早押しクイズの微分学 〜4文字でボタンを押す「最速の押し」が「最速ではなくなる」理由〜(1/3 ページ)

儚くも美しき早押しクイズの極限。

» 2017年09月13日 11時00分 公開
[伊沢拓司ねとらぼ]
“ゾーン”に入ったトッププレイヤーはここで「押す」(問題文の続きとその答えは記事中で)

 こんにちは、QuizKnock編集長・東大生クイズ王ということになっている伊沢です。

 『ナナマルサンバツ』のアニメ化などもあり、ここ数年で競技クイズを取り巻く環境も、(少なくとも普及という面では)随分変わってきた。「クイズ研究部って普段何してんの?」と訊かれる機会は減ったし、そもそもクイズ研究部というものがあって、ガチンコでクイズしているということ自体が知れ渡ってきている。僕自身もついつい流されて、専門用語をペロッと言ってしまったりするほどには状況が良くなってきているのである。

 そんな専門用語の中でも、『ナナマルサンバツ』のアニメ作中でよく使われているものの1つが「確定ポイント」だ。これは早押しクイズにおいて、読み上げられている問題を「ここまで聞いたら100%答えが確定する」という問題内の箇所のこと。例えば、

 「カリフォルニア州クパティーノに本社を置く、iPadやiPhoneなどの製品で知られる世界的なIT企業といえばどこでしょう?」「答え:Apple」

 という問題があるとすると、この問題の確定ポイントは「カリフォルニア州クパティーノに本社/」である。もちろんクパティーノに本社を置いている企業が複数ある可能性はあるが、この場合はAppleがあまりにも有名なので無視できる程度の可能性としている。

 この「確定ポイント」ぴったりで押すのが早押しクイズの理想である。クイズ界の定説である。

 しかしここ数年、戦略的な変遷に伴い、この確定ポイントへの見方も変化が生じてきた。結果だけ端的に述べるなら、理想的な早押しタイミングは確定ポイントより前側に進みだしたのである。最速の新たな扉が開いたのだ。

 ということで今回は、「早押しクイズの最速が、どのように追い求められてきたか」を最新の研究を交えて探りたいと思います。

 そしてその結果われわれは、「最適解は、それ自体が存在することにより最適ではなくなる」という構図にたどり着くのです。一体それはなぜか。いきましょう、ふしぎ・発見。

早押し機を握る筆者

「最速」をどう定義するかだ

 まず、ある問題を「誰よりも早く押す」ということについて、正確に定めていこう。野放図な状態で議論を始めると、「読み上げられた瞬間に押す。カンで答えれば当たる可能性はある」となってしまう。

 「早押しクイズ、どこまで早く押せるか」論争は、正解率についての決め事なしには行えない。ここでは、「8割以上の確率で正解できる押し」でなければならないと、いったん仮決めしておこう。この過程は後々変化させていく。

 先にも述べたように、早押しクイズにおける理想の押し(スラッシュポイントとも)は「確定ポイント」と呼ばれる。ここまで聞けば100%正解になる、という最速の押しポイントのことである。この「確定ポイント」というのは議論を突き詰めていけば一カ所に定まるものであるが、全ての人間が同じ問題について同じ確定ポイントを想定できているわけではない。

 アニメ『ナナマルサンバツ』では、

 「京都三大祭といえば、5月の葵祭、7月の祇園祭と10月の何でしょう?」「答え:時代祭」

 という問題において、「7月の頭の『し』」が確定ポイントとして紹介されていた。しかし、この問題についてトッププレイヤーが想定している確定ポイントは「5月の『ご』」である。

 「ご」から始まる京都三大祭はないので単純に祭りを並列させた問題ではないと分かるし、「5月」に言及している時点で「時期順に三大祭を並べている」ことが分かるのだ。トッププレイヤーは「5月」が読まれた段階で既に早押しランプを点灯させているだろう。

 このように、最速を定義するにはまず、定義する側がある程度知識を持っていて、いろいろな可能性をつぶせる人間でなければならない。逆にいえば、あまたあるクイズの問題の全てにおいて「確定ポイント」が統一的に明示されている、というようなことはないのだ。その点は決まり字が明らかになっている競技カルタとは違う要素だろう。

 逆にいえば、どのような問題が出てきても競技クイズの文脈の中では「確定ポイント」が定義可能である。百人一首は百枚であることにより確定ポイントを作り出すが、競技クイズはあくまでその一文に含まれる知識要素の中に確定させうる要素が入っているのである。

「確定ポイント」から「ここで押せる」への変遷

 では、話を一歩進めて応用編に入ろう。

 端的に言ってしまうと、現在のフロントラインにおいて「確定ポイント」という単語はあまり使われていないのだ。現在それとほぼ同義の言葉として「ここで押せる」「ここで押す」が使われている。なんとも締まりがないが、適切な名詞表現はない。

 なぜこのような表現が使われるようになったのか、その答えは先ほど定義した「正解率」にある。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/25/news016.jpg 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  2. /nl/articles/2404/23/news090.jpg 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  3. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  4. /nl/articles/2404/25/news043.jpg 娘の給食の献立表を見たら…… 正体不明の“謎の料理名”が「これはわからんw」と話題に その意外な正体に納得!
  5. /nl/articles/2404/25/news129.jpg プロ野球チップスでまた“不良品”流出 伊藤大海「176m」表記に続き…… カルビー謝罪「深くお詫び」
  6. /nl/articles/2404/24/news018.jpg 1年半ケージに引きこもっていたシャーシャー猫が、ある夜布団に入ってきて…… 感涙の行動に「まるで別猫」「こんな日が来るなんて」
  7. /nl/articles/2404/24/news017.jpg メルカリで300円の紙モノセットを買ってみたら…… 出品者のあたたかな心遣いに「利益は考えていないんでしょうね」「見ててわくわくします」
  8. /nl/articles/2404/23/news185.jpg 子どもに高級キーボードのパーツを捨てられた → 公式の“先読みしすぎた対応”が話題「そういうこともあろうかと」
  9. /nl/articles/2401/18/news015.jpg 巨大深海魚のぶっとい毒針に刺され5時間後、体がとんでもないことに…… 衝撃の経過報告に「死なないで」
  10. /nl/articles/2404/22/news124.jpg ダイソー「マルチ万能ほうき」が家事ラクの救世主 名前負け知らずの便利さに「これやばっ!!」「220円に驚き」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」