“独りぼっちの絵描き”が生み出した逸物 中澤一登、「B: The Beginning」を語る(1/2 ページ)
「僕は第一に絵描き」と話す希代のアニメーター、中澤監督が明かす秘話。
「攻殻機動隊」などで知られるProduction I.G制作のNetflixオリジナルアニメ「B: The Beginning」(全12話)が3月2日に全世界配信されました。
監督は中澤一登さん(共同監督に山川吉樹さん)。映画「キル・ビル」のアニメパート監督を始め、数多くのアニメ作品で作画監督や原画、キャラクターデザインなどを手掛け、完成度の高いアニメにしばしば名前がクレジットされている希代のアニメーターです。
そんな中澤さんが監督だけでなく、原作やキャラクターデザイン、総作画監督も担当した同作は、群島国家クレモナを舞台に、王立警察特殊犯罪捜査課(RIS)に復帰した伝説的捜査官キース・風間・フリックが、凶悪犯罪者ばかりを狙う連続殺人鬼、通称「Killer B」を追うさまを描いたクライムアクション。
賢いだけのリアリストであるキースに、理解を超えたファンタジーが次々と襲いかかり、謎の少年・黒羽(Koku)との運命が交錯していく物語は、海外ドラマとファンタジーが絶妙に融合したような内容で、Production I.Gと中澤さんの魅力が十二分に感じられます。
Netflixオリジナルアニメとしても話題の同作の配信を記念し、中澤監督に話を聞きました。
“絵描き”才人が漏らした意外な本音
―― 中澤さんが長編で原作、監督、キャラクターデザイン、総作画監督と幅広く関わる作品はこれが初ですよね。企画のスタートは?
中澤 前の仕事が終わって、「ダークヒーローやりたい」というオーダーに「そうかい。何でもいいよ」と(笑)。
―― 強い(確信)。仕上がったものはクライムサスペンス色も強く出ていますよね。
中澤 ダークヒーローを作っていたつもりなんですけどね(笑)。最終的にクライムサスペンスのようになったのは、多分、アクション(シーン)を描くのがめんどくさかったんでしょうね(笑)。
―― またまた。作中のアクションはどれも疾走感があって、銃撃も斬撃も最高に映えてました。中澤さんというと私にはアニメ「黒子のバスケ」OPが印象的で、神がかった“一人原画”で孤高にクオリティーを上げていく人物をイメージしていました。
中澤 違います違います。一人というか、独りぼっちです(笑)。これまでの仕事も独りぼっちなことが多かったものですから、いろいろな人に伝えるための十分な語彙(ごい)も持ち合わせていなくて。一般的な監督さんと違って、絵も描く、描かなきゃいけない。今回はコンテも描けたので、コンテ段階で絵の決め込みがある程度できたのはよかったですが。
―― もしかして今作でも一人原画を……?
中澤 いえ、「B: The Beginning」で僕が担当したのはほとんどないんです。関わってくれるスタッフは基本全て信用していますし。自分がやれることが多いのも恐らく事実ではありますが、それは人の何倍も働かなければならない。今作でも、仕事量を見積もってみると「一回ぶっ倒れるなこれ」と想像できたんです。実際、「何でできるだなんて思っちゃったんだろう俺」と思いながらやっていましたし(笑)。それをみんながサポートしてくれたと思います。
―― 山川吉樹さんとの共同監督となっているのはどういったいきさつで?
中澤 独りぼっちにならないようにしてくれたのでしょう(笑)。というのは話半分ですが、仕事量から考えて、保険ではないですが何かあったときにケアできる体制にしておきたかったのと、僕、とてつもなく意志が弱いので、誰かに確認してもらってからでないと世に出せるようなものにはならないと思っていて、そこは自分と全く別のタイプの人に見てもらった方がいいという判断もありました。
―― 監督という立場で広く作品に関わってみていかがでしたか?
中澤 監督というのは、悪い言い方をすれば雑用みたいなもので、正直に言えば利点は1つもないです(笑)。単純に仕事量が増えるのと、そもそも全てを見渡せるわけではないので。ただ、そういうのは今にはじまったことではないですし、とにかく(制作)時間をコントロールしなければならなかったので、やる人を探す手間を考えれば「分かった、俺、やる」という感じでした。
―― なぜ中澤さんはそんな過酷な仕事量に向き合うのですか?
中澤 自分がやりたいと思ってやっていることだからというのもありますが、根本的には、それをやらないと自分が仕事をしたという感覚になれない、からですかね。
話を戻すと、そういった背景もありつつ「アクション描くのやだな」と思ったのでしょう(笑)。ただ、“緊張感”というものに関していえば、心理劇でもアクションシーンでも同じような感覚を得られるのではないかと思っています。
僕は第一に絵描きで、イマジナリーライン(想定線)みたいな演出論だったり、物語を作る上でのセオリーなどの知識を持っていないし、そもそも興味がないんです。ただし、絵描きとしては、原画を描いたり画面を作っていくこと自体は何を作るのでも一緒だと思います。
黒という“色”をモチーフにしたものを作ってみたかった
―― 話を作品の方に移していきたいと思います。最初の発表時は違う作品名でしたよね。最終的に残した設定もあれば、変えたり削ったりした部分もあると思うのですが、最初から変わらない核は何だったんですか?
中澤 最初の企画書から壮絶に話が変わったりもしましたが、残さなければならなかったのは、黒羽です。黒という“色”をモチーフにしたものを作ってみたかったので。
―― 黒という色、ですか。
中澤 和装の礼服の黒は他に類を見ないくらい黒いんですが、実際には全部の染料を混ぜて作り出しているんです。僕が油絵をやっていたときにも似た気付きがあって、“いろいろなものが交じると黒になる”という感覚が面白く、それが意外に知られていないなと思ったんです。
―― 作中でも黒は全ての色を混ぜ合わせる王の色として語られていますね。そうしたモチーフを持った作品が最終的な形になっていく中で肝となったのは?
中澤 作るために人も時間も予算も要る中で、なるべく「きれいに見せる作り方」、特に絵と音は“きれいに作りたい”と思っていました。ミスってもいいからとにかく進めて失敗したら直すようにしたら今の形になりましたね。
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