放送が落ちるのは「悪い状態」に慣れてしまっているから 女性アニメーターに聞くアニメ業界の今(2/2 ページ)

» 2017年03月30日 21時40分 公開
[Kikkaねとらぼ]
前のページへ 1|2       

昔と今では新人アニメーターの苦労度合いが違う

――先日別のアニメーターを取材した際に「単価を上げると手が遅くなり、本人のためにならない」という話がある、と聞きました

小谷私自身は聞いたことがありません。ただ「頑張って仕事をした人がお金を稼げるというシステム」は必要だと思います。完全固定給にしてしまうというよりは目標達成できそうな枚数を設定しておいて、期限内に仕上げれたらインセンティブを渡すといった方法です。あと、動画担当者は待遇が厳しいという人が多いので、せめて家賃補助や交通費の上限なしについては検討してあげてほしいなと思います。

――完全固定給制にはできないのでしょうか

小谷アニメーターはスピードとクオリティーの両方を求められます。これには個人差もあり、こなした枚数によって評価、つまり給料が変動する歩合制というのはある意味で妥当だと思います。

――なるほど。小谷さんがアニメ業界に入ったときにも労働時間や待遇について問題視されていましたか

小谷私が新人時代に働いていた制作会社では、先輩のアニメーターが「日曜日には会社に来てはいけない」「深夜まで残って働いてはいけない」と指導してくださっていました。「決められた時間で稼がなくてはいけない」ということが重視されていて、遅くまで残っていると「居残りしてズルい」というような雰囲気すらありましたね。

――新人時代のお給料面についてはどうでしたか

小谷研修期間は月収7万円くらいでしたが、その後線の少ない子ども向けの作品につかせてもらえたので、一番多かったときで1カ月800枚位は描けていました。ただ、今の新人の苦労と私が新人時代にした苦労は比較対象にならない気がします。

――制作手法が違うからですか

小谷私が新人の時代はまだセルを使っていて、手法もアナログでした。そのため撮影機材の関係で演出や作業にはある程度の制限があったんです。でも今はデジタル化によってできることが増えており、それに伴って作業量も増えていますから、今の新人がしている苦労は私達の世代の比にならないと思うんです。

――若いときは苦労をした方がいい、という考え方もあるようですが

小谷アニメーターの中には「自分も苦労したんだから、若いうちは苦労をしたほうが良い」と自分の苦労体験を美化して語る方もいます。恐らく頑張った自分を否定されたくないという思いからなのだと思いますが、成長のための苦労でないと、いくら苦労しても意味が無いと思います。今の新人は線がかなり多い絵を描いていますし、大変だと思います。

今のアニメ業界に思うこと

――小谷さんはもともとアニメーター志望だったのでしょうか

小谷いえ、実は背景美術志望でした。専門学校に入って、いろいろな分野の勉強をしていくうちに、アニメーターのほうが向いているということでアニメーターになりました。ですから制作会社に入るまで「作監(作画監督)」という役職があるということも知りませんでした。

――意外でした。印象に残っている作品はありますか

小谷「RED GARDEN」「BLOOD+」「機動戦士ガンダム00」は印象に残っています。「RED GARDEN」はプレスコという珍しい手法で制作した作品で、お話の内容自体もすごく面白かったです。「BLOOD+」は1年という長いクールでのお仕事でしたから思い入れがありますね。「機動戦士ガンダム00」ははじめて参加したガンダムシリーズということで印象に残っています。

※プレスコ……音声収録を先にする制作手法。声優が絵の動きに合わせずに演技できるため自然なやりとりを演出できることがメリット。

――アニメは漫画原作のものが多いですが、なぜでしょうか

小谷昔から、人気がある漫画がアニメ化するのは通常でしたし、先のストーリーが分かっているので、制作しやすいのかもしれません。また全ての作品がそうというわけではありませんが、「原作を盛り上げるため」に作られるアニメ作品というのは存在しています。アニメオリジナル作品が増えてくれるといいなと思いますね。

――作業をしていくうちに、特定のキャラクターへの思い入れが強くなったりはしないのでしょうか

小谷私は特定のお気に入りキャラは作らないようにしています。どのキャラクターが愛されるかは視聴者に委ねたいと考えています。

――ある制作会社の新人アニメーターがSNS上に給与明細をアップして話題になったということもありましたが、どう感じられましたか

小谷いろいろな意見があると思うのですが、あの新人さんは「みんなのために」という意識で行動したのではないかとみています。話題になった制作会社について「いい会社だ」という人も少なくないのですが、「本当にその制作会社に関わったことのある人の発言」なのかが、疑問です。私個人はあのツイートに至るまでには、それなりにいろんなことがあったということだと理解しています。

――話題になった制作会社についてはどう思いましたか

小谷動画という一番金銭的に困窮する時期に交通費をスタッフ側の負担にしているというのはちょっと……と思いました。スタッフにとって働きやすい会社になっていってほしいと思います。

