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» 2018年02月06日 09時00分 公開

モバクソ畑でつかまえて:スタドリが仮想通貨のように使えた時代のお話

今では考えられない、ソシャゲ興隆期のちょっと面白い昔話。

[怪しい隣人,ねとらぼ]

 連日話題の“仮想通貨”ですが、かつてソーシャルゲームの世界では、ゲーム内のアイテムがまるで本物の通貨のように流通し、取引に使えた時代がありました。知らない人には何のことやらだと思いますが、知っている人はすぐに「あれのことね」とピンと来るのではないでしょうか。

 今回はそんな、それほど昔でもないちょっと昔のお話です。ライターはモバクソゲーサークル「それいゆ」発起人であり、ソーシャルゲームに詳しい「怪しい隣人」@BlackHandMaiden)さんでお送りします。


ライター:怪しい隣人

モバクソ畑でつかまえて

出来の良くないソーシャルゲームを勝手に「モバクソゲー」と名付けて収集、記録、紹介しています。モバクソ死亡リストは500件を超えました。年々ソーシャルゲームが複雑になり、ダメさを判定するのに時間がかかるのが最近の悩みです。本業はインフラエンジニア。そのためソーシャルゲームの臨時メンテは祭り半分胃痛半分な気分です。




「スタミナドリンク」という仮想通貨

 最近、仮想通貨の話題をネットで見ない日はありません。特に昨年(2017年)末からTVCMを打っていたコインチェックが別の意味で話題になっており、そろそろガチャ代どころの騒ぎではないダメージを財布に受け始めている人もいるのではないでしょうか。

 そんな中、われわれソーシャルゲームをプレイしていた人間はずっと前から仮想通貨に触れていたのではないか、というお話がありました。



 「アイドルマスターシンデレラガールズ(以下デレマス)」に登場する、課金アイテムの「スタミナドリンク」「エナジードリンク」。それぞれ「スタドリ」「エナドリ」などと略して呼ばれますが、前者は体力回復アイテム、後者は攻撃守備コストの回復アイテムとして、本来はゲーム内で使用するためのものでした(※)。

※編注:ゲーム内でもときおり手に入るほか、1本100モバコイン(=約100円)で購入もできた

スタドリ 仮想通貨 スタミナドリンク(スタドリ)とエナジードリンク(エナドリ)

 しかしゲームが始まると、これらのアイテムは本来の目的以外に、他のユーザーとアイドルをトレードする際の通貨として使われるようになります(※)。そういう意味ではまさに“仮想通貨”といえるかもしれません。

※編注:「デレマス」ユーザーの間では、アイドル同士をそのまま交換するのではなく、スタドリでトレードするのが一般的。人気のあるアイドルだと、数百本〜1000本単位で取引されるケースも


「デレマス」内だけでなく、「他のゲーム」とも交換できた

 そしてそんなスタドリエナドリが、今よりもっと自由に、“ゲーム内に限らず”利用できた時代がありました。それはゲームが始まってから、ゲーム内に「フリートレード」というシステムが導入されるまで、具体的には2011年11月から2012年8月までの期間。この間、スタドリは本当に通貨のように多くのプレイヤーの間を行き来していたのです。

 例えば「スタドリ1本を出すので、『神撃のバハムート』の回復アイテムであるキュアウォーター3本と交換してほしい」などというやりとりがMobageの掲示板や、2ちゃんねるなどを介して実際に行われていました(※)。

※編注:掲示板上で取引が成立したら、互いのゲームにログインしてそれぞれ約束のアイテムを送りあうという形だった(詐欺もめちゃくちゃ多かった)

 当時のソーシャルゲームのコラボは、ユーザー数を増やすための「招待キャンペーン」が中心だったため、「Aというゲームに招待させてください、お礼にBというゲームに招待されます」という相互招待が頻繁に行われていました。そのため、複数ゲーム間でのやりとりには皆違和感を持たなかったのです。


スタドリ 仮想通貨 当時のトレード掲示板のやりとり。この場合「未登録のゲームの招待を受けるから、代わりにデレマスに招待させて」という意味

 さらに、これらのコラボは招待されておしまいではなく、さらなる報酬のため、一定のレベルまでプレイさせられることがほとんどでした。報酬をもらったらそのゲームはプレイしなくなることが多かったのですが、やめるときにはそのゲーム内で手に入れたアイテムをスタドリと交換してもらうこともできたため、他のゲームをプレイすることも損にはなりませんでした。

