本格コーヒーを嗜みながら寄席を聴ける“落語カフェ”へ行ってきた
ネタおろしや、大きな寄席では聞くことができない長めの噺なども聴けます。
国内だけでなく海外の観光客でも連日にぎわう浅草。江戸の文化を五感で楽しめるこの街にちょっと粋な喫茶店が。店内に高座が常設され、コーヒーや紅茶を飲みながら、そして軽食やデザートを食べながら、寄席を楽しめるとのこと。早速足を運んでみました。
東京の観光地、浅草寺の雷門前は毎日がお祭りのような場所。そんな人混みをかき分けながら、真っすぐ進むと、地面がオレンジに塗られた「オレンジ通り」にたどり着きます。その通り沿いにある「茶や あさくさ 文七」。こちらが寄席を開催する喫茶店です。見たところ、ごくごく普通の喫茶店。寄席の「よ」の字も見当たりません。
文七に入るため、ほわっと暖色が灯る看板下に来ても、「寄席」「落語」が行われるといった雰囲気はありません。本当に開催されるのか少し不安になりながら階段を上がってみます。
すると、やっと出てきました! 「落語」の文字。ホッとして、店内へ。
ドアを開けて一歩中に入ると、眼前にあるのは高座ではないですか。ずいぶん大きそうです。
取りあえず、もっと中へと進みます。広々とした店内は、シックなテーブルとイスが並び、昭和レトロいうよりモダンな喫茶店です。
肝心の高座ですが、店の奥から眺めてみると、4人席が2つ分くらいのスペースが使われていて、堂々たる存在感です。
前方で聞く寄席はどんなものかと最前席に座ってみると、距離が近い! ここで聴いたら、かなり迫力があるのではないでしょうか。
「話芸が好きで、落語ができる店をやりたいと思ってたんです。そこで、昔、母が喫茶店を経営していて手伝ったこともあり、コーヒー好きも講じて、この形になりました」とニコニコして話してくれたのは手に根多帳(ネタ帳)を持った文七のご主人。高座ありきで考えていたなら、もっと「寄席」とか「落語」の店だとPRしないのかと失礼ながらお尋ねすると、「あくまでも喫茶店ですので、お茶を飲みにいらした方が、アッ、こんなところで落語が聴けるのねと、次の楽しみにしてもらいたいのです」。なんとも奥ゆかしい喫茶店ではないでしょうか。
では、喫茶店のメニューを拝見。名物は、3種類の文七オリジナルコーヒーです。墨田区の自家焙煎珈琲店「しげの珈琲工房」さんに豆を焙煎してもらったもの。さらにいれ方も習ってきているため、本格珈琲が味わえます。その他にも、香りが抜群の焼きりんごの紅茶、ローズヒップとハイビスカス、レモングラスをブレンドした紅いハーブティーなど、珍しいお茶をそろえています。そして、スイーツやBLTサンド、ハンバーグサンドは、銀座のフレンチレストランで働いていたシェフに教わったというクオリティーの高さです。
筆者は文七ブレンドコーヒーと自家製のクリームチーズケーキのセットを注文しました。コーヒーは苦味もありながらマイルドで、飲んだ後はスッキリした感じ。飲みやすいうえに、しっかりと苦味も味わえました。一方ケーキは、一瞬アイスクリームと間違えてしまいそうな見た目。ふんわりとしていますが、チーズケーキならではのしっとり感と濃厚なコクが楽しめます。ゆっくりと賞味したいぜいたくな味わいでした。
いい味だ……なんて満足していると、客が次から次へと入ってきて、食事やドリンクで腹ごしらえしています。高座が始まるとメニューの提供は仲入りまでいったん中止するため、開始前に注文するというスタイル。そうこうするうちに二番太鼓が流れ始め、いよいよ「市楽、市童の噺を聴く会」の始まりです!
まずは柳亭市童さん。温和な雰囲気ですが、噺が始まると一気に店内の空気が変わり、噺の情景が浮かび上がります。コーヒーを飲みながら落語を楽しもうなんて考えていたのですが、とんでもない! 噺にどんどん引き込まれ、気づいたらコーヒーは一口も飲んでいませんでした。
続いて、柳亭市楽さんが登場。満面の笑みから始まり、めくるめくさまざまな表情と表現で笑いを沸かせます。距離が近いこともあって、臨場感が半端ない! 噺家さんと一体になって楽しむというのは、こういうことかと実感できました。
楽屋にお邪魔して、お二人にもインタビュー。ここで落語を披露する気持ちについて伺いました。「生の声で届くのがいいですね。また、お客さまが少人数だからできるネタもありますよ」と市楽さん。市童さんは「お客さまの顔が見えるので、緊張感はありますが、それが良さでもあり、勉強になります」と話してくれました。
ちなみにこの寄席は、真打は出られないというルールがあるそうです。前座や二つ目の噺家さんが多く、定期的に開催する方は、お二人をはじめ、三遊亭時松さんや柳家小太郎さん、柳家花いちさん、春風亭一左さん、橘ノ双葉さんなどなど。ここで回を重ねて、真打になった方も数多くいらっしゃいます。また、趣味で落語をしているアマチュアの方の発表会なども開催され、月に5〜6回の落語会を行っているそうです。
最後に根多帳の本日のページを見せてもらうことに。すると、「まだ完了していないので、ここで書きますね」と市童さんが書いてくれました。
こちらでは、ネタおろしや、大きな寄席では聞くことができない長めの噺なども多く、じっくりと聴けることが人気だそうです。「新しい噺家さんも募集しています。勉強の場として使ってもらいたいですね」とご主人。
本格コーヒーやスイーツを嗜みながら落語を優雅に聞くという想定は、いい意味でまんまと覆されましたが、この場所のあの空気感は一度味わうとクセになりそうです。
(茂木宏美/LOCOMO&COMO)
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司馬さんに宛てた手紙の内容が批判を浴びていました。
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