民おったまげる ゲーム「ひなビタ♪」の名物を聖地の喫茶店が再現
パフェに、ちくわが挿さっているだと……!? - この世のどこかにある「ごちうさ」仕様の鍼灸院で心も体もぴょんぴょんするじゃぁ〜
施術室の多幸感。天国かな? - ねとめし:バニラアイスにビールをかけるとめっちゃウマイ!→バニラアイスにかけるとおいしいビールはどれ?
アイス+ビールでメロンクリームソーダやコーヒーフロートよりも大人なデザートに! - 鳥取県にスターバックスが初オープン! 開店時は1000人以上待機、夜になっても列が絶えない盛況ぶり
47都道府県でスタバが唯一未出店だった県に、とうとう第1号店が……!
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
-
60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
-
「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
-
皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
-
真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
-
71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
-
新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
-
家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
-
ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
-
「ほぼ全員、父親が大物芸能人」 奇跡的な“若手俳優の集合写真”が「すごいメンツ」と再び話題 「今や全員主役級」
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
- 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
- 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
- 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
- セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」