コラム
» 2017年07月21日 11時00分 UPDATE

最も効く「乗り物酔い対策」はどれか? 「前を見る」「ガムをかむ」「歌を歌う」医師に根拠を聞いてみた

乗り物酔いを防ぐための民間療法。どれが本当に効果があるのか医師に聞いてみました。

[石原亜香利,ねとらぼ]

 乗り物酔いを防ぐための民間療法といえば、「前方の景色を見るようにし、横の流れる景色はなるべく見ない」「ガムをかむ」「アメをなめる」「梅干しや酢昆布などのおやつを食べる」「歌を歌う」「食べすぎない」「空腹にしすぎない」「ストレッチをしてから乗る」などがあります。

 これらの対策が効くこともありますが、そもそも医学的な根拠があって効いているのか、あるいは偶然や気休めなのか、本当のところが分かりません。そこで乗り物酔いについての研究を長年行っている「野田耳鼻咽喉科」の野田哲哉先生に話を伺いました。

乗り物酔い対策

取材協力:野田哲哉先生

野田耳鼻咽喉科 院長

日本耳鼻咽喉科学会専門医 医学博士

乗り物酔い研究室(野田耳鼻咽喉科内)


「前方の景色を見る」は有効

 野田先生によれば、乗り物酔い防止の民間療法のうち、「前方の景色を見るようにし、横の流れる景色はなるべく見ない」については、正しいといえるのだそうです。

野田先生:乗り物に乗っているときの横に流れる景色のような、近くで動くものはきちんと目で追うことができません。人間の眼球を動かす能力には限界があります。その限界を超えたときに目の平衡機能障害が起こり、酔いやすくなります。ですから、できるだけ遠く、かつ、流れない景色を見る対策は有効と考えます。

乗り物酔いの「平衡機能障害説」とは?

野田先生:一般的には、乗り物酔いは「感覚混乱説」で説明できるとされていますが、私はこの説は完全に誤りと考えています。「平衡機能障害説」は「感覚混乱説」とはまったく違った考え方です。

 感覚混乱説とは、「乗り物に乗ると、これまでの蓄積された情報とは違う感覚情報が中枢神経系に入るために、感覚混乱信号が発生し、その強さに応じて乗り物酔いの症状が起こる」という説です。

――では、もう一方の「平衡機能障害」とはどのような状態のことをいうのでしょうか。

野田先生:平衡機能検査の正常範囲を外れていた場合、平衡機能障害と判断されます。平衡機能検査とは、めまいを訴える患者さんに対して、床やベッドの上で身体のふらつきや目に異常な動きがないかを調べる検査です。

 (検査は床やベッドの上で行うので)動いている乗り物の中での平衡機能障害は検証されていません。私は床やベッドで行われる平衡機能検査とその正常範囲を、乗り物酔いにも応用して考えています。例えば、揺れる電車の中では手を使わずに両足のかかとをつけて立てませんから、このような状態を「平衡機能障害がある」と判断しています。

――乗り物に乗っているとき、人間に平衡機能障害があるということでしょうか。

野田先生:平衡機能障害という言葉は理解しにくいと思いますので、具体的に説明します。激しく揺れを起こす乗り物にジェットコースターがあります。この座席の上に安全バーを使わず、しかも手を離して立ちながら乗れる人はいるでしょうか。世界中を探しても誰もいないはずです。人間の調節能力をはるかに超えた揺れのために、全ての人間が平衡機能障害を起こします。

 分かりやすくいえば、平衡機能障害とは自分では調節できない身体や目の揺れです。実は、公園にあるブランコの板の上にも、人間は手を使わないとたった5秒間でさえ立てません。人間の揺れに対する調節能力は極めて低いのです。もちろん、バス、電車、船といった乗り物では身体や目が揺れています。

――平衡機能障害説ではどのようなことがいえるのでしょうか。

野田先生:平衡機能障害説の最も重要な考え方は「動いている乗り物の中で、人間はずっと平衡機能障害を起こしている」ということです。平衡機能障害を起こしているときに、吐き気や嘔吐などの自律神経症状が伴ったり伴わなかったりしますが、伴ったときが「乗り物酔い」です。

 平衡機能障害というと、めまい、ふらつきを感じるものと思われていますが、必ずしもそうではありません。乗り物に乗っているときには、めまいやふらつきを自覚しない平衡機能障害が隠れています。

――なぜ吐き気や嘔吐などの自律神経症状が起こるのでしょうか。

野田先生:乗り物に乗ると胃腸が揺れるからです。自律神経症状は胃腸障害の症状です。ただし、自律神経症状が出るには激しい揺ればかりではなく、ある程度の時間が必要です。当然ながら、平衡機能障害、つまり身体や目の揺れがありますので、これも自律神経中枢に影響を及ぼします。身体や目の揺れは激しければ激しいほど、吐き気などの症状が出やすくなります。特に目や頭の揺れが強いと出やすくなる傾向があります。

 自律神経症状には個人差があり、精神的な要因の影響を受けます。同じような揺れを繰り返し受けると、自律神経症状は軽くなります。これを“慣れ”と呼んでいます。

「食べすぎない」「空腹にしすぎない」も対策になる

野田先生:「食べすぎない」「空腹にしすぎない」ことも、乗り物酔いの対策になるといわれています。理由ははっきりしませんが、空腹では血糖値が下がって脳の働きが悪くなるという考えがあります。

 また、これは個人的な意見ですが、食べすぎると、胃が揺れるときに、内容物によって胃壁が受ける物理的な刺激が大きくなるため、酔いやすくなると考えています。おやつを食べることも空腹にしすぎないということかもしれません。

効果がないと思われること

――その他の「ガムをかむ」「歌を歌う」「ストレッチをしてから乗る」などは対策としてどうなのでしょうか。

野田先生:それらについては何ともいえません。精神的な要因がありますので、一部の方で効果があるのかもしれませんが、多くの方には効果がないのではないでしょうか。乗り物酔いには、人間の能力では調節不可能な平衡機能障害が隠れていますから、あまり効果的な対処法はないと考えています。

有効な対策は

――では、野田先生はどのような対策が有効だとお考えですか?

野田先生:乗り物に乗る30分くらい前に乗り物酔いの薬を飲むことは有効です。体調不良や睡眠不足の時は酔いやすくなります。空腹時や満腹時は酔いやすくなるため、これらはできるだけ避けるようにしてください。

 可能であれば、揺れの小さい乗り物に短時間乗るように変更することです。揺れは小さいほど、乗る時間は短いほど、酔う可能性が小さくなります。また、毎日のように乗り物に乗ると、慣れによって酔わなくなります。私も小中学生の頃、乗り物酔いがひどく、バスに乗ると10分も経たないうちに気分が悪くなっていました。高校のバス通学で慣れたため、酔いにくくはなりましたが、今でもカーブの多い山道では酔うことがあります。

 私自身が酔った場合は、背もたれに頭を付け、頭ができるだけ揺れないようにして目をつぶります。そのまま眠るのがいいのですが、眠れなくても意識レベルが下がれば少しは楽になります。

――なるほど、「揺れ」を第一に意識して、平衡機能障害が起こりづらくなるような工夫をすれば良いわけですね。ありがとうございました。

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