――「Blu-ray Discを買わないと2期が作られない」という話をよく聞きますが、どう思われますか

小谷1期の制作前から2期が決まっている作品もありますから、必ずしもそういうわけではないと思います。ただ子ども向けの作品ならおもちゃなどで収益があがりますが、そうでない場合はBlu-rayぐらいしか目立った売上が確保できないのは事実だと思います。1期が終わってしばらくたってから「あの作品、人気が出たので2期やります」というお話はをいただくことがありますが、その「人気」がBlu-rayの売上を指しているのかどうかまでは分かりません。

――アニメーターの待遇や作品の内容以外のことが話題になることについてはどう感じられていますか

小谷本意ではありませんが自営業者の集まりのような形で制作をしているので、一般の方には理解されにくいのだろうなと思います。しかし、ある程度頑張れば普通の生活ができるようにという整備は必要だと思います。


 この20年でクオリティーと引き換えに、作業量が激増しているといわれるアニメ業界。従来の制作スケジュールで現在のクオリティーを保っていくことに限界が来ているのかもしれません。

 また制作会社のなかには、報酬の振込手数料を自営業扱いのアニメーター側に負担するよう求める会社も存在するといい、アニメーターの金銭的な困窮に拍車を掛けているという話も聞かれました。引き続きねとらぼではアニメ業界に関する取材を続けていきます。

(Kikka)

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2403/17/news022.jpg 【追記あり】夫に「油買ってきて」と頼んだのに、手ぶらで帰宅した理由はまさかの…… とんでもないオチに「やめてww」「久しぶりに大爆笑」
  2. /nl/articles/2403/18/news022.jpg 1歳息子の“はじめての寝落ち”が140万再生 10歳兄のやさしい行動に「なにこの平和でかわいい世界」「最高に癒やされる」と絶賛の声
  3. /nl/articles/2403/17/news063.jpg 「予言者いた」「先見の明」 大谷翔平選手&真美子さんの結婚を2021年時点で予言(?)している投稿が発掘され話題に
  4. /nl/articles/2403/17/news047.jpg 北海道内の移動距離を本州と比較したら…… 感覚がバグるマップ画像に「これが北海道」「大きすぎる」
  5. /nl/articles/2403/18/news042.jpg 生後1カ月の赤ちゃん「ぼく泣かないもんねっ」 うるうるおめめとへの字口が「はぁ〜たまらん!」「ぐぁぁああああっっ」取り乱すほどかわいい
  6. /nl/articles/2403/15/news126.jpg 「一番イチャイチャしているように見える」 大谷選手が公開した写真でドジャース山本由伸選手の“手つなぎ”?が話題に 「そっちに目が行く」
  7. /nl/articles/2312/29/news019.jpg 「妻の服を勝手に着て脱げなくなったムキムキ夫とデカワンコ」に爆笑の嵐 シュールすぎる状況が500万表示突破
  8. /nl/articles/2403/18/news025.jpg “おしりが5日で変わる”トレーニング! 「明日からやるか」「1日1回だけなら続けられる」と累計3000万再生突破
  9. /nl/articles/2403/18/news056.jpg 大好きなボールを100個プレゼントされたときのワンコの表情に「放心ww」「引いてない?」 直視できない姿がSNSで話題
  10. /nl/articles/2403/18/news064.jpg 赤ちゃんが妙に静かだと思ったら…… 思わぬものへの“真剣モード”に笑顔になる人続出「たれたもちもちほっぺたまらん!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  2. 昭和時代に“無かった物”が写っている……? 細かすぎて伝わらない「未来から来たことがバレた写真」に6万いいね
  3. 「マジで汚い」「こんなもんです」 辻希美、“大散乱”のリビングと“新”キッチンの差を公開し共感の声集まる
  4. 双子の赤ちゃん、姉が全力でくしゃみして…… 被害にあった妹の反応に「生後3ヶ月でドリフのコントw」「めちゃどっちもカワイイ」と絶賛の声
  5. 「よくも病院に連れてきたな……」とにらむ猫、先生が来た瞬間 驚きの変貌に爆笑の声「これがほんとの猫かぶり」
  6. 急に片耳がたれたワンコ、慌てて病院にいった結果…… 「こんな可愛い診断結果初めて見たよw」「笑っちゃった」と反響
  7. 「何羽いる?」一見普通の“草むら”、よく見ると……? 思わず絶叫まちがいなしの1枚に「どっさりいるw」「まさに迷彩!」
  8. 店員に「この子は懐きませんよ」と言われたチンチラ、家に来て3日後…… 人を信じる姿に「愛が伝わったんですね」
  9. 元SDN48光上せあら、目を離した隙に……子どもが商品を触り“全買取” 「子連れママに厳しすぎないか?」
  10. 柴犬を子どものように育てた結果、人間みたいな行動をするようになった 何気ない幸せな日常に「完全に家族の一員」「全部が愛くるしい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  2. パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
  3. “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
  4. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  5. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  6. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  7. 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
  8. “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
  9. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  10. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」