思わず息を呑む「樹脂で作ったクジラ」の美しさに絶賛の声 製法や苦労を作者に聞いた

クジラの迫力がすごい。

» 2018年03月14日 08時00分 公開
[関口雄太ねとらぼ]

 青く透き通る樹脂で作られたクジラ、その体内に沈む古びた船体。造形作家、山田勇魚さんの作品が持つ美しさや世界観に惹かれる人が続出、紹介ツイートの拡散が続いています。



樹脂クジラ 山田勇魚さん

樹脂クジラ 山田勇魚さん

樹脂クジラ 山田勇魚さん

樹脂クジラ 山田勇魚さん

 山田さんは2016年に「輪廻」という作品で、6つのクジラを制作して以降、樹脂で作られたクジラ作品を発表してきました。透き通ったクジラの美しさと、その体内に封じ込められた世界観に魅力を感じます。クジラの中に沈んでいるものは作品によって異なり、それぞれ意味を持っているそうです。例えば、廃艦が沈んだクジラについて山田さんは、「多くの戦没者と共に沈んだ戦艦の魂が、鯨の姿となって港に帰っていくというストーリーで【帰港】というタイトルをつけました」と過去のインタビューで語っています。

 山田さんの作品がもつ世界観に惹かれる人は日本国内にとどまらず、海外のTwitterアカウントでも紹介されています。




 公式サイトによると、山田さんは「九十九神」をテーマに作品を制作しているそうです。作品のテーマについて「九十九神とは日本に古くから伝わるアニミズム的な観念で、長い年月を経た道具や生き物を寄り代にして神や霊魂が宿るとされるものです」と説明しています。樹脂のクジラとは雰囲気が違いますが、くちびるのついたテレビや耳と口がついた黒電話の迫力もすごい……!


樹脂クジラ 山田勇魚さん 「道具が生きているかのような印象を鑑賞者に与えます」(山田勇魚Strikinglyより)

樹脂クジラ 山田勇魚さん 「私は使われなくなった道具を寄り代にして新たな九十九神を生み出しています」(山田勇魚Strikinglyより)


命の流転、器物に宿る魂。「クジラは輪廻をめぐり、抜け出せない魂の器」

 話題になっていた樹脂クジラたちはどのように作られたものなのか、山田さんにお話をうかがいました。

―― 樹脂を使った作品に取り組まれるようになったのはいつごろからで、どのようなことがきっかけでしょうか。

山田:樹脂を扱い始めたのは2015年初旬からです。修了制作でやりたい表現に適した素材を色々と試した結果、行き着きました。

―― クジラの中に入れるモチーフはどのように選んでいるのでしょうか。

山田:写真の作品は東京藝術大学の修了展で発表した「輪廻」です。6頭のクジラの内部に仏教の六道輪廻の世界観を表現した作品で、それぞれ地獄道は海底火山、餓鬼道は飢えたシロクマの骨、畜生道は牢獄、修羅道は桜花、人間道は沈船、天道は空を中に入れています。


樹脂クジラ 山田勇魚さん 「仏教における六道輪廻を題材にした立体作品」(山田勇魚Strikinglyより)

樹脂クジラ 山田勇魚さん 「地獄道は罪を償わせるための世界」(山田勇魚 修了制作【輪廻】より)

樹脂クジラ 山田勇魚さん 「地獄道→海底火山」(山田勇魚 修了制作【輪廻】より)

―― 1つの作品を仕上げるのに掛かる時間を教えてください。

山田:この作品は実験を含め6体で約1年かかったので1体につき約2カ月でしょうか。1体のサイズは75cmほどです。磨く作業が特に大変で、手磨きで2週間ほどかかります。

―― なぜメインのモチーフの多くにクジラを選んでいるのでしょうか 。

山田:海を自由に泳ぎ回るクジラですが、哺乳類でありながら陸に近づきすぎると座礁して死んでしまいます。この有様を輪廻の輪を巡りながらも抜け出すことのできない魂の器に見立てました。また、自分の名前が日本の古語でクジラを意味する「勇魚(いさな)」だったので大学での活動の集大成として修了制作ではクジラをモチーフにした作品にしようと決めていました。

―― 樹脂作品はどのようにして作られているのでしょうか。彫刻から型を作り、樹脂を流しているのかと思ったのですが、継ぎ目が見当たらないので驚きました。

山田:原型を作り、シリコンで型取りして樹脂を流し込んでいます。内部でモチーフを配置するための覗き穴を作るなど、通常の型取りと比べ分割方法が複雑です。硬化後に荒削りし、気泡があればスポイトでエポキシ樹脂を注入して穴埋めします。その後、耐水ペーパーで80番から3000番まで水研ぎし、最後にコンパウンドで仕上げます。全て手磨きです。

―― 「輪廻」以外で気に入っている作品はありますか。

山田:ビジュアルは似ていますがコンセプトの違う「帰港」シリーズもあります。こちらは沈船に宿った九十九神(つくもがみ)がクジラの姿となって故郷の港に戻ってくるという作品です。九十九神とは日本の民間伝承の一種で、長い時間を経た器物や生物に神霊や魂が宿ったものの総称です。九十九神をテーマにした作品は2011年から制作していて、2014年に学部の卒業制作で発表した「九十九神の部屋」は昭和レトロな空間を丸ごと九十九神にした作品です。


樹脂で作られたクジラに魅了される人が続出! 山田勇魚さんに世界観を伺った 「勇魚(いさな)は日本の古語で、クジラを意味します」(山田勇魚Strikinglyより)

樹脂で作られたクジラに魅了される人が続出! 山田勇魚さんに世界観を伺った 「沈没船の九十九神」(山田勇魚Strikinglyより)

 今後の山田さんの個展は以下の予定で開催されます。


桃源郷芸術祭

3月14日(水)〜18日(日)

茨城県天心記念五浦美術館

http://tougenkyo-art-fes.jp/



山田勇魚個展「From Tee Seabed」

3月26日(月)〜4月25日(水)

蔦屋書店2号館 1階 ギャラリースペース

http://real.tsite.jp/daikanyama/event/2018/03/from-tee-seabed.html



105°

4月13日(金)〜24日(火)

Art Trace Gallery

https://t.co/Wl3k4QM4BR



画像提供:山田勇魚(@yamadaisana)さん




Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた