昔の本は「あるもの」を使わないと読めなかった?
全ページ袋とじ状態。
果物ナイフ、カッターナイフ、サバイバルナイフなど、世の中にはいろいろなナイフがありますが、その中の1つが「ペーパーナイフ」。
「ああ、手紙(封書)を開けるときに使うアレね」と思った方はもちろん正解なのですが、実はそれだけではないのです。
使い道はズバリ……?
「ペーパーナイフ」を辞書で引いてみると、次のような説明がされています。
紙を切るための小刀。フランス装の本を切り開いたり、封書を開封したりするのに用いる。紙切りナイフ。(引用元:デジタル大辞泉)
後半の「封書を開封」はよく知られている通り。では、1つ目の使い道として紹介されている「フランス装の本を切り開いたり」とは、一体どういうことなのでしょうか。
製本のヒミツ
「フランス装の本」が何なのかを理解するには、本というもの全般の作られ方を把握しておく必要があります。
本は、ページごとに異なる紙に印刷するのではなく、下図のように1枚16ページのセットで印刷し、この大きな紙を折り曲げています。(1枚32ページといった場合もあります)
この16ページのセットを必要分だけ重ねて仮綴じ(かりとじ)をしたら、次に「断裁」という作業が入ります。
またもミニチュアでの説明になりますが、画像の赤線に沿うようにして、綴じ口以外の3辺を切り落とし、目的の書籍サイズに合わせます。
もちろん、各ページはあらかじめ余白を広めにとって印刷しています。断裁を終えたものに、本番の綴じをしたり、スピン(栞ひも)をつけたり、表紙を被せたり貼ったりして仕上げれば完成というわけです。
昔の本は袋とじ!?
製本作業が分かってきたところで、本題の「フランス装の本」とは何なのでしょうか。
実は旧来のヨーロッパの製本では、上記の「断裁」という作業をしていませんでした。多くのページをきれいに切りそろえる技術がなかったのです。
つまり、16ページのセットにつけられた折り目が切られないまま、読者のもとに届いていたのです。断裁前だと、折り目でページがつながって、袋になったままです。
このように、断裁がされずに仕上げられた本のことを「アンカット本」とか、俗に「フランス装」と呼んでいます。
読者はペーパーナイフを使って、袋とじ部分を開きながら読み進めていました。また、読み終わったら自分好みに製本し直す、という習慣も広く行われていたようです。
というわけでペーパーナイフの使い道は、断裁されていない「アンカット本」の袋とじ部分を切り開くことでした。
今ではほとんどの書籍が断裁されており、私たちがナイフを持ち出す必要はなくなっています。それに伴い、ペーパーナイフの存在感も次第に薄れてきました。
ただし、昔ながらのアンティークな雰囲気を出したり、書籍コレクター向けとして、今でもほんの一部、ページ同士がつながったままの本が出回っています。ペーパーナイフがしばしば高級感のあるデザインをしているのは、そうしたアンティークな雰囲気に合わせているのでしょう。
近年では古書ミステリのヒット作『ビブリア古書堂の事件手帖』が、お話の中でこうしたアンカット本を扱っています。
不便なことが、むしろ価値になる。なんともぜいたくな話と言えるかもしれませんね。
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