「春画」の語源は「中国の健康本」だった!? 奥深い春画の世界(1/2 ページ)
歴史好きの歴女さんたちに集まっていただき、春画の面白さを再発見。
こんにちは、ライターの井口エリです。
春画についての記事ということですが、歴史は大学受験時に得意科目だった程度の筆者にとって、恥ずかしながら春画については「昔のスケベ絵でしょ?」と漠然と思っている程度の知識しか持ち合わせていませんでした。
「春画」とは、性風俗を描いた絵画ですが、そんな春画が今、男女問わず人気を集めているそうなんです。海外からの注目も高く、ロンドンの大英博物館で開かれた「春画展」も大成功を収めたことで日本でも、より注目されるようになりました。最近の傾向として若い女性の来場者が多いのだとか。
ただのスケベ絵だと思っていた春画を今回、歴史好きの方々と見ることで見方が変わるのではないか。そんな思いから今回、歴史好きの歴女さんたちに集まっていただくことにしました。
歴女さん紹介
中村秋日子さん
ゲームや漫画原作がメインのフリーライター。
初恋は渡辺謙さんの独眼竜政宗という筋金入りの歴女さん。
黄綿史さん
現在社会学研究科の博士課程に所属。
特に中国史が好き。中国時代劇を見るのが好きで、そのためだけに独学で中国語を勉強した。
姫野ケイさん
普段は週刊誌やWeb媒体で記事を書くフリーライター。
特に浮世絵が好きで大学時代は講義を取っていた。好きな絵師は歌川国芳。
今回お集まりいただいたのはこちらの3人の歴女さん。「歴女」と一口に言っても誰ひとり分野がかぶっていないの奥深い。
春画を多数所有する「東洋文庫」さん
今回歴女さんたちとお邪魔するのは、春画を多数所有しており、現在「本のなかの江戸美術」展を開催中の公益財団法人・東洋文庫さん。かつては「美術的価値はない」と見られ、不遇の時代を過ごしたこともある春画ですが、そんな歴史があったからこそ、今保存状態が良い春画がたくさん残っているのだそうです。
そして歴女さんたちを迎え撃つのは東洋文庫からの刺客・岡崎さん、篠木さん。今回は学芸員の岡崎さんがメインで解説をしてくださります。
岡崎礼奈さん
もともと美術史を専攻していて、歴史に関心が強くなったのは就職後という岡崎さん。
学芸員ならではの豊富な知識と発見で案内を盛り上げてくれる。
篠木由喜さん
小学校3年生で見た大河ドラマの秀吉で歴女になった篠木さん。
「封神演義」で「中国史サイコー」となり、三國無双で「やっぱ三国時代だろう」となってアジア史にはいる、「影響を受けやすい」という。
展示中の春画を見せていただく
では、早速展示を見に行きましょう。
と、東洋文庫さんめちゃくちゃオシャレじゃないですか……!
そして現在開催中の「本のなかの江戸美術」展。「岩崎文庫のなかでも質・量ともに充実している江戸時代の絵巻・絵本・春画を含む浮世絵版画にスポットをあて、だれもが知る有名な作品から秘蔵の初公開品までが一堂に会する企画展示です」(チラシ案内より)。
そんな楽しい展示を歴女で知識豊富な岡崎さんの解説とともに回れるの、ちょっと幸せすぎますね……。
正写相生源氏(しょううつしあいおいげんじ)
江戸時代は、源氏物語とか伊勢物語といった誰もが知っている「古典の名作」といわれているものの出版がめちゃくちゃあったんだとか。
しかも人々のニーズに応えた結果、いろんな層が見られるように源氏物語というコンテンツから出発して、簡易版とか、主人公とかは踏襲しているけど全く違う話だったりとか、いわゆる「パロディー作品」になったりしていたそう。そしてこれはその1つです。
こちらは幕末の作品で歌川国貞が挿絵を描いています。国貞は歌川国芳の兄弟子で同じくらいの人気があり、ともに歌川派をけん引した人なんですけど、これは源氏物語のパロディーです。そしてこの次のページからは猛烈な性描写が……。
全員 ざわざわ
いわゆる、パロディー版の春本なわけです。
いわゆる二次創作的な文化ってこのころから盛んだったんですね。
源氏物語とか伊勢物語のパロディー……現代のAVのパロディーみたいって思っちゃいました。
今とやってること変わらない……(笑)。私もそれ思いました。はやりもんにはのれるだけのっかってパクるっていう。
しかもこれですが、印刷が豪華すぎてどう考えてもこれは大量生産・消費目的で作られたものじゃない。考えられるのは大名が注文した特注品ということなんです。春画はおめでたいものでもあるので、お正月のごあいさつとして配られるように作られている物もたくさんあった。例えば春画の大小暦(カレンダー)なんかは江戸城内で交換し合っていたそうです。
正写相生源氏について有力な説は、福井藩主だった松平春嶽が、近しい人にプレゼントするために作られたものではないかということです。年始のごあいさつ代わりに、縁起のいいものを差し上げる。もしかしたらそうしたタイミングでこれも贈られていたものかもしれません。
年始のごあいさつに春画……?
