東京五輪マスコットはなぜ小学生投票で選ばれたのか 審査会が語る「意思決定の難しい時代」の1つの在り方
審査会メンバー「納得感を社会でどう醸成するかは、今の時代非常に難しい課題です。」
2月28日、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(2020東京大会)のマスコットキャラクターのデザインが決定しました。最終候補3案の中から全国の小学校1万6769校のクラス投票により、フリーイラストレーターの谷口亮さんによる「ア」案が選定されました。
今回の選考で画期的だったのは、最終的なデザインが小学生の投票により決定した点。28日に品川区立豊葉の杜学園で行われたマスコット小学生投票結果発表会で、マスコット審査会のメンバーがこの選定方式を選んだ経緯について説明しました。
マスコットの選考では2017年8月1〜14日にデザインを公募し、集まった計2042作品から、専門家によるデザインチェック審査、マスコット審査会メンバーによる一次審査・二次審査をへて、3案を選定。12月11日〜2018年2月22日に全国の小学校がクラスごとにディスカッションしながら最終投票を行いました。特別支援学校や外国人学校、フリースクール、海外の日本人学校も対象となり、計20万5755クラスが投票。ア案:10万9041票、イ案:6万1423票、ウ案:3万5291票と、2位に大差をつける形でア案が選ばれました。
小学生の投票という選定方式について、マスコット審査会メンバーの1人、ドワンゴ取締役の夏野剛さんは「意思決定の難しい時代」という側面から次のように述べました。
「新しい時代、これだけインターネットがあり、メディアの報道も速い時代において、こういうものの意思決定の仕方に、今回は1つの在り方を提示できたのであればいいなと思っています。というのも、専門家だけで選ぶ方がいい場合もあるし、あるいは民意を問う場合もある。やっぱり納得感を社会でどう醸成するかは、今の時代非常に難しい課題です」
「今回はマスコットということで、特に子どもが受け入れられるものという命題をもらっていたので、だったら小学校、しかもクラス単位の投票という形式に至りました。決めることの内容によってきちんとみんなが納得しやすいプロセスをとる大事さを、今回子どもたちの反応を見てあらためて感じさせてもらいました」
マスコット審査会で副座長を務めるファッションジャーナリストの生駒芳子さんは「専門家が選ぶ方法も当然ありました」と踏まえつつ、次のように説明しています。
「やはり未来を決めていくのは子どもたち。さらにマスコットという領域は常に新しいものが出てきますが、その最先端にいるのが子どもたちであり、とりわけちょっと物心がついていろんなことが知覚でき、感性が一番フレッシュな小学生の方々ではないかと、みんなで討議した結果決定しました」
「今までのオリンピックで、小学生がマスコットキャラを選ぶケースは無かったと思うんです。前回の日本の夏季オリンピックではマスコットキャラはいなかったわけですので、日本の夏季オリンピック史上初めてのマスコットキャラ。それを未来に向かう子どもたちが選ぶということで納得しました」
また夏野さんは今回の投票審査を通して、「日本の教育制度の良さをすごく感じました」と振り返ります。
「教育委員会、文部科学省がいることで、必ず全ての学校に連絡できる。それぞれに資料を届けて、反応をいただけるネットワークがきちんとできていること。普通の国ならこんなに細やかに短い時間で新しい事柄に対して準備はできないと思います。日本の教育システムのすごくいいところが再発見できました」
「子どもたちが国レベルで主体的に決められることってほぼ無いと思うんです。今回クラス単位のディスカッションによる投票でマスコットが決定したことで、未来永劫、今の小学生の心のなかに『自分たちで何か決められるんだ』という認識が残るのは、大きな財産になると思っています」
マスコットキャラクターをデザインした谷口さんは子どもたちに選ばれたことについて「素直にうれしいです」と笑顔。「リオ五輪閉会式のパフォーマンスをイメージしながら、近未来と伝統をうまく融合したものが日本らしさ、東京らしさになると思って描きました。今まで何もこういう賞を獲ったことがないので、夢じゃなかろうかと思っています」
キャラクターの名前は6月から選定が始まり、7〜8月に発表される予定。谷口さんは制作中、特にキャラクターには独自の名前も付けていなかったと告白し、「ぴったりな名前が決まってくれたらいいなと思います」と期待を口にしました。
(黒木貴啓)
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