アニメ「ジョーカー・ゲーム」関東再放送のメインスポンサーが新潟市!? ガチオタ副市長とProduction I.Gが史上初の取り組み(1/2 ページ)
「この番組は新潟市とご覧のスポンサーでお送りします」
「この番組は新潟市とご覧のスポンサーの提供でお送りします」――7月5日から関東圏で始まったアニメ「ジョーカ−・ゲーム」再放送のメインスポンサーが、まさかの「新潟市」だと話題となっています。なぜ行政である新潟市が番組のメインスポンサーとなったのか。その狙いはなんなのか。新潟市副市長とアニメ制作会社Production I.Gにお話を伺いました。
7月5日からテレビ埼玉(テレ玉)と千葉テレビ放送(チバテレ)で再放送中のアニメ「ジョーカ−・ゲーム」は、世界大戦の火種がくすぶる昭和12年(1937年)を舞台に、秘密裏に設立されたスパイ養成部門“D機関”のメンバーが暗躍する――という柳広司さんの小説が原作のインテリジェンス・ミステリー。
2016年4月にアニメ化されると、ハイクオリティーな作画やスリルのある展開が話題を呼び、放送終了直後から再放送を熱望する声が上がっていました。そんな待望の再放送でファンが着目したのは、意外にもオープニング直後に流れる「この番組は新潟市とご覧のスポンサーの提供でお送りします」という提供読みと、ドドーンと表示される新潟市のロゴマーク。
ネット上では「ジョカゲって新潟市公認アニメ……?」「再放送のジョーカーゲームの提供が新潟市で笑った」「新潟市スポンサーについてるのになんでジョカゲ新潟で再放送してないの????」などと、なぜ再放送が流れていない新潟市が関東のテレビ番組のスポンサーになっているのかを疑問に思っている人が多い様子です。
新潟市副市長とProduction I.Gに聞いた「提供:新潟市」の謎
なぜ新潟市はジョーカー・ゲームのスポンサーに踏み切ったのか。新潟市の木村勇一副市長と番組を制作した制作会社・Production I.Gの執行役員・郡司幹雄さんにお話を伺いました。
――なぜ新潟市が関東で再放送している「ジョーカー・ゲーム」のメインスポンサーになったのでしょうか
木村副市長:今回の広告には首都圏を中心とする関東圏の方に「マンガやアニメをきっかけとして新潟市へ遊びに来てください!」というメッセージが込められています。かなり試験的な試みではありましたが、関東圏のアニメ番組にCMを流すことにしました。
――もっとも訴求したかったことはなんですか
木村副市長:実は新潟市はマンガやアニメと非常に結び付きが強い都市なんです。『ドカベン』などの水島新司先生、『うる星やつら』などの高橋留美子先生ら多数の有名なマンガ家の出身地で、JAM日本アニメ・マンガ専門学校があることから有名なアニメーターの方も多く輩出しています。そうした背景から2012年に「マンガ・アニメを活用したまちづくり構想」を立ち上げ、2013年5月には「新潟市マンガ・アニメ情報館(※)」を設立しました。今回はこの情報館についてのCMを流していただいており、「マンガやアニメをきっかけとして新潟市にお越しいただきたい」というところを訴えています。
(※)新潟市マンガ・アニメ情報館……各種展示やアフレコ体験などを通してマンガやアニメに触れられる施設。館長はZガンダムなどで原画を手掛けた元アニメーターで、ガタケット代表の坂田文彦さん。
郡司さん:今回「新潟市マンガ・アニメ情報館」の実写のCMもI.Gで制作させていただいており、「がっとらね!! にいがた!!」というキーワードを推しています。これは新潟の方言で「すごいぞ!! にいがた!!」の意味で、アフレコの際には新潟市の職員の方に立ち会いのもと、方言指導もしていただきました。
――行政がテレビでCMを流すというだけでも珍しいことだと思いますが、アニメ番組のスポンサーになったというのはすごいことですよね
木村副市長:行政がアニメ番組のスポンサーとなり、広告を流したのは全国的に見て今回が初めてのことだと思います。
郡司さん:それもメインスポンサーですからね。私も本当に実現したときにはびっくりしました。
木村副市長:昨今行政の「PRのチカラ」が課題になってきています。新潟市の場合は、地名を知ってくださっている方は多いのですが、全国的に有名な観光地ではないので、黙っていても県外からたくさんのお客さんが来てくださる土地というわけではないんです。ただ、関東からだと1時間40分程度で行けること、またお米やお酒といった食べ物が本当においしいこと、昔懐かしい街並みの雰囲気が残っていることなどから、一度来ていただいた方からのリピート率はとても高いんです。そこで「まずは一度新潟市に来ていただきたい」「新潟市の魅力を知っていただきたい」、という思いで広告を出させていただきました。
――メインスポンサーになるとどんなメリットがあるのですか
郡司さん:番組中にCMを流すのはもちろんですが、「この番組は、○○の提供でお送りします」という提供読みをしてもらえたり、メインスポンサーのお名前が一番目立つように表記されたりします。もっとも今回は番組の放送枠をI.Gが買いきって(※)再放送しているので、そのあたりもI.Gで調整させていただきました。
(※)放送枠を買い切る……特定の放送時間帯の番組枠をテレビ局から購入し、独自の番組を放送すること。
――ドドーンと表示される新潟市の市章もかわいいですよね
木村副市長:本当ですか? 私たちはあまりにも見慣れているので“市章がかわいい”とは思いもしませんでしたが、うれしいです。あれは、港をイメージしたイカリと数字の“五”をデザインしたもので、幕末の安政五年通商条約により指定された五港を意味している図案なんですよ。
郡司さん:弊社の制作部長に「ジョーカー・ゲーム」の場面をバックに新潟市とその市章がどどーんと出ているキャプチャー画像を見せたら「これは面白い!」と爆笑していました。
木村副市長:私たちもいざ見てみるとちょっと照れくさかったですね。そういえば今回の再放送に関する意見で「テレ玉さん、チバテレさん、再放送ありがとう」というコメントなども拝見したのですが、実は自ら放送枠を買いきって、スポンサーまで集めて再放送しているI.Gさんのおかげなんですよ。
――制作会社が番組の放送枠を買う、なんていうことがあるんですか
郡司さん:とても珍しいことですが、取り組んでいます。これまでにも「制作会社がもっとテレビの構造を理解しなくてはならない」という考えを持っていたのですが、アニメ放送の構造をより深く理解するために、まずは代理店業務やスポンサー営業なども含めて全てI.Gでやってみようと考えました。I.Gは「失敗を恐れず、とにかく一度やってみよう!」というのが社風でもあるので。
――放送枠を買うとどんなメリットがあるのですか
郡司さん:番組を再放送すること単体での利益というのはあまりありません。しかし、「ヒットした作品をもっと多くのお客さんに見てもらいたい」と考えた場合、テレビで再放送するのが最も効果的なんです。今の時代、ネットでも、レンタルビデオ店でも、いつでも自由に作品の視聴はできるはずなのですが、不思議なことに“いつでも見られると思うとなかなか見ない”という人が多いようです。ところがなぜかテレビで再放送があるとなると、皆さん視聴してくださるんですよね。今回の再放送でいうと、放送圏外の方の中で、テレ玉とチバテレの放送時間に併せてBDを再生するという動きもあるとTwitterなどで拝見しました。また今回の再放送を通じて、はじめて「ジョーカー・ゲーム」を見たという方も多くてうれしく感じました。
――そうすると新たな視聴者獲得が主な目的なのでしょうか
郡司さん:それだけというわけではありません。今回は「ジョーカー・ゲームの絵コンテ集」の制作を担当のプロデューサーが進めており、この販売告知と受注開始を告知することをメインに考えました。さらに今回の再放送に併せて、売り切れていたジョーカー・ゲームの原画集の重版をかけて販売を再開しています。これが非常に好評で、毎日受注数が増えるほど非常に多数の受注をいただいています。ご購入いただいたファンの方にはこの場を借りてあらためて御礼を申し上げます。またこの他にもグループの関連作品の劇場CMを流したり、渋谷にあるI.GストアのCMを流すことによって関連収益にもつなげています。ビジネス展開というのは、個別の事象や損益だけに注目してしまうと物事を見誤ることが多く、色んなことを複合的に絡ませてビジネスラインを走らせることにいつも注力しています。実は物事単体のビジネス上の損益だけを見始めると逆に会社全体の利益は低下する傾向にあるのです。
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