異世界転生したのにチートさせてもらえない、「このすば」主人公・カズマさんに祝福あれ:ねとらぼレビュー
いつもいつも「強くてニューゲーム」できると思ったら大間違いだ!
転生したのにチートさせてもらえない
誰にも邪魔されずアニメを見るという行為。これこそが現代オタクに与えられた癒やしなのだ! ということで、今年1〜3月アニメのうち、「最高の癒やし」になっているのが「この素晴らしい世界に祝福を」(略して「このすば」)。
原作は、小説投稿サイト「小説家になろう」に連載されていた作品を元にしたライトノベル。「なろう」の中でも「異世界転生もの」ジャンルがランキングを独占していて、「このすば」もその一つ。
「異世界転生もの」と言えば、こちら側ではぱっとしない人生を送っていてゲームだけが取り柄だった主人公が、あちらでは「強くてニューゲーム」からスタート。時間やら課金やらつぎ込んだスキルや装備、マジックアイテムがそのまま使えて、中堅どころかトップクラスの強者も蹴散らして、たちまち伝説の勇者に。廃人ゲーマーと後ろ指刺されてきた過去は無駄じゃなかった、人生やり直しできなかったらリセットや……と、ままならぬ格差社会にあえぐ人たちを代表して「持てるもの」やリア充にやり返す。頑張れ、俺たちも順番が回ってきたらそっちに行くからな! ――というのがフツーの異世界転生もの。
そんな夢を観ていた一人が、主人公のカズマ(佐藤和真)。車に轢かれそうになった少女を助けようとして……とは思い込みにすぎず、真相はトラクターに轢(ひ)かれかけてショック死。その女の子はカズマがよけいなことをしなければ、かすり傷どころか無傷だったと知らされる。きっつー。
そんなカズマに向かって、ズバズバと上から見た非情な現実をつきつけるのは、性格悪すぎる女神アクア。「異世界に望むものを何か1つ持って行ける」と言われたカズマは、腹いせにアクアを“もの”と指名。願いは聞き届けられ、女神アクアを持ち物として異世界への道連れに……えっ持ち物?
ルックスは美少女のアクアとバラ色のライフが始まる! こともなく、見知らぬ世界に無一文で投げ出され、現世よりも悲惨な生活にようこそ。RPGでお約束の装備をそろえるためのマネーも持たされず、家賃も払えないからタダで泊まれる馬小屋(「ウィザードリィ」ですな)が我が家。転生したのにチートさせてもらえない……。
駄女神を養うために額に汗を流す
連れてきたアクアは非の打ち所がない美しさに加え、全ての能力値が上限を人間をはるかに凌ぐハイスペック。ただし知力を除く。
最初っからMAXレベルに達してるので残念な知力は頭打ち、脳天気でがさつな性格のせいでトラブル量産メーカー。バイトで稼いだカネは飲み代につぎ込んで宵越しの金は持たねえ、酔っぱらいどもを喜ばしてる宴会芸スキルって冒険には役立ちませんよね。なにこの駄女神。
異世界に転生したのに底を抜けてドン底に墜ちたカズマ。横に美少女が寝てるのに、こいつを食わせるために額に汗して労働を……と込み上げてきてまた寝なおす。ラブとかハニーとかおいしいところを通り越した古女房感。
いいぞー、頑張れカズマさん! いつの間にかさん付けしているこの人徳。異世界転生フォーマットを大筋では守ってるのに、主人公がいるのは「こちら側」だ。
美少女がポンコツ過ぎてハーレムにならない
ラノベ法にのっとって、タイプの違う美少女が次々と仲間になるハーレムものでもある。形式上は。
莫大な魔力とそれをコントロールする技術を持っているアークウィザードのめぐみん(ロリキャラ)。ただし重度の中二病の上に爆裂魔法しか愛せず、1日1回ぶっ放したらぶっ倒れてカズマさんに運ばれる。
脳筋の駄女神アクアと使い捨てライターみたいなめぐみんが巨大カエルに粘液まみれにされ(ありがとうございました)仲間を募ったカズマのもとに近づいてきた、豊満な美女クルセイダーのダクネス。うん、RPGのパーティには攻撃を引き受ける盾になるタンク役は必須だ。
え、スキルポイントを防御系に全振りですか。剣には振ってないので攻撃は敵に当たりませんか。物理と言葉攻めを問わず、責められるのが好きなドMには天職ですかそうですか。
美形ばかりで上級職ばかりのパーティを引き連れ、世間の見る目が冷たいカズマさん。ダクネスの友人の盗賊(もちろん美少女)に窃盗のスキルを教えてもらい、持ち金を賭けて勝負してみれば圧勝。ただし手にしていたのはパンツ。カズマさんからクズマさんにレベルアップや!
伝説の剣を与えられて勇者プレイを満喫してるエリートにケンカを吹っかけられたら、不意打ちで瞬殺したあげく剣をマネーに換金し、“鬼畜”の称号もゲットするクズマさん。世間がなんと言おうが、あんたが幸せになりたいだけというのは俺たちがよく分かってるぜ……と目頭が熱くなる。
同スタッフの「これはゾンビですか?」も面白いよ!
小説は文字で読者のペースで読めるメディア、対してアニメは映像と音が一方通行で流れていく受け身のメディア。原作の面白さとギャグの呼吸をテンポよくアニメ化しているスタッフは、金崎貴臣監督とシリーズ構成・上江洲誠氏の「これはゾンビですか?」コンビ。
そう大作という作りでもなく「動かすところは動かす」メリハリをつけたアニメが、Amazon.co.jpのBlu-rayアニメ部門で上位に食い込んでいて、ああアニメファンも見るべきものが分かってるなって。「これはゾンビですか?」や、金崎監督の「東京レイブンズ」も超面白いのでぜひ。そしてクズマさんにも声援の祝福を!
(多根清史)
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テンプレが起こした悲劇。
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