アニメ業界に新時代を 2人のアニメ馬鹿が「CHIKA☆CHIKA IDOL」プロジェクトに込めたメッセージ「とある」シリーズ錦織監督の挑戦(1/3 ページ)

「とある魔術の禁書目録」シリーズを手掛けた錦織博監督が、クラウドファンディングでアニメの制作資金を募る。

» 2016年02月01日 21時00分 公開
[Tokyo Otaku Mode]
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 2月から米国のKickstarterと日本のMakualeでクラウドファンディングを展開する事を発表したオリジナル3DCGアニメーション「CHIKA☆CHIKA IDOL」プロジェクト。地下アイドルの日常を描くという本作は、人気を博したアニメ「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」などと同じセルルックの3DCGアニメで描かれる。また、既存のアニメスタジオやビデオメーカー発のプロジェクトではなく、クリエイター主導のプロジェクトとしてクラウドファンディングを通じて制作資金を募るという。

 今回は、同プロジェクトの実現のために立ち上げられたア二メーション製作会社シンフォニウム株式会社の代表取締役でありプロデューサーの本条靖竹、そしてこれまで「とある魔術の禁書目録」シリーズや「あずまんが大王」など数々の人気作品を手がけてきたアニメーション監督の錦織博の二人が、その思いの丈を語った。

世界中のアニメファンに作品を届けるためにたどり着いた最適な形

―― プロジェクトの概要を教えてください。

錦織 「CHIKA☆CHIKA IDOL」プロジェクトは、クラウドファンディングで資金調達すること、日英同時展開、3DCGアニメで作ること。まずこの3つが大きな特徴です。クラウドファンディングで資金を調達するために、今回は4分のPVを制作しました。手描きのアニメだと原画などで完成時のイメージが分かるのですが、CGだと完成品のイメージが湧きにくいので、どうしても説得力に欠けてしまう。だから完成した3DCGのPVを見せることにこだわっています。とはいえまだ制作途中ですので、なかなか全容が見えず、完成するのかとヒヤヒヤしています(笑)。

CHIKA☆CHIKA IDOL 制作が大変だとこぼしながらも、「世界中の人たちに同時に楽しんでもらえるコンテンツを届けたい」と笑顔で話す錦織監督

本条  「CHIKA☆CHIKA IDOL」は監督と僕の二人で生み出したイメージが原型です。僕が元になるアイデアやビジネスの形を作って、監督がそれをアニメの形に落とし込みます。

―― 会社を新しく立ち上げ、日本・英語圏のクラウドファンディングで資金調達を展開しようと思った意図をお聞かせください。

本条 現代はインターネットの時代です。作品の展開に時差があること自体、ユーザーの満足度を著しく下げてしまう恐れがあります。翻訳版を待つのではなく、世界で同時に楽しみたい、盛り上がりたいというのが視聴者の本音だと思っています。だからこそ日英にかぎらず、多くの言語圏で同時展開することがアニメのスタンダードになっていくと思っています。

―― 世界同時展開が常識に。

本条 アニメはすでに世界中で親しまれているコンテンツですよね。日本で深夜に放送されているアニメも、英語圏の配信サイトでほどなく字幕がつけられ、楽しまれている。世界に訴求力があるというアニメのメリットを活かさないでどうするんだという思いがあります。世界に市場を広げることでクリエイターの待遇面を改善したいと思いますし、将来的にはハリウッドやディズニーに負けない潤沢な予算による映像表現に挑戦したいという気持ちがあります。

CHIKA☆CHIKA IDOL 眼光鋭く、ジャパニーズアニメの可能性について熱く語る本条氏

錦織 これまで、アニメは国内で一定以上の評価を得たものだけが国外に展開される傾向がありました。しかし今はインターネットでいくらでも配信できる環境があり、やろうと思えばもっと多くの作品を世界中に届けることができます。それにもかかわらず、作品を届ける仕組みがまだうまく整理されていません。業界内でその話はよく出ますが、実際に作品を作るスキームへ踏み出せないのが現状です。私としては、「これからどうなっていくのだろうか?」と未来を歯噛みして眺めるよりは、実際にトライしてみたかったんです。私たちが英語圏にコネクションがあるとか、英語がうまく喋れるからとか、そういうことではありません。世界中の人に作品を見てもらうために、どうやって届け、共有していくのか? そのためにどうするのが最善なのかを二人で話し合い、シンフォニウムを作るに至りました。

本条 この作品のスタッフは、現在フリーランスも含めてほぼ100%クリエイターで構成しています。単純に、私たちクリエイターがお客様にとって理想的な展開を考えたときに、それがごく自然な形だと思ったんです。僕ら二人だけで資本を出資したゼロベースの会社ですが、海外展開、多様なメディア展開を含め、自分たちの見える範囲できちんとコンテンツの管理をして、クオリティーを維持していきたいのです。

―― ファンにとって理想的な展開とは?

