「これは僕の廃墟願望を満たすゲーム」 押井守、『ドラゴンクエストビルダーズ』に妄想の塔を建築す 前編(1/2 ページ)
押井守は『ドラゴンクエストビルダーズ』でいったいどんな世界を作り上げたのか? 異色のゲーム中心インタビュー(前編)。
映画監督、押井守。「THE NEXT GENERATION パトレイバー」「東京無国籍少女」「GARMWARS ガルム・ウォーズ」など、近年も精力的に作品を作り続ける彼は、それほど知られていないが、じつは年季の入ったオールドゲーマーでもある。その押井監督が最近ハマったと自身のメルマガなどで公言しているのが『ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ』(PS4/PS3/PS Vita)。その熱中ぶりは「自分の世界の写真集を出したい」と語るほどで、発売から数カ月たった現在も、忙しい合間を縫ってプレイし続けているという。
今回のインタビューではこの『ドラゴンクエストビルダーズ』を皮切りに、風景論、ドラクエ論、ゲーム論など、独自の視点から縦横無尽に語ってもらった。普段メディアでは映画やアニメについて語ることが多い押井監督にとって、ゲーム中心のインタビューは異色かつ貴重な場といえるだろう。押井守は『ドラゴンクエストビルダーズ』で一体どんな世界を作り上げたのか? 本人撮り下ろしのスクリーンショットとともにお届けする。
―― そもそも『ドラゴンクエストビルダーズ』(以下『ビルダーズ』)にハマったきっかけはどういったところから?
押井 このところ少し時間があって『ビルダーズ』をやる前に『IV』『V』『VI』『VIII』をもう1回ずつやってたの。僕はゲームは昔からやってるけど、8割方はドラクエなんだよね。面白いか分からないゲームをやるよりはドラクエシリーズを繰り返しやってきてる。とくに『III』とか『IV』とかは7、8周やってる。やる度に違うテーマを探すんだよ。カジノに入り浸りとか、メンバー構成を全部変えてみるとか。
―― とくに『III』は自由度高いですからね。
押井 『III』は全員武闘家とか全員魔法使いとか一通り試した。ほかのシリーズも5、6周やってると思う。でもそれが終わっちゃった。とくに『VIII』は相当終わらないように粘って、チーズ作りもかなりやったんだけど、ともかく終わっちゃった。ただ『X』だけはやってないんだよね。ネットゲームは嫌いなんで、僕にとってあれはドラクエ×(バツ)ってやつで、あとはドラクエのスピンオフもいろいろあったけど、正直あんまり面白くなかった。だから『ビルダーズ』にもそんなに期待してたわけじゃない。ただもうやるものなくなっちゃったし、次のドラクエが出るのはまだ当分先という話だからね。
―― ちなみにお聞きしたところでは『VIII』は全員素手でプレイされていたとか……。
押井 そうそうそう(笑)。武器嫌いなんで。というか物を持ちたくなくて、そういうのは片っ端から売り飛ばしちゃう主義なの。なるべく身軽が好き。で、レベルさえ上げれば武器も防具もあんまりいらなくなるから。
―― ファミコン時代のドラクエは持ち物の個数制限が厳しかったですが、その頃からの癖ですか?
押井 うーん、逆だね。(シリーズが進んで)物がたくさん持てるようになったら物に執着するのが嫌になったというか。普通はさ、みんないろんなアイテムを欲しがるじゃん?
―― そうですね。アイテムコンプとか。
押井 で、(使うと回復効果のある)「ちからのたて」とか確かに使える物もあるんだけど、基本的にはまず魔法が嫌い。
―― 魔法が嫌い(笑)。
押井 ドラクエで魔法って回復のホイミ系と移動のルーラしか使ったことない。
―― (笑)。じゃあ基本はレベルを上げて物理で殴る?
