「甲子園の土、その後どうしてますか?」 元甲子園球児たちに聞いてみた(1/3 ページ)

あの「奇跡のバックホーム」の走者だった方にもお話を伺いました。

» 2017年08月21日 11時00分 公開
[辰井裕紀ねとらぼ]

 野球少年たちの夢舞台、甲子園。そして敗退した彼らが大勢のカメラマンのフラッシュを浴びながら集めるのが“甲子園の土”です。

 そんなシーンこそクローズアップされるものの、その後、土がどうなったかにはほとんど触れられません。


甲子園の土 高校野球ファンの羨望を集める甲子園と、それを形作る「土」

 多くの出場者にとって甲子園は、野球人生いちばんの晴れ舞台。そんな彼らの勲章であり、汗の結晶である「甲子園の土」はいま、どうなっているのでしょうか? 実際に、たくさんの元甲子園球児の方たちに聞きました。

 「甲子園の土、その後どうしてますか?」


「強豪ではなかった高校のグラウンドへまきました。そこからプロ選手が出て……」

 埼玉の強豪県立高校出身の鈴木さん(仮名)、58歳。高2の夏にチームが甲子園へ出場。ベンチ入りメンバーからはギリギリで漏れてしまったそうですが、選手たちの練習相手となるバックアップメンバーには入り、チームを勝たせるための役割に徹していたそうです。

 そこで気心の知れた3年生のレギュラー選手に、こっそり「自分の分もください」と伝えており、何とか土をもらえたそう。

 しかし、気前の良い鈴木さんは、甲子園へ行けなかった知り合いや後輩たち、さらには野球少年たちへ次々とあげてしまい、40歳になる前に土はなくなってしまったとか。

 その気前の良さが特に現れたのは、知り合いがいる別の高校のセレモニーに、土を使わせてあげたときのこと。最後の夏大会への出陣式として「この土をみんなで取りに行こう」とグラウンドへまくのに使われました。

 そこまで強くない高校であったものの、エースピッチャーはそこから周りが驚くほどの大出世をしました。甲子園の舞台には立てなかったものの、社会人野球を経て、西武ライオンズへ入団し、1軍でも活躍したそうです。


甲子園の土 強豪校ではない高校から、西武一軍で活躍したピッチャーが出た

 「プロになった彼の脳裏に、ほんの少しでもあの土があったとしたら……それはとてもうれしいですね」

 いま鈴木さんは、埼玉県の小川町高見にある「高見屋」でうどんを打っています。


「2年生は土を拾うな!」の言いつけを破って持ち帰り、今は「ワイングラスの中」

 五所川原農林高校野球部で1970年夏大会に2年生で出場した奈良義一さん。守備に定評のある7番ショートでした。初戦で岐阜短大付属高校に0-4で負け、夏は終わりました。

 実は監督から「まだ2年生なんだから、土を拾うな!」と言われていましたが、言いつけを破って何とか土を持ち帰ったそうです。翌年の最後の夏は、青森県の代表決定戦で弘前高校と対戦し、敗れて甲子園出場はならなかったそうですから、土を持ち帰れたことは、今となっては良かったのかも知れません。


甲子園の土

 土はやはり、中学校や小学校のときの野球部など、色んな人に配ったとか。小学校で野球を教わった先生のもとにも持っていき、先生はとても喜んでいたそう。

 「甲子園の土はすごくやわらかくて、スパイクが沈んで埋まるほど。砂に近かった」

 それは今、ワイングラスに入って食器棚に飾られています。


ラッパーになった甲子園球児。「MVの中で母校のグラウンドに土をまきました」

 2016年、山梨学院高校から夏大会へ出場した椙浦(すぎうら)光さん。副主将として挑んだ夏大会前に左手親指を骨折し、レギュラー落ち。そのケガの影響を引きずりながらも甲子園では代打出場し、悔しい見逃し三振で夢の舞台を去りました。

 たくさん持ち帰った土を、家族や親戚、同級生、先生、先輩・後輩たち、さらに小学生時に所属したチームの後輩たち全員に配ったそうです。

 土は現在、実家のテレビの上に置いているとか。「そこが一番目にとどまるところですから。甲子園の記憶が薄れないように、そうしました」その土を見て、当時を想うこともあるそうです。


甲子園の土 MV中で母校のグラウンドに土をまくシーン

 今では「H-PICE(@h_pice0421)」の名で、以前から憧れていたラッパーとしてデビュー。当時の記憶をよみがえらせて作った「約束の場所」は、高校球児への応援歌。一瞬に全てをささげた若者だからこそ書ける、汗にまみれたような力強いフレーズであふれており、MVの中で、母校(中学校)のグラウンドに実際に甲子園の土をまくシーンも。

 その曲で彼の紡ぎ出すフレーズ、特に「2016年8月 バットは出なかったあの悔しい思いは今ここに」という言葉は、ほんの一瞬でも甲子園を目指した元野球少年の心を打ちます。


「奇跡のバックホーム」でまさかのアウトに。「土は、スパイク袋に入れたまま……」

 1996年夏大会決勝。犠牲フライには十分な打球がライトへ上がり、三塁走者の熊本工業・星子選手はタッチアップ。あとは50メートル5秒台の俊足でホームを目指すだけでした。しかし、松山商業ライト矢野選手の返球が、浜風に乗り加速。これ以上ない最高の返球がどストライクで返り、まさかのタッチアウト。これが甲子園史上に残る「奇跡のバックホーム」でした。

 その後、熊本工業は11回に勝ち越され、敗退。そんな悲劇のヒーローとなった星子さんは、現在熊本でその名も「たっちあっぷ」というバーを開いています。

甲子園の土 ライトから異次元の返球が返ってきた(写真はイメージです)

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた