「奴隷のほうがマシな生活」「人材枯渇」 自動車整備業界の危機的状況を現役整備士が告白

整備士、業界関係者を取材しました。

» 2017年06月04日 12時35分 公開
[Kikkaねとらぼ]

 「アニメ業界の人材不足が進んでいることは報じられるが、自動車整備業界の人材枯渇についてはあまり知られていない」というツイートが衝撃を与えています。これまであまり語られてこなかった自動車整備士の労働実態や、「メーカー直営整備士専門学校の県志願者0人」「人材枯渇」といった業界の実情を取材しました。


自動車整備 自動車整備のイメージ

 ツイートによると、メーカー直営の整備士養成専門学校への入学者が減少したことにより、3年後には新卒の整備士を採用できない県が出てくるとのこと。ねとらぼ編集部はこのツイートを投稿したAさんに接触、詳しいお話を聞きました。

現役整備士に聞く自動車整備業界クライシス

 Aさんはメーカー直営の整備士養成専門学校を卒業後、地元のディーラーで勤務している現役整備士。Aさんが働くディーラーでは毎年、メーカー直営の整備士専門学校から新卒生を採用していましたが、「3年後には採用できる新卒整備士が0人になるのでは」という話が持ち上がっているといいます。

――なぜ3年後の新卒採用が0人になるのでしょうか

Aさんメーカー直営の整備士養成専門学校を卒業した整備士は出身県のディーラーなどで整備士として働く、というのが一般的です。私が勤めるディーラーでもメーカー直営校の卒業生を毎年採用しているのですが、今年は私の出身県の入学者がいないということが分かりました。つまり今年の入学生が卒業する3年後、この学校からは原則的に新規採用者がとれないということになってしまいました。

――なぜそんなことが起こってしまっているのでしょう

Aさんインターネットの発達で整備士の仕事内容や待遇が垣間見えるようになったからでしょうか。専門学校入学前の工業高校の段階でIT系へ走る人材の増加したことも関係していると思います。あとは各高校に対する企業推薦枠の影響力が弱まってきたのかもしれません。

――企業推薦枠の影響とは

Aさん整備士養成専門学校にも、いわゆる企業推薦枠があります。ディーラー側が高校などに対して大きな影響力を持つ「企業推薦枠(ディーラー推薦枠)」を用意するのです。この方法で10年ほど前までは全国の工業高校生を中心にそこそこ安定して人材を集められていたのですが、今年はこのディーラー推薦がありながら、私の出身県の高校卒業生がメーカー直営専門学校に1人も入学しなかったということで、非常に驚きました。

――そもそもなぜ整備士を目指す人が減ってしまったのでしょうか

Aさん整備士の仕事が低給・長時間労働・肉体労働の3kで、店舗によっては奴隷のほうがマシな生活であることが周知されてきた影響かもしれません。また最近は車もコンピュータで動いているものが多いので、システムに理解がないとそもそも整備などできません。こうしたことから機械だけでなく電子に関する知識技術が必要になったことも一因ではあるだろうと思います。

――車好きだけで整備士になるのは難しいということですね

Aさん車好きの不良が整備士になる、という昔ながらのイメージは10年以上前に終わっていて、体力だけの人につとまる仕事ではとっくの昔になくなっています。よくパーツ交換しかできない人を「チェンジニア」と無能扱いするのですが、それですら実はそれなりの経験がないとできませんし、そもそも人がいなさすぎて、交換作業でさえする人員に事欠く状態なので、あまり笑えた話ではありません。


自動車整備 人材が足りないという自動車整備士のイメージ

自動車業界関係者に聞く、整備士の実態

 関西で自動車関係の会社を経営するBさんも、整備士の厳しい現状については数年前から危機感を抱いていたと話します。

――整備士が足りないという感覚はありますか

Bさん足りないですね。整備が必要な車はどんどん来ますが、それを整備する人間(整備士)が圧倒的に足りていません。どうやって整備士を育成・確保するか、という話自体は数年前から世界的に話題になっていました。

――なぜ人材が足りなくなっているのですか

Bさん最近は車に興味のない人が増えていて、「整備士なんかしたくない」という若者が多いんですよね。大手ですら助成金を出して海外から人材を確保している状況と聞いています。専門学校に人材が集まらないという話も以前から聞いていましたが、ついにここまで来てしまったか、という感じです。

――整備士の仕事内容についてはどんな印象ですか

Bさん通常の勤務時間内に仕事が終わらず、夜中まで作業することもざらですね。知人の整備士からは「辞めたい」「きつい」という話もよく出てきます。なかにはうつ病になってしまった、亡くなってしまった、という人もいるのですが、このあたりはなぜかあまり報道されないなと思います。

――待遇面はどうなんでしょうか

Bさん知人に大手メーカー直営ディーラーに勤める30代後半の整備士がいるのですが、基本給15万円に残業代がついて25〜26万円が平均月収です。しかも実質の残業は80時間程度なのに、MAXで40時間分までしか認めてもらえないと言っていました。責任者クラスですらこの待遇なので、厳しいと言わざるを得ないですね。

――それでも続けられるのは、やっぱり車が好きだからですか

Bさんもちろんそれはあるでしょうけれども、整備しかやってこなかった人間が転職をするというのは容易ではありませんし、年も年なので辞められないというのが実情ではないでしょうか。

――今後自動車整備業界はどうなっていくのでしょうか

Bさんもちろん整備士を目指す人材を育成しなくてはいけないと思いますが、実は今注目されている電気自動車が普及することにより、将来的には整備士が要らなくなるのではないかという話もあるんですよ。

――整備士が要らないというのは

Bさん本社のコンピュータを使い、車体を遠隔でチェックして、不具合があった場合には遠隔で修理してしまおうというものです。

――でもタイヤがパンクしたりという物理的な故障はつきものですよね

Bさんもちろんそれはあります。ただ、今はパンクしにくいタイヤ、すり減りにくいタイヤなどがたくさん登場してきています。そう遠くない未来にパーツ交換不要の車が出てきてもおかしくないと考えている人は少なくないと思います。



 自動車整備士養成専門学校への入学志願者数は2003年の1万1000人をピークに緩やかに減少しており、現在では6000人ほどに落ち込んでいます。

 志願者の減少については、出生率の低下による少子化や、大学の進学率が高まったこと(2003年の36%対して2017年では49%)などが関連しているとみられています。これにより自動車整備士養成専門学校以外の専門学校への入学者も減少していますが、車に対する熱意を持った人材の減少が一因になっているのでは、との見方もあります。

 日本自動車整備振興会連合会が昨年発表した自動車整備要員の平均年齢は44.3歳。今後は整備人員の確保や、高齢化なども自動車整備業界の課題となりそうです。

(Kikka)

関連キーワード

自動車 | ディーラー | 人材 | 人材育成 | 危機感


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2503/05/news190.jpg 「本当に迷惑」 宅急便の「不在連絡票」と酷似のチラシが物議…… ヤマト運輸「配布中止申し入れ」
  2. /nl/articles/2503/06/news108.jpg 「雨の日は大活躍」 ワークマンの“2900円ジャケット”に称賛の声が続出 「春先の外出に役立ちました」「言うことなし」
  3. /nl/articles/2503/05/news016.jpg 愛猫が見つめる先にいるのは……? “まさかの来訪者”に思わず仰天 「うそっ?」「お庭に来るんですね!!」
  4. /nl/articles/2503/06/news107.jpg 「まじで神商品」 かっぱ寿司が販売している「まさかの110円メニュー」に仰天 運営が明かす“意外な需要”
  5. /nl/articles/2503/04/news040.jpg そうはならんやろ ヤマト運輸公式とLINEで遊んでいたら…… 突然訪れた“予想外の展開”に28万いいね
  6. /nl/articles/2503/06/news026.jpg 【ダイソー】A4額縁にマグネットシートを入れるだけで…… 2児ママの天才アイデアに「こういうのほしかった」「感動」
  7. /nl/articles/2503/06/news018.jpg 朝起きて“ディズニーにいる”と気付いた3歳娘が…… 抱きしめたくなるリアクションに「やばい泣く」「一生の思い出だ」
  8. /nl/articles/1611/04/news117.jpg 「ヒルナンデス!」で道を教えてくれた男性が「丁(てい)字路」と発言 出演者が笑う一幕にネットで批判続出
  9. /nl/articles/2503/04/news027.jpg 壊れて捨てるしかないバケツをリメイクしたら…… 想像もつかない大変身が830万再生「想像力がすごい」【海外】
  10. /nl/articles/2503/03/news065.jpg 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
  2. 40代女性、デートに行くため“本気でメイク”したら…… 別人級の仕上がりに「すごいな」「めっちゃ乙女感出てる」
  3. 30年以上前の製品がかっこいい ソニーの小型ラジオのデザインが「すごい好き」「いまでも通用しそう」
  4. 幼くてかわいらしい兄妹が4年後…… 同じポーズで撮影した“現在の姿”に「これはあかん」「よすぎて声出ました」
  5. 「早く買えば良かった」 無印の1490円“本格せいろ”が690万表示の反響 「ほぼ毎日使ってる」「まっっじでいい」と感動の声
  6. ごはん炊き忘れた父「いいこと閃いた!」→完成した弁当に爆笑「アンタすげぇよ!」 息子「意味ねぇことすんなよ」
  7. 使わなくなった折りたたみ傘→切って縫うだけで…… 驚きのアイテムに変身「こうすればよかったのか!」「見事」【海外】
  8. 高3女子「進学を機にイメチェンしたい」→美容師に依頼すると…… 仕上がりが「すげえええ」「鳥肌立ちました」と1000万再生
  9. とんでもない量の糸をくれた先輩→ママがお返しに作ったのは…… 完成した“かわいいアイテム”に「絶対喜ばれるやつ!」
  10. 「洗濯機が壊れた!」→修理を頼む前によくよく調べてみると…… 「えぇ〜」“まさかの原因”が200万表示「何度もやりました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  2. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  3. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  4. 和菓子屋で、バイトの子に難題“はさみ菊”を切らせてみたら……「将来有望」と大反響 その後どうなった?現在を聞いた
  5. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  6. 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
  7. 希少性ガンで闘病中だったアイドル、死去 「言葉も発せないほどの痛み」母親が闘病生活を明かす
  8. “きれいな少年”が大人になったら→「なんでそうなったw」姿に驚がく 「イケメンの無駄遣い」「どっちも好きです!笑」
  9. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  10. 芸能界引退した「ショムニ」主演の江角マキコ、58歳の近影にネット衝撃「エグすぎた」 突然顔出しした娘とのやりとりも話題に