解読不能の奇書「ヴォイニッチ手稿」、ついに解読!? 懐疑的な意見も続々

何度解読されれば気が済むのか……。評価は芳しくなかったようです。

» 2017年09月14日 15時50分 公開
[たけしな竜美ねとらぼ]

 英語圏の権威ある文学誌「The Times Literary Supplement(TLS)」に9月5日、「内容不明の古文書、ヴォイニッチ手稿の解読に成功した」というニュースが発表され、インターネット上でも大きな話題を呼びました。ただしその内容には、世界中から否定的な意見も寄せられています。

ヴォイニッチ手稿の記事が掲載されたTLS誌の表紙

 TLSに解読の記事を寄稿したのは、イギリスの歴史学者ニコラス・ギブズ(Nicholas Gibbs)氏です。同氏は古文書内の文字ではなく絵に着目し、ヴォイニッチ手稿に描かれているイラストと、中世ヨーロッパの各種文献に描かれているイラストやシンボルとの類似点から、文章の解読に成功したと主張しています。

 同氏によれば、ヴォイニッチ手稿の正体は同時代に存在していた医学書の寄せ集め、特に「女性向けの健康法」をまとめたもので、解読不能な文章は「ラテン語の単語を短く書いた略号(電車の“キハ”のような文字記号のこと)」だというのです。

ヴォイニッチ手稿とは

 「ヴォイニッチ手稿」は1912年にイタリアで発見された、15世紀に書かれたとされる著者不明の古文書です。その内容が、多数の奇妙な絵と解読不能な文字のみで構成されているところから、「何が書かれているのかわからない謎の奇書」として知られています。

 解読不能な文章と絵に関しては、これまでに暗号解読の専門家、言語学の権威をはじめ、プロ・アマ問わず数多くの人々が解読を試みており、内容の仮説もさまざまに存在していますが、発見から約100年が経過した今なお、文章の内容も絵の意味もまったく分かっていません。

 ここまで来ると実は何の意味もない、適当に書かれたデタラメな本なのでは、という疑問を抱かれるかもしれません。ですがヴォイニッチ手稿内の文字列には、言語学の統計解析によって「デタラメな文字列ではなく、確かな意味と規則性を持つ文章列である」という分析結果が出ています。

 2017年9月現在、ヴォイニッチ手稿は原本を所蔵するイェール大学図書館によって、インターネット上で自由に閲覧・ダウンロードが可能な状態となっています。


ギブズ氏による解読のポイント

 ギブズ氏は「これまで解読を試みた人物が、古い時代の文献について無知であったことが問題を引き伸ばした原因である」と断言。歴史学者としての知識を生かし、古代から中世までの医学書に描かれたイラストと、ヴォイニッチ手稿内のイラストとの共通性を指摘しています。

ヴォイニッチ手稿内に繰り返し登場する「水に漬かった裸の女性」(左)と、中世の女性向け医学書に描かれた入浴健康法の挿絵

 同氏は「中世に書かれた女性向けの医学書(De Balneis Puteolanis)」「古代ギリシャ時代に書かれた医薬品書(De Materia Medica)」のイラストと、ヴォイニッチ手稿内のイラストとの類似性から、手稿はそれらを参考に書かれた医学書である、と推測しました。

 特に女性向けの医学書には「入浴が健康に良い」と、入浴がイラスト付きで紹介されており、手稿内に繰り返し登場する「水に漬かった裸の女性の絵」は入浴法の紹介、と考えれば不自然さはなく、これが大きなヒントになったのだとしています。

ヴォイニッチ手稿の「球体の絵」

 同時に「中世において、占星術は医学とされていた」ことにも着目しました。大きな9個の球体が書かれた折り込みページや、円形の図は天体図が描かれたものと考え、これもまた、ヴォイニッチ手稿が医学書であることの証拠だというのです。

ヴォイニッチ手稿の植物の絵と、古代ギリシャの医薬品書の絵

 またギブズ氏は「ヴォイニッチ手稿には、当時の医学系文献と同様に、病気名や植物名などの記載された検索用の目次(インデックス)が存在していたはず。各ページの内容が記されている目次が失われてしまったため、手稿は意味不明のものとなったのだ」ともコメントしています。

ギブズ氏によるヴォイニッチ手稿内の2文節の解読(TLSから

 そして医学書という共通性から、古代ギリシャの医薬品書と手稿内の文章の共通性に注目。ギブズ氏は手稿内の文字が、医薬品書に書かれているラテン語の略語から引用されたものと推測し、手稿内の文字を「aq=aqua(水)、dq=decoque/decoctio(煎じ薬)、con=confundo(混ぜる)、ris=radacis/radix(根)」などに当てはめ、2行の文章を解読したのです。

世界中から反論が続出

 しかし、世界のヴォイニッチ手稿の研究者や専門家、マニアたちからの、この記事に対する反応は相当に冷ややかなものでした。日本でも複数の懐疑的な意見が見られますが、海外では研究者や専門家による、記事内容に対する反論が次々にわき上がっています。

 特にITデータの暗号化を得意とするドイツの科学者フォン・クラウス・シュメー(Von Klaus Schmeh)氏は、反論記事を書くにあたり「ケネディ大統領の暗殺とヴォイニッチ手稿は、マニアと研究者によって幾度となく解決されてきた」と揶揄(やゆ)しています。

 こうした数多くの反論には、以下のような内容が見られました。

  • 「自説に沿う2文節を抜き出し、当てはめただけのもの」
  • 「これで5行以上解読できたら大したものだ」
  • 「すでに試みられている解読法だが、今後役立つ可能性のある新たな視点は含まれている」
  • 「解読法のひとつに過ぎない内容にも関わらず、権威あるTLSが大々的に“解読に成功した”と伝えた理由がよく分からない」

 結局のところ「権威と実績のあるTLSから“ヴォイニッチ手稿の解読に成功、その内容は健康法を紹介する医学書であった”と大々的に報じられたことで大きな話題を呼んだが、実際には解読説がひとつ提示されたに過ぎない」という程度の話であるようです。

たけしな竜美

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた