二人ぼっちの終末世界で繰り広げる日常コメディ 『ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア』が笑えるけど、哀しい

「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第90回は、コージーカタストロフ(心地よい破滅)なマンガを紹介。

» 2018年02月27日 21時00分 公開
[虚構新聞・社主UKねとらぼ]
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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 最近発売されたマンガの中からおすすめの作品を紹介する本連載。今回紹介するのは、「サンデーうぇぶり」にて掲載、山田鐘人先生の終末コメディ『ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア』(全2巻/小学館)です。今月完結2巻が発売されました。

ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア 山田鐘人ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア 山田鐘人 『ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア』第1巻、2巻(全2巻、試し読み)(C)山田鐘人/小学館

 終末を舞台にしたマンガとして真っ先に思い浮かぶ代表格と言えば、暴力が支配する核戦争後の世界を描いた『北斗の拳』でしょう。しかし一方で、同じ終末ものでも、以前この連載で紹介したつくみず先生の『少女終末旅行』(〜5巻、以下続刊)や、アニメ「けものフレンズ」のように、人類滅亡後を舞台にしていてもさほど悲壮感がない作品もあります。後者のようなジャンルを、SFでは「コージーカタストロフ(心地よい破滅)」と呼ぶそうですが、本作もまたそんな心地よい破滅を描いた作品です。

世界に残った二人だけ、による日常コメディ

 本作の主役となるのは、子どものころから人付き合いが苦手で無口な、いわゆる「ぼっち」の博士と、その博士が作ったジト目のロボット少女

 将来の夢が「ロボットを作って友達になること」だった博士が完成させたロボット少女は、博士のことを「ブタ」「泣き顔が気持ち悪い」など、普段からナチュラルに罵倒を織り交ぜてくる随分なS気質。将来の夢がかなって完成させたロボットが毒舌少女というあたりに博士のアレな部分が見え隠れしますが、今は置いておきましょう。ともかく、ビル群にツタが這い、アスファルトに雑草が生い茂る崩壊した日常を舞台に、2人が繰り広げる掛け合いが楽しい作品です。

ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア 山田鐘人 辛辣なロボット少女と博士の日常

 友達がいないことを自虐的にいじる“ぼっちネタ”は今やマンガの定番ですらありますが、本作に登場する博士のぼっちは少し趣が違います。なぜなら、冒頭で書いたように、本作の舞台は隕石の衝突と謎のウイルスの蔓延(まんえん)で人類が滅びた後の終末世界だから。彼は今やどこを見渡しても、相方のロボット少女以外に誰もいない、本当の意味での「ぼっち博士」なのです。

ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア 山田鐘人 第1話、終末世界を徘徊する2人

ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア 山田鐘人

 自宅で過去のテレビ番組を見たり、崩壊した無人の街に出掛けて買い物(誰もいないけど律義にお金は置いていく)をしたり、2人だけの生活を過ごす毎日。博士は自宅の屋上に設置した無線機を通して、誰か生存者がいないか確認しているけれど、これまでのところ全く反応はありません。たまに街中で人の気配を感じても、既に事切れている。そして何より博士自身にも迫る病魔の影――。

 友達ロボットを作ることが夢だった彼にとって、無人のデパート、無人の駅、無人の縁日を唯一の友達であるロボット少女と共に過ごすこの終末世界は、理想郷(ユートピア)なのかもしれません。もっと言えば、自分が作り上げたかわいい女の子ロボットと二人っきりなど、「いかにもなオタクのご都合主義じゃねえか」と思う人もいるでしょう。

 しかし、本作はそんなに単純な作品ではないのです。

笑えるけど、哀しい そして美しい

 既に読んだ方ならお分かりのように、1ページコメディである本作の底に漂うのは、理想郷のぬるま湯ではなく、哀愁と皮肉です。Sっ気全開の罵りツッコミが際立つ2人のやりとりは笑えるけれど、どこか哀しい。喜劇というより、悲喜劇に近い感覚とでも言えばよいでしょうか。

 デパートでの買い物、遊園地での1日、学校での学生ごっこ――。どれも平和な日常世界なら純粋なネタとして楽しめます。しかし、このシチュエーションの頭に「無人」という接頭辞をつけるだけで――無人デパートでの買い物、無人遊園地での1日、無人学校での学生ごっこ――、本作の物悲しさを感じてもらえることでしょう。

 この寂しい美しさが味わえる名場面を1つ挙げるとすれば、誰もいない神社の境内で縁日を楽しんだ博士とロボット少女が、帰り道にホタルの舞う川辺を歩くシーン(1巻第15話)がお気に入りです。

 「昔はホタルが生息できるような水質の川じゃなかった?」

 「――そうか。人類が滅んだから…

 「きれい。

ぼっち博士とロボット少女の絶望的ユートピア 山田鐘人 人類が滅んだおかげでホタルが舞う美しい川になったという終末世界ならではの哀愁

 ほとんどしゃべらない博士とほとんど感情を顔に出さないロボット少女の抑制的なやりとりだからこそ、余計に引き立つ哀しい美しさです。

 もう世界にひとりぼっちなのではないかと落ち込む博士に、ロボット少女がかける「博士は人類がいようがいまいが、ひとりぼっちじゃないですか」という彼女ならではの励まし、無人の書店で見つけた「今年人類は滅びる」という見出しのオカルト雑誌、将来掘り出してくれる人がいるのかどうかも分からないのに埋めるタイムカプセル――。1本1本で見るとふふっとなる笑いなのに、それらを積み重ねた作品全体として眺めると、読後感がとても切なく響きます。

 そして、本作の大きなテーマの1つである「幸せとは何か」。誰にも邪魔されない二人きりの世界で、理想の友達ロボットと日常を過ごすことが果たしてユートピアなのでしょうか? 初めて手に入れた親友である彼女との生活を通じて、博士は、平和だった時代に気付かなかったたくさんのことを気付かされます。

 「僕はいつも一歩遅い。人間が滅んでからその幸せに気がつくのだ。

 ロボット少女に罵られながら変わっていく博士の心境と、この絶望的ユートピアに訪れた結末をぜひご覧ください。

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

(C)山田鐘人/小学館

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