フジテレビはどうして「自己満足」から抜け出せないのか?
アニメを充実させればいいんだよ(暴論)。連載「ネットは1日25時間」。
7月23日に放送されたフジテレビ夏の風物詩、「FNS27時間テレビ」は平均視聴率7.7%と、歴代でも最低の視聴率をマークしたそうです。
ベテラン芸人による大掛かりなセットを使った時代錯誤のコント、アイドルグループによるスーパーダンクの立て続けの失敗に始まり、既に終了した番組の人気企画をタイトルだけ変えて流用したり、遠い昔に既視感のある企画や、タレントだけが楽しんで視聴者を置いてきぼりにするような企画が延々と続き、最後の最後はアイドルグループがまたスーパーダンクを失敗させたりなど、私も27時間全てをリアルタイムで見られたわけではないのですが、2.7時間でも時間が惜しいと思わせてくれるクオリティーでした。
フジテレビの番組を積極的に見ることはなくなってきたのですが、それでもフジテレビの番組を見るたびに私が思うのは、「彼らの時計は、90年代で止まったままなのだ」ということです。
山本圭壱の復帰劇を彩った中途半端な演出
7月31日に放送された、「めちゃめちゃイケてるッ!」の特番では、2006年に未成年との飲酒や性的暴行が発覚し、番組はおろか芸能界からも姿を消した同番組の元レギュラー・極楽とんぼの山本圭壱が10年間に及ぶ謹慎を経て番組に出演したことでちょっとした話題になりました。流行コンテンツの便乗、よく言えばパロディーをお家芸とするフジテレビにおいて、その芸風がとても顕著なこの「めちゃイケ」では、放送時には山本圭壱をポケモンに例えて「ポケモンGO」風の演出を施したり、「フリースタイルダンジョン」をパロディー化して芸人にラップバトルを披露させたりなど、若者の間で流行しているコンテンツを演出の一環として組み込んでいました。
視聴率が1桁台に終わることが常態化していた昨今の「めちゃイケ」において山本圭壱の復帰という「奥の手」を差し出すことはドーピングを射つような行為ですが、これで新たな視聴者層に獲得につながったかというとかなり難しそうです。
この復帰劇がかつてめちゃイケを親しんでくれていた、自分たちのコンテンツを楽しんでくれていた世代の関心を引こうとする一方で、「めちゃイケ」はおろか山本圭壱にすら思い入れの少ない若者にも演出でアプローチを仕掛けようとしており、結果的には「ポケモンGO」風の演出も「フリースタイルダンジョン」のパロディーも、中途半端でお寒い仕上がりになっていました。
先述の「27時間〜」も、もともと日本テレビの「24時間テレビ」のパロディーだったのですが、「27時間〜」が最低視聴率を更新する中で、「24時間テレビ」は2014年の放送で歴代最高視聴率をマークするなど、視聴者からの支持の差は歴然となっています。
「振り向けばテレビ東京」という言葉があります。放送地域が少ないので基本的に視聴率が低く予算が少ないテレビ東京と比較し、恵まれた環境にあるはずの民放局の視聴率が軒並み著しく低いときなどに使われる表現なのですが、今のフジテレビがまさにそれに当たる状況にあります。
かつては長年に渡り視聴率帝王の座にいたはずのフジテレビのちょう落が止まりません。どうしてこのような事態になったのでしょうか。
フジはなぜ「かまってちゃん」になってしまったか
現在のフジテレビを織りなすもの、特にフジテレビを蝕み、視聴者との温度差を生み出しているものの根幹が「自己満足」にあり、その自己満足の潮流に組み込まれているのがフジテレビの芸風である「内輪ネタ」と「パロディー」にあります。
例えばフジテレビの悪いところが凝縮されたと個人的に思っている「2015年の27時間〜」などはテーマに「本気」を掲げており、全編を通して「出演者が頑張っているところを視聴者にアピールする」という構成でした。女性芸人がライザップの元でダイエットに励むなど長時間特番に組み込む必要性が分からないものや、1日に158回のバンジージャンプを目指した結果、10回でドクターストップがかかるなど、いろいろと見込みの甘い企画が放送され、ミュージシャンによるライブショーなどは「テレビのピンチをチャンスに変えるライブ」と視聴者の立場を徹底して無視した名前を掲げ、その結果歴代ワースト3に入るほどの低視聴率をマークしました。
視聴者からすればそういったテレビ局側からの「俺たちの頑張り」をアピールされても困りますし、じゃあ普段は手を抜いて作っているのか、という話にしかなりません。
「俺たちの頑張りを見てほしい、評価してほしい」という姿勢を包み隠さないオーラは、この失敗から何も学ぶことが出来なかったらしく、2016年においては長時間の音楽特番である「FNSうたの夏祭り 海の日スペシャル」の告知動画が、現場の厳しい要求にスタッフ達が寝る時間も削ってひたすらに応える姿を見せ、番組作りの大変さをアピールする等、視聴者としてどうやってポジティブな感情を抱けばいいのか分からない内容で、「ブラックすぎる」としてプチ炎上してしまいました。
