「ウメハラがぁ!」の名実況はなぜ生まれたのか 裏方として格闘ゲームを支え続ける電波実況の中の人に話を聞いた(1/2 ページ)
「ウメハラがぁ!」でお馴染み、ニコニコ動画の一大ジャンルに成長した電波実況はどのように生まれたのか。電波実況の中の人である「がまの油」さんに話を聞いた。
「ウメハラがぁ! 捕まえてぇ! ウメハラが決めたーっ!」――隆盛を極めていた人気タイトルが下火となり、格闘ゲーム界全体が低迷期にあった2003年夏。格闘ゲーム全国大会“闘劇”で実況を務めていた「がまの油」(当時23歳)さんの言葉は、ネット上に大きな足跡を残すことになる。
このゲームタイトルは当時大人気だった「ギルティギアイグゼクス」。後に日本初のプロゲーマーとなる梅原大吾(通称・ウメハラ)の快進撃をゲームの専門用語をほとんど使わず、少ない言葉で分かりやすく、そして感情をあらわにしながら叫んだこの実況は、後に「電波実況動画」としてネット上に公開され、爆発的な再生回数と膨大な量のMAD動画を誕生させた。
この“電波実況”から約13年――かつては低迷していた格闘ゲーム界だが、今では数々のゲーマーがプロとして活躍し、「e-Sports」という言葉が生まれるなど、環境は大きく変化した。現在、がまの油さんは実況から遠ざかっているものの、大会の運営などの裏方として格闘ゲーム界に関わり続けている。
ゲームを愛する者の一人として低迷期の格闘ゲーム界を陰で支え、“電波実況”で格闘ゲーム人気の復活に多大な貢献をしたがまの油さん。今回、この「電波実況の中の人」に話を聞き、一大コンテンツとして広がりを見せ続ける“電波実況”はなぜ生まれたのか、どのように格闘ゲームを支え続けたかなど、自身の思いを語ってもらった。
“電波実況”をきっかけに、ゲームそのものにも興味を持って欲しい
―― ”電波”とまで呼ばれる実況で今でも話題となっていますが、あの実況スタイルになったのはなぜでしょうか。
がまの油(以下、がま):
いきなり核心を突いてくる質問ですね(笑)。まず当時の背景を押さえる必要があります。あのころは動画サイトでゲームを見るという環境が整っておらず、自分の遊ぶゲーム以外を観戦するといったことはほとんどなかった時代です。
そのころはアーケードゲームタイトルの発表が少なくなってきていましたが、各タイトルはしっかり盛り上がっていたんです。そこで色んなゲームの全国大会を同時に行って盛り上がれば、メーカーもそれに活路を求めて新しいタイトルを作ってくれるはずと考え、「闘劇」の立ち上げに関わりました。そして「さまざまなゲームのプレイヤーがどうやれば他のゲームを見てくれるか」を考える中で思い付いたのが、分かりやすい実況と、動画のない時代から既に有名で色んなタイトルをプレイしていた「ウメハラ」さんでした。
“電波実況”のとき、ウメハラさんはチームが絶体絶命の状態で登場して、スーパープレイを繰り返す、という展開になっていました。実はその直前にも別のタイトルで劇的な逆転勝利を収めていて、観客のウメハラさんに対する期待は非常に大きかったんです。そんな空気の中でウメハラさんは観客に応えるようなプレイをしてみせたわけですから……あの場にいた人ならあのテンションの実況になるのも分かってもらえると思います。
―― この“電波実況”で何か変化はあったでしょうか。
がま:
先に述べた通り、当時は動画サイトとかもまだ充実しておらず、動画が出るのはもう少し後になりますね。私はその時ゲームセンターでイベントを行ってきた実績を評価してもらい、闘劇の直後から名古屋のアミューズメント施設に移ることになりました。そのころはメダルゲームの売上がすごくて……皮肉にもビデオゲームで買われた手腕を発揮する余裕はなかったです。
―― “電波実況”の反響が大きかった事についてはどう思われますか。
がま:
ニコニコ動画で有名になっていたことはかなり後で知ったのですが、最初はウメハラさんの試合が評価されて人気になったのだと思っていたので、びっくりしましたね。それからしばらくしてフリーでイベントを始めるのですが、もともとイベント運営のスキル自体に自信はありましたので、“電波実況”の知名度をうまく生かせば、よりたくさんの人を楽しませることができるんじゃないか? とポジティブに捉えて動くことができたました。そういう意味では感謝しかないですね。
―― MAD動画が多数投稿され続けている事に関してはどう思われますか。
がま:
「“ウメハラが歌ってみた”とか書いてあるけど、実際はウメさんじゃなくて俺じゃん」とは思います(笑)。でも、その動画をきっかけにウメハラさんやゲームの魅力に気が付いてくれるのであれば、どんどん利用してもらいたいですね。
「このプレイヤーのここがすごいんだから、もっとみんなここを見てよ!」と思うことが多くなった
―― ゲームはいつごろから始めたのでしょうか。また、ゲームセンターにはいつごろから通い始めましたか。
がま:
僕くらいの世代はみんなそうだと思いますが、物心がついたころにはゲームをしていましたね(笑)。最初はRPGが好きで、手でゲームボーイのサガをやりながら足でFF3のレベルを上げしたりしてました。その後はやはり「スト2」が衝撃的でした。最初にプレイしたのはショッピングセンターの小さなゲームコーナーでしたが、おかげでいろいろな友達もできたし、そういったゲームを始めやすい環境は大事だなあと思います。
―― 最近はゲームセンターに足を運んだりしていないんですか。
がま:
最近はほとんど行かなくなってしまいましたが、「ストリートファイター4(通称・スト4)」が出たころはよく行ってました。それこそ仕事が終わったらゲームセンターに行って朝まで遊んで、そのまま仕事に行くっていう感じで。自分は普通に遊んでいただけだったのであまり気にしていなかったのですが、周りの話ではスト4で最初にマスター(実力者であることを示す称号)になったのは自分だったらしいです。
―― 一番ハマったゲームはどのタイトルでしょうか。
がま:
見る楽しみを覚えたのは「バーチャファイター3 tb」ですが、一番ハマったゲームで言うと絶対に「ストリートファイターIII 3rd STRIKE」ですね。地方とはいえ、本当に朝から晩までやっていましたし、地方のゲームセンターの大会では何度か優勝しています。ちなみに今はゲームしている暇がない分、逆にダラダラとできるゲームがとても居心地が良くて、ドラクエ10を半分寝ながら脳死プレイすることが多いです(笑)。
―― ゲーム実況を始めたのはいつごろからだったのでしょうか。
がま:
20歳より前ぐらいからかなぁ。ゲームセンターでアルバイトしていた時ですね。自分がゲーム好きだからこそゲーセンでバイトを始めたし、自分が好きなタイトルの大会をやりたかったから実況を始めた……という流れで、あんまり他の理由はないですね。
―― 実況は「裏方」だと思います。プレイヤーとして大会に参加したいとは思わなかったのでしょうか。
がま:
もともとは自分が大会に出たいから大会を開いたのが先ですね。でも大会を見て、色んなゲームの全国大会なども経験してきて、自分が活躍したいというよりもプレイヤーのすごさを伝えたいとか、「自分だったらイベントをこうやって面白くできる」と思うことが多くなり、プレイヤーとして参加することは減っていきました。
イベントがあるたびに手伝ってくれるスタッフには毎回伝えていることなのですが、100人集まったイベントでゴミが一個落ちていて、100人がそのゴミを跨いで歩くたびに1ずつ苦労するぐらいなら、運営は10の苦労をしてでもゴミを拾って捨てにいくべきなんです。そんなゴミ拾いの楽しみ方を知ってしまったら、自分でゲームをすることよりも、来てくれた人に少しでも楽しんでもらえるように働く方がよほどいいと感じますよ。
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