デマニュースを流して小銭を稼ぐ、Webメディア運営SLG「Fake it to Make it」を紹介 デマサイトができる仕組みをリアルに描く

直訳すると「だまして稼げ」。

» 2017年04月06日 23時25分 公開
[Minoru UmiseAUTOMATON]
AUTOMATON


デマニュース運営シム

 『Fake it to Make it』は、今や熾烈な競争がおこなわれている「Webメディア」を運営するシミュレーションゲームだ。本作は無料のブラウザゲームであり、サイトに訪れれば誰にでもプレイできる。ゲームとしては単純であるが、全編英語となっているので、導入の段階でつまずきやすい。できるだけわかりやすく、ゲームの基本的な流れを説明していきたい。


小遣い稼ぎのサイト運営

 まずゲームを始めると、運営者の名前やナビゲートを担当するガイドなどを決定する。ここでポイントとなるのが「Webメディアで得た利益で何を買うか」の目標を設定するというオプションだ。楽器、アパートの一室、車など目標はランク分けされている。導入の段階から「小銭を稼ぐ」というゲームコンセプトが提示されているのが面白い。後述するが、このほかにも本作は随所にメタ的な視点を持ち込む一風変わったタイトルだ。最初は一番安価である楽器の購入を目標にするのが無難だろう。


デマニュース運営シム

 さっそく導入を終えてWebメディアを作成するところまでたどり着くと、さきほど選択したガイドから「頑張って利益を得てくれ。そのためには真実にこだわる必要はない。デマニュースの方が拡散されやすいし、時間もかからない。事実に基づかなくてもいい。」と痛烈な皮肉のこもったアドバイスを浴びせられるのが印象的だ。

 次にWebメディアを作ることになる。かなり細かいカスタマイズができるが、重要なのは「Creditability(信頼性)」と「Money(費用)」のバランスだ。無料のレンタルサービスを借り、無料のテーマを使用してもいいが、この状態だとあまりに信頼性がなくアドセンスサービスを利用できない。有料ドメインを取得し、いわゆる“メディアっぽい”レイアウトのテーマを有料使用することで、無事に広告表示のあるWebサイトを立ち上げることができる。


信頼をとるかドラマをとるか

 規模は小さいながらもWebメディアを開設した次は、ガイドから「他サイトからニュースをふたつコピーしてこい」と指示される。ゲーム内には記事が大量に存在しており、どれをコピーするかはプレイヤー次第。記事ごとに「Creditability(信頼性)」と「Drama(ドラマ性)」が存在する。信頼性が高くドラマ性も高い“優良記事”も存在するが、大体の記事はどちらかの要素しか持ってない。事実に基づいていれば面白さは低く、面白い記事の多くは事実に基づいていない。信頼性は一定水準さえあればいいので、ついドラマ性の強い記事を選んでしまうだろう。気をつけたいのは、ただ面白そうなニュースをコピーすることには意味がないという点だ。誰に読んでもらうWebメディアにするのかを意識し、そうしたイメージに基づいて記事をコピーする必要がある。この編集方針に関しては後述するSNSでの植え込みが大きく関係してくる。とりあえずは、コピーする記事のテーマに対して一貫性を持たせるよう意識しておけばいい。


デマニュース運営シム

 コピー記事は手軽に量産できるが、読者が存在しなければ記事は読まれない。次なる一手は「Plant An Article」をクリックし、記事をSNS上でシェアをすることだ。SNSでシェアをするためには、新しくアカウントを作ってもいいが、一定のフレンド数を持つ安価なアカウントを購入するのがスムーズ。またシェアをするためにはなんらかのコミュニティを選ぶ必要がある。SNS上にはざっくり「パープル」と「中立」、そして「オレンジ」コミュニティが存在する。パープルは富裕層が多く、現政権を支持し、移民などを嫌う思想を持つ人々。オレンジは現政権を嫌い、子どもと動物と自由を愛する人々だ。中立コミュニティはその名のとおり、中立の政治思想を貫く人々となる。中立思想を持ちWebメディアを運営するならば、生活やスポーツ、娯楽に関する話題を扱うことになるだろう。

