「史上最大の崖っぷちに追い込まれております」―― コミックビームが突然の「緊急事態宣言」 漫画雑誌はこの先生きのこれるのか(3/3 ページ)
娯楽が萎縮すると戦争になる
―― 「読もう! コミックビーム」の話に戻しますが、これはどれくらい前から企画していました?
奥村 最初は岩井くん(岩井好典編集長)が言い出したのかな、1年くらい前だったと思うよ。まだ銀座にいたころね(※)。そういうのに詳しい連中がエンターブレイン系にいっぱいいたから、そいつらと話をしているうちにいろんなアイデアがでてきて、じゃあボチボチやるかいって。
―― 銀座にあったころってドワンゴも近所でしたよね。同じカドカワグループですし。
奥村 そうそう。ビルは違うけれど、ドワンゴの連中も何人か紹介してもらったな。
―― ニコニコチャンネルでやろう、っていうのもそこからですか。
奥村 もちろんそうです。ただいきなりニコ動でチャンネルやるって言ったって、こっちは全然コツとか間合いが分かんないんだよ。だけど直じゃないと伝わらないモノはやっぱりあって、それをどういう風に表現しようかな、とか考えてはいます。なんか面白いことできりゃいいね。
ビーム「マンガ実況」10月15日(土)19時スタート!
「読もう! コミックビーム」の目玉の1つが、毎月1回開催されるニコニコ生放送。初回は10月15日(土)の19時から、出演者と視聴者でビーム本誌&ビームコミックスを一緒に読む「マンガ実況」が実施される予定です。
初回のお題は「目玉焼きの黄身いつつぶす?」と「月刊コミックビーム2016年11月号」。出演者はおおひなたごうさん、上野顕太郎さん、呉智英さん、姫乃たまさん、奥村編集総長、岩井編集長。なお、最初の1時間半はチャンネル会員以外でも無料試聴可能。
- ビーム「マンガ実況」配信ページ
無料放送(19:00〜20:30)
http://live.nicovideo.jp/watch/lv278729978
チャンネル会員限定放送(20:00〜)
http://live.nicovideo.jp/watch/lv278634124
- 読むもの
目玉焼きの黄身いつつぶす?
月刊コミックビーム2016年11月号
- 出演(敬称略)
おおひなたごう/上野顕太郎/呉智英/姫乃たま/奥村編集総長/岩井編集長
―― 紙の雑誌がWebで何かやろう、ってなった時に、この形(月額1980円のニコニコチャンネル)に行き着いたのって珍しくないですか。他でこんなことやってるところってないですよね。
奥村 他は一切参考にしなかった。他だったらもうちょっとシュッとした形に落とし込んでくるんだろうけど、ウチはそれはやめようと。みっともないけど、ぐちょぐちょ足掻いて何かを作っていかないと意味がない。まあ、そこにわれわれのいい部分や悪い部分がこれから出てくるんだろうな。
―― いきなりまったく畑の違うことをやるわけで、不安とかはないですか。
奥村 不安しかないですよ。今までも相当ぶっちゃけてたつもりだけど、それをWebでやるとなったらさ、ネットで変に拡散されるんじゃないかとかやっぱり考えちゃう。でも、おっかながっててなんか面白いモンやれるかというと、そりゃあ厳しいよな。面白いモンってある意味、無意識の中から生まれてくるわけで、そういうのって身体が強ばっている状況だと、まあなかなか出てこないんだよ。最近のテレビなんかそれを一番感じてるんじゃないかな。
―― 最近はすぐ炎上しますからね……。
奥村 昔だったら単体で電話してきて、「ああスイマセンね」で終わってたんだけど、今はスポンサーに電話するからね。文句付ける側が妙に賢くなって、俺らのクビ飛ばすのなんて簡単だぞってことに気づいちゃった。昔だったら「だったら読まなきゃいいだろ!」ガッチャーン! でよかったんだけどな。
―― 時代ですねえ。
奥村 それやらないとこっちは力が出せないんだよ。
―― Webも同じ傾向は感じます。特にPC(ポリティカル・コレクトネス=政治的・思想的に公平公正であること)にはすごく敏感になった。
奥村 あのね、オレはさ、そういう縮こまりの先に何があるんだろう、ってやっぱ考えちゃうんだよ。で、1つ結論としてあるのは、戦争だろうなと。
―― 戦争?
奥村 オレ昔から思ってるんだけど、最高のエンタテイメントって何かって考えたら、多分戦争なんだよ。自分とか身内が殺されない限り、戦争って一種のエンタテインメントなんじゃないかって。あの「日本チャチャチャ!」なんて足元にも及ばないくらいの爆発力がある。もちろんこれは極端な考えだよ。でもさ、実際戦争なんてやったら悲惨この上ないからね。人間同士殺し合うわけだから。
―― エンタメが萎縮すると戦争に向かうということですか。
奥村 おれはそう思うよ。メディアってそういうのがモロに最初に出てくるものだから。で、ああもう嫌だ平和になりましょう、っていうところからグゥーっとエンタテイメントが盛り返していって、それが一定の飽和点を超えるとまた戦争の方にグゥーっと行って。恐らく人類の歴史ってそれを繰り返しているのね。
―― でも、だとしたら面白いモノを作り続けるのは、ある意味戦争へのカウンターになるということですよね。
奥村 そうそうそう。何人かとしゃべったけど意見モロに一致で、みんな戦争好きですよねーって。でも、それ認めるところから始めなきゃいけないという気も最近してきてる。戦争は娯楽の行き着くところだけど、でもそれって最悪ですよ、っていうところからいろんなことを考えなきゃダメなんだろうな。その言葉(戦争)を封印しようとすればするほど、全部裏目っていくみたいなことに多分なっちゃう。
―― うーん。
奥村 こんな言い方しちゃいけないんだけれど、若い子とか見てて、なんだろう、ふびんな感じがしちゃってね。世の中が閉塞してて面白くねえ、面白くねえ、面白くねえ、っていう中で育ってきて、ちょっとこれは生きててどうよ、みたいな感じになってて。ホントはオレらの世代がもうちょっと頑張らなきゃいけないんだよな。
―― おせっかいな兄貴もいないし。
奥村 ホントに。申し訳ねえなと思うよ。だけどこういうことは言い続けなきゃいけないし、若い人にもなるべく言おうとしてるんだけど、やっぱり開いていくのは大変だよな。もう硬〜い甲羅がある。それを剥がしていくともうこんなん(謎のジェスチャー)なっちゃって、ああああみたいな。いやいやもうちょっと誰か剥いてあげてよ、そのまま殻のまま一生終わっちゃうよ、って。
―― やっぱり外気に触れないとイカンと。
奥村 学校の先生も剥いてあげないでしょ、先輩も剥いてあげないでしょ、親も剥いてあげないでしょ、そりゃそうなるよ! で、そのままワケ分かんないことになってどんどん漂流していっちゃうんだよね。それは本人も損だし、周りも損だし、いいこと何もない気がするねえ。
―― なんか、中も外もいろいろ苦しそうですね。
奥村 や、苦しいですよ。でも苦しい時は苦しいって言っていいんじゃないかな。苦しいのに見栄張って大丈夫でーすって言って、いきなりドカーンと潰れちゃうのって、まあそれはそれでダンディかなとは思うけれど。苦しい時に「苦しいでーす!!」って言うのって、そんな悪いことじゃないよ。
―― ネットだと意外に「助けて!」って声には優しいんですよね。
奥村 多分、見てる側もそんな余裕ないんだよ。余裕ありそうな奴にタックルかましてひっくり返すのはやるだろうけど、余裕のねえ奴に余裕のねえ奴がタックルして何の意味があるんだという気もするわな。
「桜玉吉 伊豆からのビデオレター」とは……?
―― ところで、桜玉吉ファン的には、予告にあった「桜玉吉 伊豆からのビデオレター」をものすごく楽しみにしています。
奥村 あー、あれなあ。アイツの車にドライブレコーダー放り込んで、なるべく面白そうなモンがあったらそれで写るようにしろとか、あと音声を入れろとか言ってるんだけど、なかなかそういう時に限って面白いモン写らねえんだよ。今まで結構あったのになあ。
―― そういえば本題からそれますけど、玉吉さんはシン・ゴジラ見たんですかね?
奥村 まだ見てないのよ。「お前見ろよ」って言ったら「伊豆の山奥だからどうしよう」って。小田原まで出ないと映画館がないんだってさ。知らねえよ(笑)。
―― てっきり速攻で見たものとばかり……。
奥村 「3回くらい見ろよ」って言ったけど、「ええ〜しんどいよ」だって。ちょうど夏場だったから、伊豆って夏場えらいことになるんだよ。国道なんてずーっと渋滞だからね。
―― 意外でした。
奥村 ホントなら真っ先に見るようなタイプなのになあ。
(2016年10月6日 飯田橋のKADOKAWAにて)
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「碧井ネロ」役の山地まりさんもいい感じに狂った表情を見せてくれます。
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