押井 そうそうそう(笑)。やっぱり魔法を使ってるとテンポが遅くなる。RPGって戦闘メインか探索メインかで遊び方が全然違うじゃん。僕は戦闘自体がそんなに好きじゃなくて、あっちこっちほっつき歩くのが好きなの。で、ほっつき歩く行動の自由を得るにはそれなりにレベルを上げなきゃいけないから戦闘する。だからルーラは必要だし、あとはホイミさえあれば街に戻る必要もあんまりない。
―― 冒険というか放浪なんですね。
押井 わりとそう(笑)。やたら町にいたがる人もいるじゃん。でも僕は町に興味がないというか、外をフラフラしてるのが好きなんで。だからこの『ビルダーズ』をやってても最近はほとんど町に戻らなくなった。
―― 『ビルダーズ』の場合、拠点に戻らなくてもそんなに困らないですからね。
押井 町に戻るのは食料の補給と、あとはブロックを壊すトンカチ(おおかなづち)が足りなくなったときぐらい。いつもトンカチを16本持って出掛けるんだけどさ、これをあっという間に使いつぶしちゃう。
―― このゲームで16本ということは装備欄のマックスまで全部トンカチ。
押井 トンカチ以外何もない。
―― 裸にトンカチ(笑)。
押井 さすがに裸はかわいそうなんで「かわのよろい」か何かを着させてるんだけど、盾も甲冑もつけてなくて、トンカチだけ。それと高いところから飛び下りても大丈夫な「メルキドグリーブ」という靴。あれがないと話にならない。僕はタワーというかモニュメントを建てるのが好きなんで、限界までの高さのモニュメントを建てて回ってるんだけど、メルキドグリーブがないと高いところから落下死してきりがないから。
―― 『ビルダーズ』はドラクエであると同時に『マインクラフト』に代表されるサンドボックスゲームの要素が大きいわけですが、『マインクラフト』という存在は前からご存じでしたか?
押井 名前は知ってた。僕が通ってる空手の道場にゲーム会社にいる友達がいて、買う前にその彼に「今度の『ドラクエビルダーズ』ってどう?」って聞いたんだよ。そしたら「要するにあれ『マインクラフト』のパクリですから」ってあっさり言われて(笑)。
―― 身も蓋もない(笑)。
押井 彼はゲーム一筋で、日曜日になると秋葉原に行ってファミコンのソフトを探してるようなオールドゲーマー。「ゲームセンターCX」をボックスで買って、昔のカセットテープのPCゲームをやりたくて、そのリーダーを買ったりとかさ。で、いまもとある会社でゲームを作ってて、その男に言わせると『ビルダーズ』は『マインクラフト』のパクリなんだけど、僕に言わせると全然違う。
―― 『マインクラフト』がレゴだとすると『ビルダーズ』は説明書付きのプラモぐらいのプレイ感の違いはありますね。
押井 『マインクラフト』って要するに大工みたいなゲームじゃん。『ビルダーズ』でもYouTubeでずいぶん動画を見たんだけど、みんなやっぱり町作りが好きなんだよね。どんな町を作ったかは山ほどあるんだけど、町以外の映像ってほとんどない。でも僕は町を作る情熱はあんまりなくて、やってるのは単純に言うと世界の改造なの。風景を作ることが楽しい。
―― ちなみに押井監督がアニメや実写映画で描きたい風景がある場合は、どういった形で固めていくものですか?
押井 最初にデザイナーに言葉で「大体こんな感じ」と伝えたり、自分でつたないラフ絵を描いたりとか、そういうことだよね。あとは上がってきたものを見て「ここはもう少しこうなんだけど……」ってやりとりのなかでだんだん近づけていく。だからまあ、手間暇はかかるよ。最終的には色までつけなきゃいけないし、劇中でどういうときにそれが出てくるのかも考えなきゃいけない。朝なのか夕方なのか夜なのか、雨が降っているのか、風があるのか。
―― なるほど。今回の『ビルダーズ』はサンドボックスゲームを日本人向けにかなり遊びやすくアレンジしている印象ですが、ドラクエの要素はやはり欲しかった部分ですか?