 しかし、あなたが本気でWebメディアでお金を稼ぎたいなら、特定の政治思想を持つ読者をターゲットにしたほうが手っ取り早い。移民が事件を起こしたというニュースを、パープルコミュニティに貼ればスポーツニュースを扱うのがバカらしくなるほどシェアされる。信用性がかなり低くとも、子どもに対する補助金が減るというニュースをオレンジコミュニティでシェアすれば、手っ取り早く小遣いが稼げる。中立的に事実に基づいたニュースを流すメディアを1か月運営して得られるお金が、事実を考慮せず政治思想を色濃く出せば1日で手に入る。あなたがただ楽器を稼ぎたいだけならば、後者を選ぶ方が圧倒的に手っ取り早い。ネガティブな内容のニュースは強い影響を持つが、時に特定に政治思想を称賛する記事を投稿し、読者を幸せにする必要もある。アメとムチを使い分ける発想が重要なのだ。どちらにせよ、重要なのは読み続けられることだ。ひとつの記事がシェアされたところで得られる金額はたかが知れている。伸びる記事を日々量産していくことが、利益を得るうえで不可欠となる。


デマニュース運営シム

 ゲームを進行させていけば、コピーせずに他社の記事を“参考にして”作成することもできる。自身で記事を作成すれば、信頼性とドラマ性のバランスを微調整できるなど内容を細かく設定しやすい。自分で書く場合には、真実性を持たせるためにデマの一部に真実を混ぜたり、架空の人物の発言を引用したりするなど、幅広いオプションが利用可能。一方で、記事の執筆は、コピーするよりも圧倒的に時間がかかる。どちらを志向するかはあなたの編集方針次第だ。


闇へ引きずり込まれるシミュレーター

 『Fake it to Make it』は、デマニュースサイトがいかに生まれるかというプロセスを丁寧に、かつ自然に描く社会派ブラウザゲームだ。一度火がついた記事は勢いよくシェアされていき、その広がりを見ているだけでも楽しさを感じるだろう。そして、多くの人々にシェアされ、いわゆる“バズ”状態になった際には記事に多くの賛否両論のコメントがつく。プレイヤーがしているのはあくまで他サイトからコピーしているというだけであるにもかかわらず、妙に承認欲求が満たされる。自分がインターネット上に出したものが人々の感情を揺るがし、その反応を見る楽しみは、どれだけ手口が汚くとも快感を得る可能性がある 。そうした承認欲求を満たすために、記事はどんどん事実を追わなくなっていく。人々を傷付けることなど意図していないが、そういった内容の記事を量産する。ただ見てもらいたいがために、話題性の強いニュースをコピーしていく。そうするうちに、なんとなく始めたWebメディアは、無垢な悪意で染まっていく。そして手元には、大金が残るというわけだ。こうした流れがごく自然に導入されているという点では、本作は優良な反面教師 といってもいい。


デマニュース運営シム

 興味深いのは、本作のコンセプトに賛同できないプレイヤーがメタ的な視点でゲームを進めることになるというデザインが、実際のフェイクニュースサイトの運営に照らし合わされているように見える部分だ。フェイクニュースを流布するという行為をテーマとした本作においては、ほとんどのプレイヤーは「Webサイトを運営している自分」になりきるのではなく、「Webサイトを運営している自分を見つめる自分」としてゲームを進めていくことになるだろう。視点のレイヤーが異なるので、ゲーム内でモラルに欠けた行動をとっても、良心の呵責は痛まない。本来の自分は良識があり、行動しているのはあくまで見守っているもうひとりの自分だと思い込む。それゆえに、悪意のあるニュースを書いても心は痛まないし、攻撃対象の人々に憎悪もない。切り離されたもう一人の自分が汚れ仕事をして、注目が集まれば本来の自分が喜びを得る。もちろん、本作はフィクションなので心が痛まないのは当然だろう。しかし、メタ視点からデマニュースを発信することで、葛藤や苦しみにそれほど煩わされずサイトを運営できるという心理は、現実の運営に共通するものがあると思えてならない。人間が気付かぬうちにWebメディアの闇に染まる可能性を示唆しているという点は、恐ろしくもある。