本条 アニメはファン同士で感想を共有したり、出演している声優さんのキャラクターや人間関係までをも、動画共有サイトやSNSで楽しんだりしています。アニメはいわば総合芸術の一面を持つので、複合的な楽しみ方があるんですね。波及効果も含めてのエンターテイメントだと思います。それを最大化できる方法を考えた時に、作り手主導の会社の立ち上げすることに落ち着きました。中間に人を挟まない、最もシンプルなかたちです。

「CHIKA ☆ CHIKA IDOL」とシンフォニウムはリンクする

―― 錦織監督は数多のアニメ作品に携わっていますが、日本の既存のスキームを考えたとき、作り手にとって難しさや制約を感じたことはありますか?

錦織 アニメはこれまで色んな背景があって生み出されてきました。おもちゃメーカーが自社の玩具商品の宣伝のためにアニメを作ったり、漫画をよりたくさん売っていくためのPRコンテンツとして作ったり。そうしたアニメの多くは、TV局や代理店を通じて製作されてきました。それが段々と移行してきて、メーカーがビデオのパッケージを売るために、宣伝材料としてアニメを作るようになってきました。これから先の時代は、配信や動画共有サービスなどインターネットを通じて視聴するスタイルになっていくと思います。この流れが本格化したとき、製作本数や放送時間も含めて、ネットで作品を見るユーザーのニーズに合わせることが求められてくるはずです。

―― 視聴者の変化に合わせて、アニメの形が変わってくる。

錦織 見てもらいやすい、(商品やDVDを)買ってもらいやすい作品を作るという流れが今の日本アニメの主流です。ですがもう次の変革を起こすフェーズに来たと思います。「CHIKA☆CHIKA IDOL」について言えば、「現代の視聴者に合った作品の“届け方”、“共有の仕方”に最適化していこう」というのが会社の目的でもあり、本作でやりたいことそのものなんです。

CHIKA☆CHIKA IDOL メインキャラクターにカリフォルニア出身の女の子アビゲイル・ウィリアムズがいるのも世界を意識してのこと。「アニメはワールドワイドに楽しまれるもの」だと語る錦織監督

―― 会社を作った目的でもあり、「CHIKA☆CHIKA IDOL」でやりたいことそのもの、というのは?

本条 もちろん作品を見てもらいたいですが、「CHIKA☆CHIKA IDOL」は現在連載中の4コマ漫画の他に、ライブなどもやるかもしれませんし、アニメ以外の展開も含め全てが一つのエンターテイメントになると僕は思っています。ですがアニメに絞って話を今の時代に当てはめると、矛盾が出てきていると思います。TVでアニメを無料放送して、その視聴者のわずか数パーセントがBlu-ray Discを購入することで、アニメ制作の現場が支えられてきました。このビジネスモデルはもう、限界が来ています。でも皆アニメが見たい。アニメが好きですよね。

CHIKA☆CHIKA IDOL スマートフォンで制作途中のアニメーションを動かす様子。全体像が把握できるのは制作終盤になってからだという

―― 需要があるのに供給が難しい。

本条 作品がより多くの人に見られ、シェアされることを僕たちも望んでいます。だからそのために、支援する余裕がある人に支援してほしい。クラウドファンディングでは支援金額に応じて様々なリワードを設けていますが、僕らとしては気持ちとして受け取れれば十分。支援頂いた金額に応じてベストを尽くすつもりです。それがクリエイターにとっても負担や無理がないし、ユーザーにとっても負担が少ない方法だと思います。もしかしたら支援したこと自体が喜びであり、応援すること自体がエンターテイメントになる可能性があります。こうした「お客様に支援されてアニメを世の中に送り出す」という行動そのものが、「ファンに支えられているアイドルたち」を描く「CHIKA☆CHIKA IDOL」と状況が重なります。

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