「史上最大の崖っぷちに追い込まれております」―― コミックビームが突然の「緊急事態宣言」 漫画雑誌はこの先生きのこれるのか(1/3 ページ)
今、漫画雑誌に何が起こっているのか、コミックビームの奥村勝彦“編集総長”に聞きました。
“これまでお決まり芸のように危ない危ないと叫んできたビームですが、現在、史上最大の崖っぷちに追い込まれております”――
今年(2016年)で創刊21周年を迎える、KADOKAWAの漫画雑誌「月刊コミックビーム」が、公式サイトで異例の「緊急事態宣言」を出しています。要約すると「ビームがとにかく売れていない」「ビームだけでなく漫画雑誌自体がこのままだとなくなってしまう」といったもの。そのための実験策として、月額1980円のプレミアムサービス「読もう! コミックビーム」を10月1日からスタートするとしています。
ビーム読者からすると、ビームがピンチなのはもはや「何を今更」ですが、定価500円そこそこの月刊誌が1980円の月額サービスを開始するというのはかなり異例のこと。また、どうやら窮地にあるのはビームだけでなく、漫画雑誌全体が今、同じように崖っぷちに立たされていると言います。
漫画雑誌は今、どういう状況にあるのか。このままでは本当に漫画雑誌はなくなってしまうのか。コミックビーム・奥村勝彦“編集総長”に、ビームと漫画雑誌の現状について本音で語ってもらいました。
プレミアムサービス「読もう! コミックビーム」について
コミックビームが10月1日からスタートした新サービス。月額1980円のニコニコチャンネルに入会することで、電子版コミックビームが読めたり、編集部員のブロマガや月1回のニコニコ生放送など、貴重なオリジナルコンテンツが楽しめたりするというもの。タイトルはもちろん、桜玉吉さんのコミックビーム宣伝マンガ「読もう! コミックビーム」から。
主なサービス内容
- 電子版「月刊コミックビーム」が読める(10月中に登録すれば過去8号分のバックナンバーもダウンロード可能)
- 月1回開催のニコニコ生放送「ビーム『マンガ実況』」開催(初回は10月15日19時開始/冒頭1時間半は無料放送)
- よりぬきのビームコミックスが毎月50冊以上読み放題
- 奥村編集総長による「週刊奥村」や、岩井編集長の「岩井ッスの日記」など編集部員によるブロマガ配信
- 漫画家インタビューや打ち合わせ隠し録り、「桜玉吉 伊豆からのビデオレター」など、製作の裏側に迫る音声・動画コンテンツ配信
スマホが漫画市場を一変させた
―― 「緊急事態宣言」の冒頭で、岩井(好典)編集長が「しかし本当に売れないっすね」とボヤいていましたが、そんなにキツいんですか?
奥村 あー、例えばオマケを付けるとか、そういう要因で上がったりはするけど、トータルで見るとやっぱりグゥーッと下がってる。これはもう、どこの媒体もそうで、雑誌単体で黒字取れるとこなんてまあ、ほぼない状況です。その赤字を単行本で埋めてなんとかプラスに……というようなことを、この業界はもう何十年もやってきてるんだけど、そりゃまあポイントポイントで大ヒットはあるんだけど、トータルではやっぱり下がってきてるのね。特にここ2〜3年はその角度が急になってきてる。
―― 2〜3年の間に何か大きな変化があったということですか?
奥村 こらもう、理由は簡単です。これですよ(スマホを指さしながら)。
―― よく言われますけど、やっぱりスマホですか。
奥村 そう、圧倒的。全部が全部スマホのせいにしちゃうのもどうかと思うけどさ、街歩いたらみんなスマホ触ってるんだよ。道歩いてる時スマホ、電車乗ってる時スマホ、便所しゃがんでる時スマホ、寝る前もスマホ、起きてスマホ。ありとあらゆる暇つぶしの形態が、全部これに集約されつつある。こら、売れねーよな。
―― 電車の中の光景とか、明らかに変わりました。
奥村 それまで携帯っつーもんもあったけど、スマホになってそれがもっと顕著になった。画面がデカくなって、見やすくなって、これなら漫画もある程度読める。まあ、オレの歳になると老眼とか遠視とかでキツいけどね。そうすると、ほぼもう集約が完成しちゃったんじゃないかなと。
―― 電子書籍だと置き場所もとらないですからね。
奥村 もう1つ大きな問題があって、電子書籍の利益ってそこまで多くないんだよ。
―― 紙の方が印刷とか輸送とか、物理的なコストの分高くつきませんか。
奥村 あー、掛け率とか今の取次とそんな変わんないのよ。でも紙の本に比べたら、電子書籍はまだまだコストを出せるほど数が出ない。だから電子書籍だけだと、コストを引いて残りはハイ皆さんで分けて、みたいなハナシになると意外と残らないんだ。
―― てっきり電子書籍になれば利益率は上がるものだと思っていました。
奥村 んで、最初に「紙も印刷代もかからない」って部分にだけ着目して、原価ゼロみたいな気で、電子はタダで配るみたいなことをちょっとやってしまった。最初の段階でやっぱりしくじってるところがあるね。そういう風に見ちゃダメだったんだよ、ホントはね。
―― うーん。
奥村 そうなると読者としても、タダでは読むけどお金取るんだったら買わないみたいな感じになっちゃうよね。よく1巻目をタダで配ったりしてるけど、2巻目を買う割合――業界でいうところの“定着率”なんて、ものすごく低いんじゃないかな。まあ、そんなこんながあって、単行本自体もあんま売れなくなっちゃった。
―― 今までは雑誌の赤字を単行本がカバーしていたけど、構造的にそれができなくなってしまったと。
奥村 そう。そうなるってぇと、最初にやっぱりビームみたいなマイナーなとこらが真っ先にキツくなるわけだ。多分な。だから非常に厳しい状況にある。それでこういうの(読もう! コミックビーム)を始めたと。
―― なるほど。
奥村 そらね、もちろん収益あげるのが目的ではあるんだけど、じゃあコレやればバーンともうかるなんて、そんな簡単なモンじゃないことは分かってます。だけど、このまま今までのやり方を続けて行っても、正直あんまり先はないなという自覚はあって。これをやることで次のステップみたいなのがなんか見えればいいし、ここで見えなかったらまあ、キツいだろうな、うん。
―― それで「崖っぷち」と。
奥村 ただ1つ勘違いしないでもらいたいのは、会社全体で金がないわけじゃないからね(笑)。どんな会社でもそうだけど、赤字を続けるような部門はどこかで整理の対象になるっつーのは商売としては当たり前の話で。
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