押井 そうだね。多分そのバランスはね、作り手も相当考えたであろう痕跡が随所にある。建てるだけじゃなくてドラクエらしいミッションがいっぱいあって、町の人から「あれして、これして」って言われるし。で、町のレベルを上げてミッションを全部クリアするとボスが出てきて……とそこで章が終わるようになってるわけだ。でもさ、そこで次の章にべつに行かなくてもいいんだということに気づいちゃったわけ。
―― (副題が)『アレフガルドを復活せよ』なのにアレフガルドが復活しない(笑)。
押井 興味ないし(笑)。途中からメルキドをいじり始めたら、ストーリーにまったく興味なくなっちゃって、モニュメントを建てたら風景が変わっちゃったので「あ、絶対こっちのほうが面白いわ」って。
―― サンドボックスゲームの一番中毒性のあるところですね。フリービルドモード(知られざる島)もありますけど、そちらはプレイされないんですか?
押井 僕もね、1回そっちに行ってみたんだけど、なんかピンとこなかった。だから(次章の)リムルダールでは疫病で病人がウンウンうなってるんだけど、リムルダールは全部ほったらかしで、とにかくメルキド改造に専念することに決定したの。
―― 住民は困ってるけど、押井監督の満足はアレフガルドの復活と別のところにあると(笑)。その世界を改造する感覚は、例えば『シムシティ』のようなシミュレーションゲームともまた違う感覚ですか?
押井 ちょっと違う。『ビルダーズ』では町の上に空中庭園みたいなのを作ったんだけど、そこから見渡したときにどういう風景が見えるかとか、海岸の向こう岸がどう見えるかとか、そういうことを考えて風景の改造をやるんだよね。向こうの山の稜線にのろし台をたくさん作ってみたりとか、モニュメントを建てて、その高さが出るように全部周囲をえぐって地平線を下げたりとかね。そうすると1つの情景が演出できる。それを眺めて「なんていい画なんだろう」と悦に入るのが好きなんで(笑)。このゲームはアングルが全部で自分で決められるんで、一番画になるアングルを探すんだよね。僕は質感じゃなくてシルエットで勝負してるんだけど、たそがれ時の情景をメインに考えてるんだよ。で、最初の章のメルキドは落日がすごくきれいにできるんで、いまだに延々とやってる。
―― そこはやはり映画監督ならではというか。確かにメルキドってもともと城塞都市って設定ですし、昔文明があったであろう場所というシチュエーションですよね。
押井 そうそうそう。そういうコンセプトでやってるの。だから僕がやってるのは先史文明の廃墟を自分の手で作り出すこと。建築の途中で崩れかけたようなところをあえて作ったりとか、先史文明のパターンを自分で考える。いわゆるドラクエの中世ヨーロッパの世界とはちょっと違う様式で、あちこちに垂直のモニュメントを建ててる。
―― オベリスクみたいな?
押井 うん。オベリスクを山ほど作って、これだけは作るのがうまくなった(笑)。目もくらむ高さで高所作業をすると、最初は手が震えちゃって何度も落っこったんだけど、もう慣れたね。そういう先史文明のパターンを作り出して、原初の情報量が残っている周囲の山とのマッチングを考える。で、その先史文明の連中はとっくに滅んじゃって、かなり文明のレベルが後退した世界の中で遺跡だけが放棄されてる、そういう世界を作ってるわけ。あとは水が引っ張れるところには引っ張りまくって、ありとあらゆるところを水没させまくった(笑)。最近ちょっと水没のパターンにはまってて、これがいいんだよね。石畳を敷き詰めて、そこに水を引いて、周囲に白いタワーが積んであって、夕方になると水面に写り込んで、これがすばらしくきれいで。そこにいるのはスライムがパチャパチャしてたり、ドラキーが飛んでるぐらいで、無人の哀切な感じがものすごく出てる。
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