 『Fake it to Make it』は、ゲームとしては単調でそれほど面白くない。しかしデマニュースを流すWebメディアの運営者という職種を体験できる点では、極上のシミュレーターだといえる。Webメディアがデマサイトにならないためには、事実に基づいて報道するのは大前提として、承認欲求という人間感情をコントロールし、執筆するニュースに対する責任を、書き手自身が負うことが重要なのかもしれない。


関連記事


関連キーワード

デマ | 偽情報 | ゲーム | ブラウザゲーム


Copyright (C) AUTOMATON. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2403/17/news022.jpg 【追記あり】夫に「油買ってきて」と頼んだのに、手ぶらで帰宅した理由はまさかの…… とんでもないオチに「やめてww」「久しぶりに大爆笑」
  2. /nl/articles/2403/18/news022.jpg 1歳息子の“はじめての寝落ち”が140万再生 10歳兄のやさしい行動に「なにこの平和でかわいい世界」「最高に癒やされる」と絶賛の声
  3. /nl/articles/2403/17/news063.jpg 「予言者いた」「先見の明」 大谷翔平選手&真美子さんの結婚を2021年時点で予言(?)している投稿が発掘され話題に
  4. /nl/articles/2403/17/news047.jpg 北海道内の移動距離を本州と比較したら…… 感覚がバグるマップ画像に「これが北海道」「大きすぎる」
  5. /nl/articles/2403/18/news042.jpg 生後1カ月の赤ちゃん「ぼく泣かないもんねっ」 うるうるおめめとへの字口が「はぁ〜たまらん!」「ぐぁぁああああっっ」取り乱すほどかわいい
  6. /nl/articles/2403/15/news126.jpg 「一番イチャイチャしているように見える」 大谷選手が公開した写真でドジャース山本由伸選手の“手つなぎ”?が話題に 「そっちに目が行く」
  7. /nl/articles/2312/29/news019.jpg 「妻の服を勝手に着て脱げなくなったムキムキ夫とデカワンコ」に爆笑の嵐 シュールすぎる状況が500万表示突破
  8. /nl/articles/2403/18/news025.jpg “おしりが5日で変わる”トレーニング! 「明日からやるか」「1日1回だけなら続けられる」と累計3000万再生突破
  9. /nl/articles/2403/18/news056.jpg 大好きなボールを100個プレゼントされたときのワンコの表情に「放心ww」「引いてない?」 直視できない姿がSNSで話題
  10. /nl/articles/2403/18/news064.jpg 赤ちゃんが妙に静かだと思ったら…… 思わぬものへの“真剣モード”に笑顔になる人続出「たれたもちもちほっぺたまらん!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  2. 昭和時代に“無かった物”が写っている……? 細かすぎて伝わらない「未来から来たことがバレた写真」に6万いいね
  3. 「マジで汚い」「こんなもんです」 辻希美、“大散乱”のリビングと“新”キッチンの差を公開し共感の声集まる
  4. 双子の赤ちゃん、姉が全力でくしゃみして…… 被害にあった妹の反応に「生後3ヶ月でドリフのコントw」「めちゃどっちもカワイイ」と絶賛の声
  5. 「よくも病院に連れてきたな……」とにらむ猫、先生が来た瞬間 驚きの変貌に爆笑の声「これがほんとの猫かぶり」
  6. 急に片耳がたれたワンコ、慌てて病院にいった結果…… 「こんな可愛い診断結果初めて見たよw」「笑っちゃった」と反響
  7. 「何羽いる?」一見普通の“草むら”、よく見ると……? 思わず絶叫まちがいなしの1枚に「どっさりいるw」「まさに迷彩!」
  8. 店員に「この子は懐きませんよ」と言われたチンチラ、家に来て3日後…… 人を信じる姿に「愛が伝わったんですね」
  9. 元SDN48光上せあら、目を離した隙に……子どもが商品を触り“全買取” 「子連れママに厳しすぎないか?」
  10. 柴犬を子どものように育てた結果、人間みたいな行動をするようになった 何気ない幸せな日常に「完全に家族の一員」「全部が愛くるしい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  2. パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
  3. “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
  4. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  5. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  6. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  7. 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
  8. “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
  9. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  10. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」