どうしてフジテレビは自分たちの内情をアピールして、視聴者の関心を引こうとする、いわゆる「かまってちゃん」化してしまったのか……。その歴史は80年代、当時TBSで放送していた怪物番組「8時だョ!全員集合」と同時間帯に、ビートたけしや明石家さんま、島田紳助などを起用した「オレたちひょうきん族」をスタートさせたことに端を発します。
当時のテレビとしてはタブーとなっていた「スタッフをいじる」「演者の私生活や楽屋ネタをいじる」などが全面に出た作りは話題を呼び、やがて「全員集合」に視聴率で打ち勝ち、番組終了まで追い込むという快挙を成し遂げ、フジテレビのバラエティ番組が覇道を歩むとともに、「内輪ネタ」がバラエティに浸透するきっかけとなりました。
90年代に入ると、とんねるずが「みなさんのおかげです(でした)」などで、プロデューサーのものまねをする、素人同然の番組スタッフで構成されたボーカルダンスグループ「野猿」をデビューさせるなど「スタッフの存在を前面に押し出す」姿勢を徹底化し、人気を博しました。その姿勢はとんねるずの番組のみならず「めちゃイケ」などでも徹底され、現在両番組が視聴率で苦戦していることからかんがみても、こういった「内輪ネタ」が今の視聴者層が求めているものではないことが分かります。
ネット上においても「内輪ネタ」は鉄板でウケるネタなのですが、それはクローズドな空間においてある程度の認識を共有している者同士の間だからこその話であり、テレビのように広く訴える力を持つコンテンツでは、視聴者に「この人たちは誰の、何の話をしているんだろう」と思われても仕方のないことです。
しかしこういった「内輪ネタ」の味を忘れられないフジはスタッフの姿を、自分たちの裏側、内情をポップな形で詳らかにすれば、視聴者は食いついてくれると思っているのでしょう。それが先のブラック動画につながったのだと思います。
「自己満足」から抜け出せるか
また、「おかげです(でした)」と「めちゃイケ」は、さまざまな流行を「パロディー」化したことで強い支持を受けてきた番組でもあります。この2つは良くも悪くも、まさにフジテレビなるものを象徴する番組でもあるのですが、流行を巧みにパロディー化することがウケたのはまだみんなが「流行」を広く共有できていた時代の話であり、ネットの普及により多様化した嗜好を満たしてくれるコンテンツが増えていく中、ただでさえ視聴者離れが進むテレビにおいて「流行」をいじって広く注目してもらおうというのは、見当違いの場所に敵を察知してやみくもに銃を撃つアクション映画と一緒です。世はこれを死亡フラグと呼びます。
かつてのフジテレビは民放の中でも群を抜いて時代に対する嗅覚が効き、トレンドを生み出す帝王でした。バブル景気にはホイチョイ・プロダクションズと映画を作ってさまざまブームを生み出し、トレンディードラマなどの流行を作り、「踊る大捜査線」のヒットでテレビ映画濫造の先鞭(せんべん)をつけ、人気のバラエティ番組を次々と世に送り出しました。
そういった輝かしい実績が現在のフジテレビの嗅覚を鈍らせ、盲目にして、視聴者の姿を、需要を見えなくしているのです。自分たちを潤してきたコンテンツにすがりつき、自分たちが気持ちよくなるだけのものを発信し続けても、視聴者は振り向いてくれません。
例えば、現在放送されているフジテレビのバラエティ番組では「さまぁ〜ずの神ギ問」などが、珍しく優秀な番組と言えます。視聴者からの優秀な疑問に対する答えを番組が全力で調べ、調べるまでもない愚問は自分たちでスマホで調べてくれという姿勢は、シンプルな構成ながらも視聴者の関心をひき、楽しませてくれます。バラエティやニュースなどのジャンルに関わらず、視聴者の目線に寄り添うことが、権威が小さくなりつつある現代のテレビメディアの仕事なのだと思います。
徹底的な「視聴者目線」に立ち、「自己満足」の穴から抜け出せるか。それこそがフジテレビに与えられた宿題なのではないでしょうか。
星井七億
85年生まれのブロガー。2012年にブログ「ナナオクプリーズ」を開設。おとぎ話などをパロディー化した芸能系のネタや風刺色の強いネタがさまざまなメディアで紹介されて話題となる。
2015年に初の著書「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」を刊行。ライターとしても活動中。
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