ネットにつなぐだけで月に数万円請求されて親に怒られていた頃のこと

息をするようにネットをする、それがあの頃の夢でした。

» 2017年05月04日 11時00分 公開
[上田啓太ねとらぼ]
オレの知ってるネットと違う

 われわれは「常時接続」のインパクトを忘れた。

 もはや空気のようにWi-Fiが飛んでいる。出先の店でノートPCを開き、無料のWi-Fiに接続してネットを見る。そんなことまで可能になった。そんな状況で常時接続といっても、常時呼吸とでもいうようなばかばかしさがあるだろう。

 しかし、たまに思い出すのだ。「ダイヤルアップ接続」のことを。ネットを使っているあいだ、家の電話が「話し中」になっていた頃のことを。実家で母親に、「ちょっと電話使うからネット切ってちょうだい」といわれていたときのことを! 

 ということで今回は、ダイヤルアップ接続でネットをしていた頃のお話。

ライター:上田啓太

上田啓太

1984年生まれのブロガー。京都在住。15歳のときにネットに出会い、人生の半分以上をネットとともに過ごしてきた男。

個人ブログ:真顔日記 Twitter:@ueda_keita


ネットのはじまりを告げる音

 1999年、我が家にネット環境がやってきた。しかし現在とはいろいろなことが違っていた。例えば、PCにはケーブルを差し込まなくてはいけない。無線なんて夢のまた夢だった。「モジュラージャック」と呼ばれる、妙にモジャモジャした語感のものを差し込んでいた。

 そしてネットに接続する際は覚悟を持たねばならなかった。なぜか? 接続時間に応じて料金が発生したからだ。これが何よりも大きかった。無線と同じく、定額制も夢のまた夢だったのだ。

 ネット接続時には奇妙な音がした。私は「ピ〜ガガ〜」と覚えていたが、人によっては「ピ〜ヒョロ〜」だったりもするようだ。どちらにしろマヌケなひびきだが、これがネットのはじまりを告げる音だった。

 何でも保存している物好きな人がいるもので、当時の音をYouTubeで聴くことができる。たんなるノイズにすぎないはずなのに、聴くと胸が高鳴ってしまう自分がいた。おお……インターネットがはじまる……! ドラクエのファンファーレのような高揚感だ。ピ〜ガガ〜なのに。

やたらと親を気にする

 ネット料金の請求は、電話の通話料と一緒にきた。当時の自分は高校生だったので、通話料は親が支払っていた。調子に乗ってネットを長時間見ていれば、翌月、親に叱られる。これは本当によくあった。

 何カ月も夢中でネットをしていれば、「通話料の大半はあんたのネット代だ」という指摘からの、「こづかいで払え」や「お年玉で払え」というパターンも生じた。私が学生のときにネットを始めたからだろう。とにかく最初は親のことを意識していた。

 電話中はネットができないのも特徴だった。ネットをしたいのに、母親が誰かと電話している。じれったい気持ちで通話が終わるのを待つ。はやくネットがしたいのに! そんなこともよくあった。その反対が冒頭に書いた例だ。ネットを楽しんでいると、母親に「電話するからネットやめてちょうだい」といわれてしまう。しぶしぶ切る。扶養される身のつらいところだった。

ISDNとテレホーダイ

 この問題は「ISDN」によって解決した。何の略称かは知らない。とにかくISDNを使えば、電話とネットを併用できる。そのことだけを覚えていた。この頃は何の略称なのかも知らない四文字に喜ばされることが多かった。

 だから次は似たような四文字である「ADSL」の話……といきたいところだが、その前にすこしだけ寄り道をする。アルファベット四文字ではなく、小林製薬的なダジャレ感が特徴のサービスがあった。その名も「テレホーダイ」である。

 テレホーダイは、深夜ならば定額でネットができるサービスだった。正確には夜23時から翌朝8時まで。だからこの時間帯は「テレホタイム」と呼ばれていた。要するに、利用者の少ない時間帯に限定しての定額サービスだ。しかし画期的だった!

 ネットにハマッている人たちは、大抵テレホーダイを利用していた。そして目の下にくまを作っていた。当時、ネットを愛することは夜型になることに等しかったのだ。夜の23時になると同時に、常連が次々とチャットルームに入室してくる。もはや説明するまでもない。夜23時はネットの開店時刻だったのだ。

ADSLの登場

 そしてとうとうADSLによる定額サービスがやってきた。もう通話料金を気にしなくてもいい。深夜のテレホタイムを待つ必要もない。常時接続。この四文字を待っていた! 世界征服よりも天下無双よりも常時接続にあこがれる。私はそんな少年だった。

 回線速度も一気に上がった。当時、「ブロードバンド」という言葉をやたらと聞いた。それまでのダイヤルアップ接続は「ナローバンド」なんだともいわれていた。聞き慣れないひびきを妙に覚えている。ナローバンドからブロードバンドへ!

 日本語にすれば「ナロー=せまい」と「ブロード=広い」ということなんだが、これからはブロードバンドの時代なんだと興奮していた。画像一枚を表示するのにジリジリと時間をかける時代は終わったのだ。重たかったページもADSLならばスイスイ表示される。しかも定額で使い放題だ。こんなことがあっていいのか!

そして現在

 以上、駆け足で振り返ってみた。人によって数年の誤差はあると思うが、大体、2000年前後に起きた変化だったと思う。ダイヤルアップ回線、ISDN、テレホーダイ、そしてADSLによる定額制の常時接続。めまぐるしくネット環境が変化した時期だった。

 私にとって、常時接続とブロードバンドがネット人生におけるいちばん印象的な出来事だった。その後もさらに回線は速くなり、安定もしたが、それほど感動していない。例えば光回線に変えたときは、ADSLほどの衝撃はなかった。「遅い」が「速い」になると感動するが、「速い」が「さらに速い」になっても、いまいち実感が生まれにくいということか。

 ちなみに2017年現在、「たまにはネット環境のない場所に行きたい」と思ったりしている。「常時接続もちょっと疲れるよな」というふうに。これは、当時の自分にはとても聞かせられない発言だ。定期的にピ〜ガガ〜の接続音を聞くべきだろうか。初心に戻るために。

オレの知ってるネットと違う

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