 また「招待の人数を複数集める必要がある」場合もあり、その場合は全く関係ないゲームとの相互招待も行われていました。デレマスと野球ゲームの相互招待に応じ、向こうでガチャからダルビッシュを引き、トレードで大もうけした人もいます。私自身はこの相互招待からとんでもないゲームにバンバン招待されることになり、そこから「ソーシャルゲームにも良作とクソゲーがちゃんと存在する」ということに気づいてモバクソゲーとか言い出すことになったのですが。


スタドリ 仮想通貨 「神撃のバハムートに3人の友達招待成功」などの条件が求められることも

スタドリ 仮想通貨 こんなのにも招待された


アイドルプロデュースよりも楽しいアイドル人身売買

 そんなさまざまな手段で集めたスタドリで何をするのか? もちろんそのスタドリで好きなアイドルを入手するのです。

 初期はアイドルそのものをスタドリ(エナドリ)で売買する仕組みはゲーム内にはなく、これもまたMobageの掲示板や、2ちゃんねるなどを介して売買が行われていました。回数の制限もなく、アイドルの売買を繰り返して手持ちのスタドリを増やすことも容易でした。スタドリ10で取引されているアイドルを9で買って11で売るということを繰り返していくわけです。

 もちろんそんな地道な手段だけではなく、ガチャで当てたSレアアイドルを売って一獲千金もあります。当時はSレア確定などというガチャはなく、その代わりにあったのはコンプガチャでしたが。


スタドリ 仮想通貨 コンプガチャで爆死するユーザーが続出し、「ニートショック」という言葉も生んだ「[だらだら妖精]双葉杏」

 こんなアイドル売買ですが、これが本当に楽しかった。アイドルをプロデュースするよりも、相場を見てやりとりするのが楽しい。そんな感じでした。売買が楽しいだけではありません。アイドルをプロデュースする人間を演じるのではなく、アイドルを人身売買する女衒(ぜげん)を演じる背徳感もまた、大きな楽しみの1つだったのです(※)。

※編注:他にも、スタドリとエナドリの価値変動を利用して、「スタドリ→エナドリ」「エナドリ→スタドリ」の交換を繰り返して差額で利益を得るなどのテクニックもあった

 悪のロールプレイはさておき、トレードの場には本当の悪人である詐欺師もいました。400スタドリの売買を40で申し込み、ウッカリ了承する人間を狙うもの、Rのアイドルに対してNアイドルでトレードを申し込むもの……。もちろんそんな悪人たちの情報もまた掲示板で共有されるのですが、有名になりすぎた結果コメント欄が取引掲示板代わりになってしまった人もいます。



そして「異種トレード禁止」で“無法”状態終了へ

 こんな良くも悪くも無法な世界も、DeNAが2012年5月にMobage内で異種トレードやRMTなどを禁止する旨の告知を行い、終了を迎えることになります(関連記事)。

 デレマスでは2012年8月に「フリートレード」というゲーム内トレード機能が設置され、さらには友人とのトレードにも制限がかけられることとなりました。このフリートレードに参加するには1日3枚もらえるトレードチケットが必要となり、このチケットはガチャを引かないと増えません。スタドリエナドリ以外にも、トレード不可の回復アイテム(※)が増え、無課金者の一獲千金の機会は減りました。お金を使う者同士が取引をする、管理された市場がそこに生まれたのです。

※編注:効果はスタドリ、エナドリと同じだが自分しか使えない「マイスタドリ」「マイエナドリ」など

スタドリ 仮想通貨 現在のフリートレードの様子

 これらの改定の結果、現在はゲーム内資産を他のゲームへ移動させることがほぼ不可能です。異種トレードができた時代は「このゲーム飽きたから引退しよう」と思えば、そのゲームのカード資産を回復アイテム化し、移行先のゲームとトレードして新天地で資産を持ってスタートなどということも可能でした。

 それも含め、ガチャを回すだけではなくあれこれと頭を捻って欲しい物を手に入れるという機会が失われているのが残念でなりません。コンプガチャは法律的にはアウトな代物だったのでしょうが、その分われわれにも相手を出し抜く機会が与えられていたように思います。またあんな形でいろいろなゲームと自由に取引ができる時代が来れば、と思ってしまうのは私だけではないと思います。


怪しい隣人


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