現代の感覚だと「これプレゼントされてどうする!?」って思っちゃいそうですけど、春画は縁起物としての意味もあって、武士はよろいをしまっている箱の中にお守りとして忍ばせていました。また、火事を避ける「火除け」のお守りとして蔵に春画を置いたりもしていました。で、後世になって蔵から出てきた大量の春画を子孫に発見されて、「ご先祖様……やだ……」って思われてしまったり。
ご先祖様の気持ちを思うと気まずくてしょうがない。
「雷の夜」
次はこちらの春画。蚊帳のようなものが見えますが……?
これは何かっていうと、夏場の蚊帳の中で旦那さんは雷が怖くてふとんをかぶって耳をおさえて震えていて、奥さんは「あんた大丈夫」って感じで背中をなでてあげているんですけど、その後ろで浮気相手の男が雷に乗じてコトを致してしまっている。「こんなん絶対ばれるだろ」って感じなんですけどね(笑)。春画はありえない体勢だったりシチュエーションを含めて、ときには笑ったりして楽しむものだったんです。
窓から雷がつきだしていますね。
そう、これ表現として面白いのは雷の音を絵として表現しているところですね。映像だったら効果音とかを入れるけど、ここではこうして絵で表している。
こういうものを見ていたのは男性が多いんですか?
多分女の人もめちゃくちゃ見ていたと思いますよ。春画を庶民が目にするのは貸本屋の利用が主でしたが、貸本屋って家に直接来るから、その家のおかみさんが注文したりする。割と春画や春本には昼ドラ寄りのドロついた話みたいのも多かったので、女性も楽しんで見ていたと思いますね。
人が借りた春画を借りるの……嫌ですよね。なんか(笑)。
「練羊羹」
江戸時代にようかんを包むときには竹の皮で包んだのですが、その皮を模しているものです。この中に、ようかん型の春画を入れます。
パッと見はようかんを包んでいるような感じで、中に描いてある浮世絵も、西瓜羹(すいかかん)とか、夜の梅とかお菓子の名前がついていて、そのお菓子にちなんだ春画を描くっていうもの。ちなみに西瓜羹の図は織姫と彦星ですね。ちょうど西瓜の季節だからそれにかけているのかもしれない。
春画って他の絵や本に比べ、買うにしても借りるにしても高かったんですね。それが、サイズが小さくなるとコスト削減につながって庶民でも買いやすくなった。江戸時代の終わりは庶民向けに豆版と呼ばれる割と小さい春画が出てきたんですが、これもその1つでした。当時は春画や春本を見ることへの抵抗感はこちらが想像するよりも全然なかったんです。
性的なことが恥ずかしいっていう風潮になったのは西洋文化が入ってきてからですか?
そうですね。ヨーロッパから幕末に来た外国人は春画に驚いたみたいですよ。「こんなわいせつなものをこんな一般家庭で、子どもや女性が目にする状況にあるなんて汚らわしい!」みたいな感じで。そういう反応があったから、慌てて検閲対象にしちゃったんだと思いますね。
明治に入ると春画が検閲対象として「公開してはいけないもの」に認定されてしまった。それで、「あ、これってすごい恥ずかしいものなんだな」って概念として確立してしまった感じです。
開催中の展示から一部ご紹介しましたが、既にこれまでの春画に対するイメージがかなり変えられました。春画って面白い! ……そしてそれと同時に、春画というものがますますよく分からなくなりました。
「春画」って一体何なんだ!?
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