「1時間で出番は1回だけ」 オーケストラで“一番暇”な楽器はどれなのか?
暇すぎる。
あなたはオーケストラを聴きに行ったことはありますか? もし行ったことがあるならば、ずっと座っているだけの奏者が気になったことはありませんか?
筆者はアマチュアのオーケストラで25年間活動をしていますが、友人を演奏会に呼ぶと「あの打楽器の人、いつ出番があったの?」などと聞かれます。出番が極めて少ない楽器があるのは事実ですが、実際に一番暇な楽器はどれなんでしょう? 筆者の知る精鋭の“オケマニア”たちに聞きました。
誰もが答える、新世界のチューバ
「一番暇な楽器は?」と聞くと、誰もが答えるのが、ドボルザーク作曲 交響曲第9番「新世界より」のチューバです。チューバというのは、低音を担当する金管楽器。金管楽器のなかでも、ひときわ大きい楽器です。
ドボルザークの「新世界より」の2楽章は、「遠き山に日は落ちて」「家路」など歌詞をつけて歌われていることもあり、そのメロディーは広く知られています。私の母校では下校放送がこの曲でした。誰でもどこかで聞いたことがある曲ではないでしょうか。
この曲は全体で45分程度。その中でチューバの演奏時間は1分未満しかありません。手元にあったCDの演奏で測定したところ、出番は2カ所合計で55秒でした。
パート譜がどうなっているのか見たくて探してみたのですが、なかなかチューバのパート譜が見つかりません。よくよく調べたら、筆者がたまたま見つけた版ではトロンボーンのついでに譜面が書いてありました。チューバ専用のパート譜になっていないこともあるんですね。
演奏箇所は、小節数にすると9小節。音は13個です。しかも、3番トロンボーンと同じ音でした。どうして、ここにだけチューバが使われたかは諸説あるようです。
新世界はシンバルも1発だけ
ドボルザークの交響曲第9番「新世界より」は、シンバルの出番が少ないことでも有名です。出番が少ないどころか、シンバルは1発だけです。
実際にはトライアングルとの掛け持ちが可能で、トライアングルは3楽章にそこそこの出番があるので、一般的にはチューバの方が暇と言われます。ですが、トライアングルとの持ち替えをしないで、シンバル専任として奏者が置かれることもあります。
「若くてまだ仕事があまりなかったシンバル奏者が、やっとプロのオーケストラに呼ばれて、新世界のシンバルを演奏することになった。しかし、本番でついついたたき忘れてしまって、結局何もせずにギャラだけもらって帰ってきた」という話は、オーケストラ業界の都市伝説。似たようで、詳細が違う話を複数のマニアが話していました。
1時間超の曲で出番が1回!
ブルックナー作曲の交響曲第7番(ノヴァーク版)のシンバルも1発しか出番がありません。この曲は全体で約67分と前述の「新世界より」よりも20分以上も長いので、暇度が高くなっています。
打楽器はティンパニ、トライアングル、シンバルの3つが必要ですが、3つとも同時にたたくので掛け持ちができません。ちなみにトライアングルの出番もシンバルと同じ1カ所のみです。トライアングルの方は2拍間連打するので、たたく回数は少しだけ多くなります。
この曲は1楽章が約20分、2楽章が約25分。シンバルの出番は2楽章の最後のほうにあります。手元のCDでは、シンバルの出番は2楽章が始まって21分頃にありました。
2楽章は重い、ゆっくりとしたテンポの曲です。語弊をおそれず言うならば、聞いているだけなら眠くなる曲。お客さんも相当数が寝ていると思います。あの曲を21分も待つのは、実は相当に難易度が高いのではないでしょうか。救いなのは打楽器が3人とも同じ出番なので、誰かが気付けば気が付く可能性が高いということでしょうか。
ちなみに、この曲でパート譜のページ数が一番多いのは第1バイオリン。全部で27ページありました。シンバルはもちろん1ページです。
その他、ブラームス「悲劇的序曲」のピッコロ、ラヴェル「ボレロ」の大太鼓とドラとシンバル、チャイコフスキー「交響曲第6番 悲愴」のバスクラリネット、マーラー「交響曲第2番 復活」のオルガンなど、いろいろな情報が寄せられましたが、やはり、インパクトのある情報は打楽器に多いようです。生のオーケストラで「新世界より」や「ブルックナー 交響曲第7番」を聞きに行くことがあったら、是非シンバル奏者がたたいている瞬間を見つけてあげてください。
(※ブルックナーの交響曲第7番は「ハース版」の場合、シンバル、トライアングルを使わないこともあります)
(高橋ホイコ)
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