漫画海賊サイトを追い詰めた松文館の執念 損害賠償金は作家へ分配 「やる価値は十分にあった」(2/3 ページ)

» 2017年12月23日 11時30分 公開
[黒木 貴啓ねとらぼ]

示談がうまくいったポイント

 グループ・ゼロではこれまでにも違法アップロードサイトへの対応に取り組んできたが、これまでは無断配信を停止をさせることが主であり、賠償金を得られたのはこれが初めて。示談が成立したポイントはどこにあるのか。

 1つは「数の力」だと山口弁護士は話す。

 もし当該サイトにアップされている作品のうち、松文館が管理している作品の数が少なければ、損害賠償を請求したところで金額が少なくなる。相手方に危機感を持たせることはできないばかりか、示談が成立したとしてもコストがかかりすぎて割に合わない。ところが、大量に違法アップされている場合には、請求可能な損害賠償額も大きくなり、刑事事件化する可能性も高くなるので、十分にコストを割く価値が出てくる。

 もう1つは、運営元を特定できた点だ。

 違法アップロードサイトの運営は往々にして匿名。仮に連絡フォームから請求してもスルーされるのがオチだ。しかし、身元が特定できれば話は異なる。

 「特定が第一の関門でした。逆に、特定さえできれば、損害賠償請求も刑事告訴もできますし、相手方も自らの違法行為を正当化することは不可能なので、相手もこちらを無視することができないだろうと考えました」(山口弁護士)

 加えて、特定した先が“日本国内”だったことも大きな要因だという。「相手が海外だったら削除はともかく損害賠償を受けるのは難しかったかもしれません」(山口弁護士)

 ちなみに気になる特定方法だが、それについては教えてもらえなかった。手の内が漏れると、サイト側に対策されてしまうからだ。


悪質サイトは強大 違法行為の証明の難しさ

 「今回のアクションが成功したのは、相手が狡猾(こうかつ)ではなかったから」と宇野氏は振り返る。

 「違法と目されるようなサイトには、極めて悪質なものもあれば、認識の甘いサイトもあります。このたびは後者だったのでうまくいきましたが、より大規模なサイトは組織的で、何らかの形で抜け道を設けていたりします」(宇野氏)

 例えば悪質なサイトは、運営元が自ら違法アップロードを行っているのか、それともユーザーが行っているのか、事実を確認できない作りになっている。運営元が膨大な広告収入を得るために大量の著作物を無断投稿していたとしても、その事実を突き止めない限りは「こちらはプラットフォームを運営しているだけで無断投稿したのはユーザー」と責任逃れされてしまう。

松文館 違法アップロード 海賊サイト 漫画 作家 示談 分配 印税 グループ・ゼロ 山口貴士松文館 違法アップロード 海賊サイト 漫画 作家 示談 分配 印税 グループ・ゼロ 山口貴士 5月に突然閉鎖した海賊サイト「フリーブックス」も、無断投稿したのが誰なのか特定しづらい作りとなっていた(関連記事

 「悪質なサイトを相手に、個人、個社の小さな規模感で違法行為の事実を確認し、対応、対策を講じることは相当難易度が高い」と、宇野氏は顔をしかめる。

 もちろん、無料配信サイトが全てダメということはない。広告収益を権利元に分配することで、版元の許諾を得て配信しているサイトもあるからだ。


損害賠償金の分配は通例なのか

 グループ・ゼロは今回、獲得した損害賠償金を作者に分配したが、これは「著作権侵害の損害賠償は作家に帰属すべき」と考えているからだ。出版社はあくまで作家からコンテンツの管理を任されているのであり、そこから派生して得られたお金は還元するのが筋だという見解だ。

 他の出版社・著作権管理会社も損害賠償金を得られた場合、同じように分配しているかどうかはわからないが、「一般論としては分配すべき」とのことだった。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/09/news183.jpg JR東のネット銀行「JRE BANK」、申し込み殺到でメール遅延、初日分の申込受付を終了
  2. /nl/articles/2405/10/news144.jpg GACKT、「最上級グレードの外車」寄付も売り飛ばされ……“カスタムだけに3000万円”な元愛車の激安価格に「この値段なら買い戻すか」
  3. /nl/articles/2405/09/news162.jpg 「ずっと小児」 グランスタ東京の“母の日広告”に賛否…… 運営会社が撤去「違和感覚える方もいた」
  4. /nl/articles/2404/09/news169.jpg JR東日本、ネットバンクサービス「JRE BANK」を発表 JREポイントがたまるなどの特典も
  5. /nl/articles/1608/02/news135.jpg 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. /nl/articles/2405/10/news013.jpg 娘の部屋にあるゴツいメタルラック→パパが大変身リメイク! 驚きのビフォーアフターに「かわいい!」「細かいところまで!」
  7. /nl/articles/2405/10/news022.jpg ママもパパも双子赤ちゃんのお世話で手が離せないときは…… 赤ちゃんを見守る思わぬ“お姉ちゃん”が頼もしい
  8. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  9. /nl/articles/2405/10/news116.jpg 「ほんと凄すぎ」 加藤紗里、全身及んだ“人生で一番の大手術”から1か月……脂肪吸引で理想のスタイルへ「胸だけでかくて他は細い」
  10. /nl/articles/2405/10/news127.jpg 「ガチンコファイトクラブ」元2期生、現在は有名タレントの“マネジャー”だった……竹原慎二の“再指導”で約20キロ減「中途半端にやめやがって」
先週の総合アクセスTOP10
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評